プロローグ4
鏡を見るたびに憂鬱になる。
髪は白髪で、瞳は金。
一目で先祖返りだとわかる容姿。
もっと普通がよかった。
父のような緑の目も母のようなストロベリーブロンドも
どちらも僕にはひとかけらもない。
よくもまぁ父は僕を受け入れたものだ。
幼いからか周りの声がよく聞こえる。
心無い言葉は静かに深く突き刺さった。
物心ついたとき、黒髪で金の目をした女神に連れて行かれそうになった。
あまりにも目が寂しそうだったから覚えてる。
その後は大人たちがどうにかしたらしいが覚えていない。
ただ、綺麗な女の神様が同じ金の目を細め優しく笑って言ったのは覚えてる。
「坊や、あの子から力をもらう許可をやろう。
大博打ではあるがそれもまた一興。
まぁお前達はそうでもないかもな。はっははー」
ひとしきり大笑いされた後優しい声で最後にこう付け足された。
「どちらも幸せにおなり」
当時よくわからなかったが、言葉はいつの時も忘れたことはない。
それから僕はあの女神様に連れて行かれないように力を貯めることにした。
僕が4歳の頃妹のディアナが産まれた。
こんな綺麗な赤子はいないと思わせるには十分で、成長するに連れ綺麗さがましている。
歩けるようになれば、母でも父でもなく僕の後ろをついてくる。
可愛くないはずがない。
両親だけで埋まらなかった孤独がやっと満たされ、独占欲がわく。
誰もいないところで子供らしからぬ笑みを浮かべる。
血に縛られたくないと思えば思うほど、血の影響下にあることを思い知らされる。
孤独からくる独占欲、固執と執着。
本当に僕の考えなのだろうか。
血がそうさせるのではないだろうか?
わからない考えたくもない。
鬱々とした心をひた隠し笑顔で誤魔化す日々が続いた。
僕が7歳の頃また一人家族が増えた。
父の目と母の髪を受け継いだ。本当の子。
歓喜と嫉妬がごちゃ混ぜになる。
僕の欲しいものがここにある。
無意識に手がエレーナの首に伸びていた。
「おにいちゃま、あかたん」
ディアナが僕の手を引っ張る。
僕は何をしようとした?
背中に冷や汗を流しながら何もないって顔をしてディアナを抱っこする。
「ディー妹のエレーナだよ。かわいいねー」
そう可愛い妹だ。
僕の妹が、宝物が増えただけ。
何も嫉妬しなくていい。僕のなんだから。
自分を言い聞かせる。
“僕の”と思うと徐々に鎮まり、受け入れられた。
ディアナのときに感じなかった薄暗い感情を考察する。
一つは“色”だろう。
ディアナには両親の色が出なかった。
もう一つはディアナの容姿だ。
あれは神の愛し子だと誰かが言っていた。
”神に愛されるほど恵まれたものを持っている“
優れすぎる人を指す言葉らしい。
ディアナを僕は同類の家族、仲間だと思っているのだろう。
なんとか感情に折り合いをつけ二人の妹を平等に可愛がった。
僕が9歳、ディアナ5歳の時。
殿下のお友達を決めるお茶会に呼ばれた。
「あれが例の…」
「綺麗だけど恐ろしい」
「機嫌を損なわないようにしないと」
頭の悪い人がいるものだ。
聞こえるように言ってる言葉が僕の機嫌を損なわないはずがない。
ただ僕にその人たちを裁く権利も力もなかった。
もう少ししたら父にもう今日は帰ろうと言おう。
ディアナやエレーナと遊んでいる方が有意義だ。
そんなことを思っていたのに、そこでディアナはあろうことか恋に落ちたのだ。
横にいた僕は、両方一目惚れするというなんとも稀有な場面に遭遇する。
妹の初恋を見守るのが兄だろうが、僕はそれどころではなかった。
裏切られたと思った。
僕の宝が盗られると思った。
僕のだと言いたい。泣いて騒いでぶち壊したい衝動に襲われた。
ぐっと我慢をし、何回も深呼吸をする。
血に逆らう。ディーは僕の妹だ。
妹を泣かすのは兄じゃない。
吸って吐いてを繰り返す。
僕は血になんて縛られない。僕はディアナの兄だ。
深呼吸を繰り返している時、相手がディアナのことを褒めた。「女神」と。
その一言に自分の呼吸の仕方を思い出してくる。
「わたしはあなたものだよ」
その言葉に冷静さが戻ってくる。
