私の小さい心
あれから数日に分けて魔力を渡し続けやっと元気になったアドニス様と、身体の機能回復のため庭を一緒に散歩する。
「アドニス様、きつくはないですか?」
「大丈夫だよミネルバ嬢、まだ10歩しか歩いてないよ。
何だかおじいちゃんになった気分だ」
笑い事じゃない、三週間も寝たきりだったのだ。
身体が弱っているので無理は禁物だ。
そこまで広くない庭なので目的地のガボセにすぐ辿り着く。
事前に準備させていたお茶を二人で楽しむ。
いい加減デビュタントのこと切り出さないと。
少し俯き、決意を決め、アドニス様の瞳を真剣に見つめる。
「あのアドニス様、お願いがあるのですが」
「……何?」
アドニス様の声が少し硬かったので、怯んでしまった。
ええい女は度胸だ。
再度気持ちに喝を入れ向き直る。
「あの、よろしければ私のデビュダントのパートナーをつとめて頂けないかと」
「むしろ僕でいいの?」
「?はい、私はアドニス様がいいのです」
「…そう。わかったよ。
ただ僕、今、体調はいいんだけど、魔力欠乏の副作用からか感情というか血の制御が緩くなってるみたいなんだ。
欲望のままにってわけじゃないけど、敵だと思ったら攻撃しちゃうし」
「?敵は攻撃してもいいのでは?」
「そうなんだけど、そうじゃなくて、好きなものばかり食べてしまったり、ああなんて説明したらいいかな。
とりあえず感情の起伏が大きくて固執や執着が出やすいのだけど」
「よくわかりませんが、大丈夫ですよ。
アドニス様のお好きになさっていいのです。
あ!でも他の女の方を侍らせたいやら、ハーレムを作りたいはごめん被りたいのですが」
「それは大丈夫。絶対にない」
言い切ってくださったのでホッとする。
緊張して喉がカラカラだったので紅茶で潤す。
「そうだ、デビュダントのドレスができました。
白地に金の刺繍を入れた貰ったんですよ。
何でもお隣ではパートナーの色を入れるのが流行っているとか」
アドニス様が何か慌てたのか紅茶でむせられた。
「大丈夫ですか?!」
「大丈夫、大丈夫。誰に聞いたの」
「エレーナ様のお手紙に書いてありました。
ロマンチックですよねー」
小声だったがエリーめと渋い顔された。
「そうですよね、勝手に申し訳ございません。
お嫌ですよね」
「あ!いやそんなことないよ。君のドレス姿楽しみだ」
本当は嫌なんだろうなと察したが、申し訳ないが一もう一つ嫌なことを押し付ける。
「似た文化なのですが我が国でもパートナーと自分の色を一色ずつ取り入れたアクセサリーをお揃いで身につけるというのが風習で」
といい侍女に小箱を出してもらった。
中を開けみせる。
プラチナで作った百合の花にパールをあしらったお揃いのブローチ。
綺麗だが申し訳なさが勝る。
「大丈夫身につける」
「無理はなさらなくても」
「無理じゃない」
何故かムキになられている。
これが言っていた副作用かな?
