私の小さな婚約者
酔ったアドニス様の魔力をたどるのは簡単だった。
庭園の隅っこのガボセまで来て、中を覗く。
中の備え付けの長椅子に大きな体を膝をかかえ小さく丸まって座っている。
私がきたことには気づいているようだが、反応がない。
ええいと女は度胸で横から覆い被さるように抱きしめる。
ビックと反応され、すぐに引き離された。
「ダメだよ。こんなとこ誰かに見られでもしたら」
「見られて何になるのです。
私達婚約者です。何もやましいことはありません」
アドニス様は目を逸らす。
いつまで経ってもこの人はと呆れる気持ちと守ってあげたい気持ちが両方込み上げてくる。
「君は妹で僕は兄だから」
「いいえ、私達は兄妹ではありません。婚約者です」
「でも、君とはごっこで」
「アドニス様が勝手に言ってるだけです」
強気に出てもいいはずだ。
ここでアドニス様のお考えを変えていただかないことには私たちの仲は進展しないと思う。
いや進展させる気がこの人ないのだ。
そんなのは私が許さない。
「私のこと顔も見たくないほどお嫌いなら諦めます」
顔を両手で頬にてをやりぐいっとこちらを向かせる。
綺麗な顔が困っているのはなかなか庇護欲をそそる。
「嫌いじゃないよ」
「じゃあちゃんと目を見る」
相変わらず目を逸らすので、叱る。
右往左往して私の方を恐る恐る見た。
「何をそんなに怖いことがあるのですか?
私が怒ったところでアドニス様にとっては子猫の怒りとかわらないでしょうに」
「君は綺麗になった。でも僕の目はかわらない。おぞましいだろう」
「?」
素で首を傾げてしまう。
「私、アドニス様の瞳が悍ましいなど言った覚えはございませんが」
「嘘だ」
「嘘ではありません、いつも言ってるではありませんか。
綺麗な目だって」
「それはお世辞か何かで本当は君も思っているのだろう」
ああもうこの人は。
頬に当てていた手を頭に回し自分の胸へと引き寄せた。
綺麗な髪をすきながら頭を撫でる。
「誰かに言われたのですね。
私は思ってもおりませんよ。嘘ではございません。
アドニス様、大丈夫です。私がそばにいますからね」
なすがままのアドニス様から小さく嘘だと聞こえた。
アドニス様の心は傷ついて泣いているように思えた。
小さい子みたいに助けてって手をのぼしているのだろう。
「嘘ではありません」
「でも君も飽きてどこかに行くだろう」
「アドニス様の方が私に飽きてどこかに行かれるのでは」
「それはない。僕の血がどんなに執着の塊か知ってるだろう」
「血がどうのなど知りません。
私が知ってるアドニス様はガーデニング一週間で飽きて魔法で誤魔化した方です。
読みたいって言って借りたのに一章でやめてしまう方です。
お菓子作りしようって材料持ってきたくせに、開始早々侍女と私に丸投げした方です。
まだまだありますけど執着のしの字もございませんでした」
「耳が痛い…でも」
まだウジウジしますか。
「でもではありません。
私は都合の良い女などなりません。
私と添い遂げるか、それとも解消するかです」
「君に負担をかけたくない」
ほう、今度はそうきましたか。
撫でるのをやめ、顔を上に向かせる。
「私が他の男の元に行っても良いのですね。
他の男と腕を組み、ダンスをしようとて今まで通りできますね」
「ずるい、できるわけない」
ずるいのはどの口が言うかまったく。
「でも君にはさっきあの男がいただろう。
やっぱり僕よりいい人がいるんだ」
?
思い当たる節がなさ過ぎて間を開けて考える。
ああ、セドリックのことか。
「セドリックとは」
手で口を塞がれる。
「男の名前聞きたくない」
こうも嫉妬するくせによくもまぁ兄などと言えたものだ。
嫉妬が嬉しいと感じる私も私だけど。
こくりと頷くと離してくださった。
「あの方は私の隣にいた友人が好きなのです。
私を話すきっかけにしないとおしゃべりもまともにできませんの、可哀想な方ですわ」
「……それでも君が心変わりしないと言い切れない」
こうも疑い深いと堪忍袋が切れても良いと思う。
というか切れた。
思いっきりキスをする。
うるさい口を黙らせてやったぜですわ。
「な、何して」
まるで少女のように真っ赤になるものだから、私の方がいけないことした気になる。
だがこれだけは言っておく。
「アドニス様が私をとーっても好きだと言うことがわかりました。
飽きられたくないなら、飽きられぬよう努力なさいませ。
もちろん私も努力します。
それでもダメな時は、また考えれば良いのです。
起こってもないことをぐだぐだしてもしょうがないでしょうに。
良いですか、アドニス様、私はアドニス様を愛しておりますわ。
アドニス様はどうですか?」
ここまできて逃げるなら泣きますよ本当に。
「…僕も」
「目を逸らさず、僕もではなくアドニス様の気持ちはどうですか」
「ミネルバ、僕も愛してるよ」
もう一度抱きしめる。
今度はおずおずと背中に手が回った。
どれくらいそうしていただろう、夜風で冷えてしまったのだろうクシュんと一つくしゃみする。