そうかこいつは僕のを奪うやつではない。
僕のディアナのものになりたがってる。
つまり僕のだ。
そう思うと、落ち着いて対応できた。
僕のには愛称をつけた方がいいね。
「ロッティ」
なかなかいいじゃないか。
ロッティが可愛すぎるから嫌だとか言っていたが気にしない。
やっと妹の初恋に笑顔を向けることができた。
ディーとロッティが日々愛を深めている頃
新しい妹が増えた。
父の色を薄くした髪と母の色を薄くした目。
対処法があったとはいえエレーナなど嫉妬は湧かなかった。
可愛い妹、何気にスピカと呼ぶとそれが妹の名になった。
三番目も特別な妹。
どの妹も種類は違えど手のかかる妹達だった。
血の影響など忘れるくらい振り回される。
でも僕が17歳の時またしても血が騒ぎ出す。
性懲りも無く抜け出してどこかへ行ってた妹が自分の半身だとおとぎ話の存在を連れて戻ってきた。
薄汚れた子供だ。
何を考えているかわからない。
そう言って追い返したかった。
僕は沸騰しそうになる頭を抱えどうしたものかと深呼吸をする。
とりあえず臭うから洗ってと指示を出す。その間に冷静にならなければ。
笑えると言ったが笑えない。
予想外に妹が泣き叫び、僕に訴えでるのだ。
家を出るとまで言われたら仕方ない。
どうにか言いくるめて、家出はさせないようにした。
ギルバートの名乗る少年は確かにエレーナと同じ瞳の色をしている。
そう考えると半身なのだから僕のにかわりはないと思えてきた。
「ジリー」
そう呼ぶと呼ばれなれてないからとドギマギしている少年に愛着がわく。
その反面、君もかエレーナと、僕から離れる妹を寂しくて手を伸ばしそうになる。
長年かけて埋まってきた寂しさが一人また一人と自分の唯一を見つけて手を離れていく。
また孤独で押しつぶされそうだ。
18歳の時、隣国のお祖父様から見合いの話がきた。
何故僕にと少々疑いながら行くと、少女はスピカより幼いように見えた。
相手は14歳と聞いていたのだが。
逃げたのだろう。自分の容姿が婦女子受けしないことはわかってる。
ただいくらなんでも家のために幼い子供を使うのはいかがなものか。
挨拶を終え、始終俯いているお相手が可哀想になってくる。
「あのなアドニス君、改めてミネルバはどうだろうか。
その、これも先祖返りでな精霊の力が色濃く出ているだろう。
君で最後なんだ。どうかはいと言ってくれないか」
エクリプス伯爵の言葉に目をパチクリする。
この幼い子供はどうも見合い相手本人らしい。
これは俺以上に大変な思いをしているのだろう。
どうせと諦めた雰囲気がみえた。
「僕はこんな素敵なお嬢さんとで嬉しいですが、ミネルバ嬢はどうなのでしょう」
「ありがとうございます嬉しく思います」
あんまり嬉しそうじゃない返事をされた。
その後二人にされたが、話かけても俯いてばかりいる。
やっぱり嫌なのだろう。
威圧感を出さないように、彼女の足元に跪き、目を合わせないよう気をつける。
「嫌なら断っていいよ。
怒られるのが怖いなら君から言ったって言わない。
そういうの僕上手いから。
ね、顔あげて、怖くないよ」
ミネルバ嬢は顔をあげ少し考え戸惑いながら、僕の目を見つめる。
「私が気持ち悪くないのでしょうか?」
「それをいうなら僕の方が気持ち悪くない?
君は可愛らしい姿だけど、僕ってあれだろう」
小さな頭を横にふる。
「君を僕の妹だと思ってもいい?」
「妹ですか?」
「うん、ちょっと時間かかるけど君を本来の姿に成長させる魔術を作るよ。
本来の君に戻ったら、好きな人のところに行けるようになるよ。
だから今は僕と婚約者ごっこしよう。
お互い血に振り回されて困るよねーまったく」
「本当ですか」
「僕、妹に嘘つかないよ」
「お願いします。ありがとうございます」
そこでやっと彼女は笑った。
新しい妹のために頑張りますか。
彼女が離れてしまっても悲しくないように、手放せるようにあえて妹だと思うことにした。
妹の幸せを祈るのが兄だよね。
寂しい気持ちを押し殺し今日もいい兄を演じる。
もう期待するのはやめた。
お兄様編はじまります(*゜▽゜)ノ




