ドレスの下は不思議でいっぱい
エレーナお姉様がおもむろにドレスの裾を持ち上げた。
すかさずギルバートがお姉様のドレスの中に手を突っ込む。
緊迫した状況を一瞬忘れてギョッとしてしまう。
何をしてるんだこの人達?!
私の驚きはさらに追加された。
ギルバートの手に何故か2本の剣が握られている。
意味がわからないが、とても頼もしく思えた。
「ギル私のをお義兄様に、私は魔法で後衛にまわります」
「わかった」
「すまない、助かる」
私も負けてはいられない。
人が一箇所に集中してくれたので、防御壁が張りやすくなった。
後は逃げ遅れてうずくまっている人と私達の周りに防御壁を張る。
「お姉様はれました!」
「ありがとうスピカ。殿下の傷も後少しで治るわ」
ほっとする。
殿下がずり落ちてきたので再度抱きしめ直す。
「一通り終わったかい?」
首謀者らしきウィリアム王子がニヤニヤと笑っている。
衛兵に周りを囲まれても余裕そうで不気味だ。
そこまで仲良くない隣国だが、戦争するほど仲が悪いわけではない。
何を考えているの?
「フィロ」
「ああ、妾を待たせるなどまったく。
まぁいい。可愛いあの子が見つかったのだ、許してやろう」
フィロと呼ばれた女性は茶色の柔和な目元がかわり、かわりに金の目が不敵に笑う。
髪も茶色から黒へと変わっていく。
一瞬で姿が変わった。
そこには誰もが知る、隣国の神がいた。
女神が指を鳴らす。
赤子の手を捻るより簡単に兵も防御壁も全て飛んでいった。
防御壁の残留がキラキラと舞い散る。
嘘、こんなにも力に差があるなんて。
呆然としてる間にまた悲鳴が上がる。
「お兄様!!」
エレーナお姉様が叫ぶ。
顔を上げると、兄が空中に浮く黒い球に飲み込まれていた。
「お兄様!!」
私も叫ぶがあっという間に兄の姿が消え、役目を終えたらしい黒い球がフヨフヨと女神と王子のそばに寄って行った。
「あいもかわらず手こずらせよって。
またそこが愛いのだがな」
「終わった〜?よくアドニスだとわかったね。
全然見た目違ったのに」
「よう見やれ。人ごときが瞳は誤魔化せまいって」
「お兄様を返して!!」
私が叫ぶと今気づいたというように二人がこちらを向く。
王子がまたニヤニヤ笑っている。
「危なかったねフィロ。
アドニスの妹に当たるところだったよ」
「当たったらなんだと言うのじゃ」
「アドニスは家族を大事にしているから嫌われちゃうかもよ」
「それは嫌じゃのぉ」
「まぁこの国の王子が庇ってくれたみたい。
感謝だねー」
殿下をなんだと思って思わず殿下をぎゅっと抱きしめる。
誰でも良かったなど、なんて最悪な人達なのだ。
もしお腹の大きなディアナお姉様に当たっていたらとぞっとした。
「これは国際問題ですぞ!我が国の王太子を攻撃するなど宣戦布告ととらえてよいか!」
国王様が叫ぶ。
皆の表情が険しく女神と王子を睨むが、二人はどこ吹く風。
「だからー間違えだってば誰でも良かったの。
たまたま王子様に当たっただけだよ、嫌な偶然だったねー」
「誰でもいいなど何故!?」
「僕が行ける場所でここなら確実にアドニスはいると思ってね。
でも人が多いだろうちょっと邪魔だったからね帰ってもらったんだよ」
「何故そこまでして…」
「さっきから何故?何故?って多いね。
仕方ないよーだってフィロ、女神様がアドニスを望んだんだもの。
教典にも書いてあるでしょー神様の望みを何人も妨げてはいけないんだよー」
ぐっと噛み締める。
そうだ神にはその権限がある。
隣国の王子はそれに従っただけ、例え殿下が怪我しようが死ぬかもしれなくても関係ないのだ。
理不尽なことに顔を顰める。
「ですが、こうも書かれているはずです。
本人の同意なくしてその行為を要求してはならない」
ギルバートが静かにでもみんなに聞こえるように言う。