「ごめんねミネルバ、これを使って」
そう言って着ていたジャケットをかけてくださった。
アドニス様の良い匂いがする。
匂いまで良いとは再度嫉妬していたところ、なぜかアドニス様の膝に乗せら腰に手が回る。
ねぇっと上目遣いで声をかけられれば返事しない者はいない。
「ミネルバ、もっとこっちにきて。
もっと引っ付こうよ寒いでしょ?」
美人の甘えた声ってなんて破壊力何だろう。
有無を言わさず言うこと聞いてしまう。
「ミネルバー?キスしていい?」
「誰かに見れでもしたら」
「婚約者だから大丈夫って言ったのはミネルバだよ」
ずるい。婚約者のアドニス様はこんなに甘いのか。
しれっと嬢が抜け名前よびだ。
早まった気がしてならないが、頷くかわりに目を閉じる。
腰に回っていない方の手が頬に添えられ、チュッと音をさせながらキスをする。
目を開けるとアドニス様の綺麗な顔が近づいてきたので慌てて閉じる。
何度も唇に頬に額にと数え切れないほどキスを贈られる。
「ア、アドニス様そろそろ」
「んーそうだね冷えてきたもんね」
と言いながら私の髪にキスしてた。
これはいつ止めたら良いのだろう。
嫌ではないが嬉しいより気恥ずかしさが勝る。
「アドニス様」
「もうちょっとだけ、ねっ、離れ難いんだ」
その顔はずるい。
学習能力が高いからか、どう言う顔をすれば私が言うこと聞くってわかられてる気がする。
いや確信犯だこれ。
「もう少しだけですよ」
「ありがとう。そうだ、ミネルバこれからの話しよう」
「これからとは?」
婚約者で話はまとまった気がするのだが。
うーんとりあえずうなじの匂い嗅がないでほしい。
自分ではわからないが臭くはないと思うけど、嗅がないでほしい。
「僕がこっちきても良いし、ミネルバが僕の国にきてもいいよね。
侯爵を妹達に任せて隠居するのもいいねー」
「隠居は早すぎます。
お家を継がなくてもよろしいのですか?」
そのために勉強もいっぱいされただろうに。
またキスがふってくる。
ちょっと諦めてきた。
「別にー僕はミネルバが一緒なら何だっていいよー。
ミネルバが侯爵夫人したいならそれでもいいし、荷が重いなら適当な爵位買ってその地を治めればいい。
だって僕神だからねーミネルバのためならこの地位も悪くないね」
と笑いながら口にキスされる。
これはなかなか気を引き締めないといけないのでは?
私の一存で国が傾きそうな気配がするのは気のせいであってほしい。
「とりあえず結婚しましょう。
その後の行く末はおいおい決めましょう」
逃げた。だってケーキを選ぶみたいに軽く言われても無理だ。
とりあえず未来の私に丸投げだ。
「じゃあ結婚式するまで僕の家においで」
アドニス様の瞳がギラギラしてる。
ああこれ竜の血出てますね。
自分の巣に獲物を持ち帰りたくて仕方ないのだろう。
別に嫌ではないので頷く。
「本当にいいの」
おおー頑張って血に逆らってる。
「いいですよ。アドニス様のですから」
たぶん言ってほしいだろうなと思っていたことを言うと、当たりだったみたいで良い笑顔で押し倒された。
失敗しました。
「ふふ僕のだ」
おおーとこれは危ない気がする。
日頃から我慢しすぎのくらいがあるアドニス様。
副作用とお酒で今まで積もっていた分が一気にきた様子。
何かいらない許可を与えてしまったかもしれない。
「ねぇ、痕つけたい」
「それは…」
「見えないところにつける。僕のって言う証が今ほしい」
長年の不安がすぐはれるわけない。
仕方ない方。
甘えるのは本当に下手なのだから。
「少しだけですよ」
不安顔が一変してとろける笑顔になる。
少し悩んで決めたらしい。
まぁチョーカーの下だろうと思っていた私は度肝を抜く。
あろうことか胸の布をずり下ろされた。
首まで詰まってはいないが、夜会用なのでそれなりに鎖骨が出ている。
それを躊躇なく下げられた。
胸の半分までは行かないが夜風に晒される。
驚き過ぎて抗議を忘れていた。
その間に嬉しそうに胸にキスをしている。
「意外とつかないね。
もっと強くかな?」
「ア、アドニス様何を」
「つけて良いって言ったのはミネルバだよ」
「ですがそんなとこいきなりさげる人がいますか!」
「んーここにいるねー」
ちくりと痛みが走ったのと、チュッと音が鳴るのは同時だった気がする。
やっとついて味をしめたのか、何箇所もつけられた。
恥ずかし過ぎて息が上がる。
「アドニス様」
強めに彼の名前を呼ぶとようやく止まった。
私は怒っているのに、嬉しそうだ。
衣服を直され、何事もなかったようにエスコートされる。
「ねぇミネルバ、また」
「ダメです」
「まだ何も言ってないよ」
「さっきのは婚約者の域を超えております」
しゅんとするが譲れない。
こんなのまたとか私の心臓が持たない。
あまりに項垂れているので
「キスくらいなら」と言ってしまった。
今までが嘘のように嬉しそうに私の指にキスしてきた。
砂吐き回_:(´ཀ`」 ∠):