何というか可愛い。アドニス様の新しい一面を見れてトキメキが止まらない。
緩やかにお茶会をしながら当日の打ち合わせをした。
あっという間にデビュダントの日が来た。
綺麗に仕上げてもらい、いの一番にアドニス様に見せる。
「…ああ」
「どうですか?」
ああしか言わないので、もう一度催促する。
「思っていたのと違うなこれはいいね」
長年の勘で要約すると
「自分の色入れて何がいいんだ恥ずかしいだけで馬鹿じゃないのかと思っていたが、予想以上にくるものがあり素敵だ」
こんな感じに受け取っておこう。
じゃないとあんまりの感想である。
アドニス様にエスコートされながら馬車に乗り会場に向かう。
その間、こちらから目を離さないところを見るとよっぽどお気に召したらしい。
「アドニス様、私おかしなところありませんか?」
「ああ、大丈夫」
惜しい。もう一声。
「可愛いですか?綺麗ですか?」
「うん両方だね。綺麗で可愛いよ」
やっと引き出せたというか言わせた言葉に満足する。
着いてからもずっとこちらを見ている。
よく躓かないものだと感心しながら会場へ入った。
一斉に視線を攫ったと言っても過言ではない。
どうせ私たちチグハグな姿を観てネタにしようとでも思ったのだろう。
おあいにくさま、今夜の私たちはアドニス様の美しさで勝ちが確定している。
よう見張れ、この美しさ神様だって敵わない…いや神様だった。
ああでもあんまりみないでという思いもある。
私だけのアドニス様でいてほしい。
私に心はなんて小さいのだろう。
だけどほくそ笑むのをやめられない。
横をむくと、不機嫌そうなアドニス様が見える。
「どうしました?」
「みんな君を見ている。不快だ」
それは嫉妬というものでは?
この場で一人だったら踊っているところだった。
何とも思っていない人にも妹にも嫉妬しない。
長年の片思いが実った?!
ついステップを踏んでたがドレスで見えない事を祈る。
「私ではなく、アドニス様を見ているのですよ」
「違う。僕が目をやると逸らされる。この目が怖いからだ。
なのに僕のミ…いや何でもない」
何でもなくないです。
絶対続きは私が喜ぶ事だと確信できます。
僕のミネルバって言うつもりでしたでしょう。
言ってください。じゃんじゃか言ってください。
もうこれ両思いだ。
あとはどうやって認めさせるかだけ。
デビュダントの式が始まり、一列に並び王様の言葉を恭しく聞くふりしてアドニス様の事を考える。
アドニス様が言うように、いつもより感情的だ。
肝心なところは理性で押さえているようだけど、あともう一押し。
…確かお酒お好きだ。いつもは大人の飲み方をされ隙がないが、今日は行ける。
ベロンベロンに酔わせて、適当に服を脱ぎ一緒のベッドで寝れば既成事実の完成だ。
許されるのは今日だけならとことんやるしかない。
愛はある。親愛か友愛かそれ以外か。
ただ恋はないのかもしれない。
が、だ。
そんなもの後から落としてみせましょう。
惚れたはれたはまだかもしれませんが、自分の色を纏った私をじっと見るくらいには私のことが好きなのだ。
大丈夫、押せば落ちて明日にははれて甘い雰囲気になる…はず。
アドニス様だから気まずさが先にきそう、いやそこも言いくるめよう。
大丈夫、私にはおっぱいも時間もたっぷりある。
式も終わり、ファーストダンスをアドニス様と踊った。ふわふわした気持ちであっという間に終わる。
セカンドダンスも踊る。
曲も半ばあれって思い始めるが、婚約者なら珍しくもない。
サードダンスになっても手を離してもらえなかったので踊った。
周りがざわめく。
私の心もざわめく。
ファーストダンスはパートナーと
セカンドダンスは家族や知人と
サードダンスは恋人や親しい方と
それを続けて同じ人と踊るということは「お互い相手しか見ていない」という意味になる。
公の場で踊る人は滅多にいない。
恥ずかしすぎる。
曲も半ばになりアドニス様がため息をつく。
「もう終わりか。もう一曲踊る?」
「意味わかっておられます?」
「意味?ダンス楽しいね」
これはわかって踊っているな。