そうだあれはあきらかに無理矢理だった。
「えーこれから同意取るって、うんって言ってくれるよ。
なんたって可愛い妹が三人もいるんだもん。
あ、手荒なことしたくないから僕と結婚して末長く君たちのお兄様の枷になってよ」
「「「お断りします」」」
三人の声が重なる。
誰が好き好んでお兄様の枷になりたいものか。
それに私にはいないがお姉様達は愛する人がいるのだ。
人を馬鹿にするのも大概にしていただきたい。
「とりあえずどうするフィロ」
「どやつでもいい一人連れて帰れば大人しゅうなるじゃろうて」
一枚だから破られたんだ先ほどと同じ場所に5枚ずつ重ねて防御壁を張る。
あなたたちの思い通りになんてさせない。
「衛兵お客様の速やかな退避を、このものは私たちでなんとかする」
お母様の凜とした声が響きその後に
「知らないから教えますけど可愛いからと言って、親の許可なくして子供を触らないでいただきたい。
ましてや誘拐など言語道断。
20年前にも言いましたがもう一度言います。
我が家の息子を返してもらいますよ」
お父様のネチネチした声が響く。
それを合図に一斉に攻撃が始まる。
ギルバート、お義兄様、お母様と剣を振るたび固いものに当たる音がする。
エレーナお姉様とお父様が三人の間を縫うように攻撃魔法を繰り出していた。
速すぎて私の目には追えない。
…追えないからってなんだ。
落ち込む心を叱咤する。
今私がやるべきことはなんだ。
目で追えたからと言って役立つことはない。
自己満足でしかないことはやめる。
私のやるべきこと、一枚でも多く防御壁を生成すること。
これ以上誰にも傷ついて欲しくない。
丁寧に丁寧に魔法を生成する。
薄いから破られるのだ。もっと一枚を厚く厚く。
破られた時ガラスのように破片が舞ったことを思い出す。
力に差がありすぎる到底私の力では神の攻撃を弾き返せない。
だったら、受け止めて離さないようにすればいい。
ダイヤのように固く、それでいて粘土のように柔軟に。
新しい防御壁の魔術式を組み立てる。
私にできる最大限を
お母様達が集中して戦えるように。
怯えるもの、戦えないものは私が守る。
泣いてる暇などない。
それでも現実は無情なもので誰もが疲弊する中で女神と王子だけが飄々としていた。
「もういいかい?お別れ済んだでしょ?
20年前みたいに大神様がきてくれると思ってるなら大間違いだよ。
長らく旅行中だ。こんな些細なことで帰ってはこられないよ」
「なんじゃ、終わりか?」
「いえいえ、まだ楽しみはこれからですよ」
黒い球の中からお兄様の声がし、黒から白に球の色が変わっていく。
「これはどう言うことじゃ?!」
球から手が生え、女神を掴んだ。
ゆっくりと球から人が出てくる。
白髪で金の目の美丈夫、服はお兄様の着ていたのと同じだが、体型が違うからかズルズルでズボンは脱げてしまい、上もローブのようになっていた。
誰だこの人?お兄様はどこに?
いやでも髪と目と声はお兄様でジャラジャラつけてる魔力石もお兄様のものだ。
タプタプじゃないけど、なんかとてつもなく美しいけどお兄様なの??
「体内に脂肪として魔力を貯めていましたが全部持っていくとは。
それどころか、髪に宿る魔力や身につけていた魔力石、魔力を込めておった服、靴に仕込んだものまでありとあらゆる魔力を根こそぎ持っていくとはねぇ
驚きを通り越して感心したよ」
「逆にそこまで仕込んでるアドニスの方が怖いなー。
抜け出すためにそこまでしなくてもいいのに。
もったいないねー
ねぇフィロ、もういいから帰ろう」
「……何故じゃ?力が抜けて」
「貴女の神力は貰ったよ。
神は代替わりした」
今度はお兄様が不敵の笑みを浮かべる。
「嘘じゃ!代替わりにはトフォネ大女神様の許可がいるはず!
