エピローグ4
朝、目覚めたくないと二重の意味で思った。
スッキリしすぎる頭が昨日の出来事を鮮明に思い出させる。
僕は何をやっているのだろうか。
片手で顔を覆う。
酒は飲んでも呑まれるなっていつもは口を酸っぱくして言ってる立場が呑まれてるし。
年下の婚約者に甘やかしてもらいましてや最後は縋るなど恥ずかしすぎる。
いっそ殺してくれ。
そして極め付けは腕の重み。
横を向くとすやすやと僕の腕枕で眠るミネルバの姿があった。
幸せでおきたくないのと、やらかしてる事実に起きれない。
ああーくそーかわいいなーもう。
意を決して布団を捲ると、豊かな胸とそこに散らばる赤い痕。
思い出したくないが、それだけじゃ飽き足らず身体じゅうにつけた。
やってしまった。
弁明のしようがない。
血に負け欲望に負けた。
あの時抑えきれいのもあった、言ったことがすんなり叶った。
欲しい言葉をたくさんもらい浮かれてた。
浮かれすぎて、あの後もミネルバは大変だっただろう。
早々にパーティー会場を抜け出したが、帰る馬車の中でもキスをし、ついてからもべったり引っ付き、挙げ句の果てにベッドに連れ込んだ。
一線は越えなかったもののスレスレだった気がする。
いやそれも片足以上ダメな方に突っ込んでいるけど。
ミネルバの哀れもない姿といつも聞けない甘い声を思い出し、慌ててかわりに義弟たちを思い出す。
あいつらいらんことしてないといいけど。
きっかけをつくるのは妹だが、事を大きくするのは義弟たちだ。
巻き込まれる身にもなって欲しい。
ため息をついたところで、横がモゾモゾ動いた。
起きたのだろうか。
ミネルバの方を向き、顔を合わせる。
「おはよう」
「おはようございます。あの私昨日変でした?」
「そんなことはない!
昨日変だったには僕の方で、君には散々迷惑かけて申しわけぬ」
謝ろうとしたらミネルバの人差し指が口に当てられ塞がれる。
「謝っていただくことはございません。逆に惨めになります」
「わかった。僕がいうのも何だけど、こういう時は抵抗していいんだからね。
好きにさせると大変なことになるってわかっただろう」
「どの口がお言いですか」
この口です。
まったく、その通りだ。
ため息が出たところ、キスされた。
びっくりしすぎて固まる。
「…ミネルバ」
「あら、ため息をおつきになる方が悪いのです。
普通の女なら自分が悪いのかと思ってしまいますよ」
ミネルバの指摘にもっともだと納得するが、キスはいただけない。
「君はもう少し自分を大事にした方がいい。
安売りするものじゃないよ」
「そっくりそのまま返しますわ。
それに私、安売りなどしておりません。
あなただから、アドニス様だから受け入れたんです。
そうでなければ指一本服にさえ触らせません」
君はどうして僕のこと煽るのが上手なんだ。
「ダメですよ」
ミネルバから静止がかかる。
意味がわからず首を傾げていると、手の甲をつねられた。
「不埒な手ですこと」
「いや違う、違わないけど今のは無意識でって余計悪い気がする」
いつのまにかミネルバの腰からお尻のラインをなぞっていた。
うん、起きて離れよう。
またため息を吐きかけたところでキスされる。
「…だからミネルバ」
「私も言いましたよ、ため息をつかれたのでおねだりされているのかと」
ミネルバはしれっと言ってのける。
強い。前から思っていたけど、僕がどうこうしなくても大丈夫だったのではないか?
いっそ僕がいたせいでミネルバは僕みたいなやつに捕まってしまったのでは?
またキスされる。今度はため息ついていないのだが。
「余計な事をお考えですね。
アドニス様がいいのです。何をそんな不安になられているのですか。
アドニス様がいい、それ以外は嫌だ。
ここまで申しているのです。何がご不満なのですか?」
「君に不満などないよ。
ただ僕みたいなやつに捕まって君は幸せなのかと」
「私、不幸な顔していますか?」
「いや、どっちかというと幸せそうだね」
「はい幸せです。
それが答えですよアドニス様。
虚無の私など見ないで、現実の私を見てください。
私も意外と嫉妬深いようなのです」
そう言ってまたキスしてくる。
されてばかりだと癪なので、追いかけてこちらからキスをした。
ミネルバと違い深く口づける。
「アドニス様、また後悔しますよ」
「そしたら君が慰めてくれるだろう」
頬に髪にキスを贈る。
「仕方ない方」
とミネルバが困ったように笑うが瞳に熱がこもっているのを見逃さない。
誰かが呼びにくるまでキスを贈りあっていた。
サンルームの暖かな日差しの中互いにソファーに座り、二人遅めの朝食という名のお茶会をしている。
そして僕は絶賛後悔中だ。
向かいに座ったミネルバしれっとした顔で紅茶を飲んでいる。
肝がすわりすぎてない?
「恥ずかしいのはわかりますがそう後悔ばかりされますと私に問題があるのかと思います」
「それはない!」
思わず立ち上がる。
目が座るように促された。
静かに、だが居心地悪く座り直した。
「何に後悔なされているのです?」
「いや、その歯止めが効かない自分が情けないというか」
ミネルバが勝ち誇った顔をする。
「それは私が魅力的すぎるという事ですね。
いいことではないですか。
情けなくなどないです。仕方ありません。
殿方はおっぱいに勝てないとよく兄が言ってました」
紅茶を吹き出しかけてしまう。
ギリギリのところで飲み込んだから大事にならなかったが、かわりにむせた。
この兄妹なんて話をしてるんだ。
どういう話題でそう答えたのか知りたいが知りたくない。
「大丈夫ですかアドニス様」
「大丈夫、大丈夫。あのねそういう話は」
「アドニス様、手を」
説教しようとしたら名前を呼ばれたのでやめる。
手?素直に差し出す。
向かいに座っていたミネルバが僕の横に座る。
僕の手を取り、あろうこうとかミネルバの胸に押し当てた。
「え?え?」
頭が混乱する。
とりあえず辺りを見まわし助けを求めたがいつのまにか誰もいなかった。
いつのまに?なんで?え?これは罠?
「おっぱいお嫌い?」
「いやあの」
「お嫌い?」
「き、嫌いじゃないけどそのね」
「じゃあお好き?」
「……す、好きです」
ですよねーって手を離してくれた。
距離は近いままなので、ソファーの端にのけぞる。
「まぁお可愛いこと」
猫みたいに笑う顔を見て、「ああそうか君にはどうやったて勝てないのだ」と確信する。
僕のぐだぐだの悩みなんて君は笑って吹き飛ばすのだろう。
そんな未来も悪くないと思えた。
君が幸せなら僕も幸せなんて安い言葉を誰よりも今は真剣に君に贈りたい。
僕は諦めたのに君は大事にしてくれた。
ありがとう。
だけど臆病な僕はどれも言葉にして伝えられなかった。
なので君の手の甲に一つキスを贈る。
ミネルバは頷き満足そうに笑った。
つられた僕も笑う。
後ろ向きぐちぐちお兄様と前向けゴーゴーのミネルバ