ちなみに四曲続けて踊るのは「私たちの邪魔するな」だ。
熱々の恋人同士も真っ青な熱々っぷりである。
これで私に気がないとは言わせない。
「アドニス様がいいなら私は大丈夫ですよ。
ご覚悟がおありなら」
「そうだね。ちょっと疲れたよね」
目を見つめると、逃げた。
フォースダンスはやめたらしい。
曲が終わり、ケーキとお酒を堪能する。
案の定誰も寄ってこない。
まぁいい。とりあえず飲ませて呑ませて、酔ってもらう。
「美味しい」
「ようございました。
こちらはどうです、アドニス様。
水が豊かな地方の名産ワインでございます。
今年は当たり年らしいですよ」
「若いのに、口溶けに深みがある。
もう何年か寝かせたのも呑んでみたいな。
一年ごとに呑むのもいいね。
一緒に歳をとるみたいで楽しい」
「では我が家で取り置きしておきます。
毎年の楽しみですね。
あ、これもいかがですか果実酒です。
さっぱりして美味しいですよ」
「これもいいね。甘すぎず、爽やかだ。
ミントが入っているのかな、スーとして後味がいいね」
悪酔いしないように、肉や野菜などつまみを勧める。
なかなかのペースでいつも以上に飲まれているが変わらない。
ただ口数が多い気がする。
うーんこれは酔ってるからなのか、好きな物に饒舌になっているだけか。
難しい。どっちだろう。
「やぁ、ミネルバ」
「あら、ジア、あなたもデビュダントだったのね」
「近くにいたのに気づかないのだからびっくりしてる。
20こえてのデビュダントは私たち二人だけだというのに連れないね」
「あなたは近衛騎士でパーティーには慣れているでしょう、私は最近まで家に引きこもっていてそれどころじゃなかったんですもの」
ジアと話していると、横からの視線が強くなってきた。
「アドニス様、友人です」
「ご紹介預かります、フリージア・レスアラパゲリア・エネレベル・ユクリバスです。
フリージア以外家名ですのでどうぞフリージアとお呼びください。
リリーフロスト様のお話はミネルバから耳が痛くなるほど聞いておりました。
でも三回もダンスを踊られる情熱的な方だったとは」
「…そのとてつもなく失礼だけど、フリージア嬢でいいのかな」
「ああ、この後仕事なものでわかりづらくて申し訳ない」
ジアは近衛の制服をビシッと着こなし、そこらの凡人では勝てないくらいの麗人オーラをだしていた。
制服の膨らみからおっぱいがついているとわかっているが、確認したくなるのはわかる。
ドレス姿でもそばにいる男が霞むほどで女性に大人気でいつもキャーキャー言われてる。
ジアと話していると例に漏れず、ひょっこりセドリックが現れる。
この幼馴染はいい加減にしてほしい。
「やあミネルバ、リリーフロスト様いい夜ですね。
ああジア君もいたね」
「こんばんはセドリック、私もいたよ。相変わらず君は目が悪いな」
ジアもいつものことながらつっかえさなくても。
「俺の目が悪いのではなくて君が地味なんじゃないかい?
いつも壁と同化してるからね、壁になってきているのさ。
それにしても、綺麗だねミネルバ。ほんとよかったね」
「ありがとうセドリック」
「そうだねこんなやつほっといて。改めて綺麗だよミネルバ」
「ジアもありがとう」
褒められて悪い気がしないが、二人がまた言い合いを始めたのにはほとほと呆れる。
「酔ったみたいだ、夜風に当たってくる失礼」
アドニス様の固い声に一瞬ついていけなかった。
酔っているのは本当だろう。
ただ、あの目は嫉妬の目だ。
最近よく見るので間違えない。
どっちに?いやどっちもに、やいたのだろう。
可愛すぎる。すぐに追いかけたくて足がむくが、ある事を思い出す。
この二人もいい加減私を毎回巻き込まないで頂こう。
「セドリックいい加減好きな子ぐらい私を挟まなくても話せるようになりなさい」
それだけ伝える。
引き止める声が聞こえるが知るもんか。
私は今好機なのだ。
姿が見えなくなったのでアドニス様魔力残粒子を追いかけた。
押せ押せミネルバ!
ちなみに概念ドレスとか何がいいの?と馬鹿にしてたお兄様
手のひらくるくるでめっちゃいいじゃんとツボにどハマり