そなた何をした!」
「許可なら20年前貴女が帰った後貰い受けたよ。
たいそう笑っておられた。大博打だと。
諦めれば良かったのに、だけど貴女は性懲りも無くまたきた。
賭けは僕の粘り勝ちだねー」
兄が楽しそうに笑う。
ああその笑顔お兄様だ。やっと見慣れない姿を兄だと思えるようになった。
「ねぇフィロどういうこと?
フィロ?神様じゃなくなったの?」
誰もよくわからないなか、兄だけは楽しそうだ。
「何故じゃ、何故そこまでして…あの精霊もどきのためか?」
「そうだよ。あの子を泣かしたくないからねー」
「何故妾ではいけぬのか?何故そこまでして妾を嫌う」
「強いて言うなら血のせいかな?
父方は竜の母方は神の血が流れているんだけど、僕両方の先祖返りでね。
竜の固執と神の孤独。タチ悪いよねー
君の気持ちはわかるけど、寄り添う気はないよ。
竜は一度敵だと思うと攻撃をやめない生き物だからね。
20年前のあの日君が間違えなければまた違った結果になっていただろうね」
最後兄は静かにそういうと、女神を掴んでいた手を振り払う。
元女神が兄に手を伸ばそうとしたところ、母が兄と元女神の間に入る。
元女神の首に剣をたてた。
「神の前に私の息子でね、親の許可なく触らないでいただきたい。
今、動かないことをおすすめしますよ。この愛剣はよく切れるのでね」
「何を馬鹿なことをこれしき…!何故じゃこれは何じゃ!?」
「それは痛みだよ。言っただろう代替わりしたって。
もう君は神ではないんだよ。ただの人間の女だ」
「嘘じゃ!!こんなこと許されない!妾はそなたを一生許さない!」
「はっはー笑える。君が許さなくても、時は進むよ。
何もなされないまま朽ち果てたらいい」
兄らしくない言葉に、姿が変わったこと以上にびっくりする。
「お兄様、いけません」
「あー悪かったディー。口がすぎたね。
はいじゃあもうお開きにしよう。
いいよね王様」
「神のまにまに」
兄の一言で終わりに向かう。
衛兵は女神と隣国の王子を取り押さえ、まばらにいる客を気遣ったり、攻撃を受けた仲間の傷を治したり大忙しだった。
「ルルわたしのルル大丈夫か?」
「ええ、私もこの子も大丈夫です。
それよりも旦那様血が出ておいでです、こちらに」
先ほどのキリッとした義兄はどこへやら、デレデレしながら姉に治癒魔法をかけてもらってる。
もぞもぞと殿下が起き上がる気配がした。
「…これはいったい?」
「殿下お気づきになられたのですね。
隣国の王子と女神による仕業ですが兄が神になりもう終わりました」
「…?ついていけないのだが?
まぁ詳しくはあとで聞くとして。
せっかくのドレスが血で汚れてしまったな」
「これくらい魔法でどうにかなります」
「落ちたとしても嫌だろう。
また新しいのを贈ろう。
今度は金の布地に紫の刺繍なんかも楽しげじゃないか?」
また概念ドレスしかもめっちゃ目立つやつ。
どうやって断ろうかと思考する。見せ物はごめんだ。
「冗談だ。だが余の瞳の色は入れたい。ダメか?」
ううーずるいその顔。悔しいけど金ピカ概念ドレスじゃないだけましなので小さく頷く。
後ろで見ていた姉から「あらあらまぁまあ」と聞こえたが記憶から消しておこう。
こちらから言わなければディアナお姉さまは何も言わないはずだから。
殿下のニヤニヤ顔を見てやっと気が抜けた。
私が王妃になったらこんなことおこらない平和な世にしようと新たに決意する今日この頃であった。
ネタバレすると残念ながらお兄様はタプタプには戻りません。
父は宰相
母は王妃の近衛騎士
剣のつよさは
母>ロベルト>ギルバート≧エレーナ>>一般騎士




