ドレスの流行はつくるもの
年に一度の社交シーズンが今日から始まる。
自分の管轄の土地から出て王都に集まり着飾って煌びやかなパーティーをする。
派閥、情報交換、利益になりそうなことはないか。
キラキラしたのは見せかけだけで、蓋を開ければドロドロの腹の探り合いだ。
今日は特にあまり仲良くない隣国から王子がパートナーと伴ってきているのでより水面下で白熱している。
パーティーは好きか嫌いかでいうと好きだ。
腹芸はあまり得意ではないが、みんなチヤホヤしてくれるから楽しい。
ただ今回はイマイチ面白くない。
「スピカ様、なんて素敵なドレスをお召しになってますね。
金の刺繍が清楚なスピカ様にとてもよくお似合いです」
今日は私でなくドレスを褒められるのだ。
殿下概念の殿下が作成したドレスをだ。
大変面白くない。
センスが悪ければ可愛けがあるものを。
お茶会のあと金とパープルサファイアの繊細なアクセサリーまで届いた。
抜かりがなさすぎて、悔し泣きしたのも記憶に新しい。
家を出る前にお兄様に褒めてもらおうと見せたら、うわって言われた。
うわっだ。その後褒めてくださったが、ドレスに触れないあたりお兄様も殿下コーデに思うところがあるのだろう。
しかももっと苦痛だったのは、殿下と並び挨拶をしなくてはならない時だ。
概念が隣にいるので、同世代からは羨まそうに、両親世代からはあらあらと生暖かい目をむけられ、お年寄り世代には若いねーと微笑まれた。
これとっても恥ずかしすぎる。
誰だ考えたの、殿下だ。
救いは自分から言い出さなくてほんとよかった。
より、恥ずかしくて死んでいることだろう。
やっと挨拶も終わり殿下と別々になっても、今日はドレスを褒められる。
若い女性からすれば良い話のネタなのだろう。
本気で羨ましそうにされ、私も贈って欲しいわなんて声がちらほら聞こえた。
流行ったりしないよね概念ドレス…。
え?何が良いんだ概念ドレス。
一人輪を抜け、果実水をもらい、ゆっくり飲む。
ほっと一息ついていたら声をかけられた。
「大変だねスピカ」
「エレーナお姉様、今日は欠席と言われてたのにどうされたのです?」
家を出るまで、行かないと聞いていたのに。
エレーナお姉様は退屈だと呼ばれたパーティーでも何かやるので、基本行きたくないならそれで良いことになってる。
甘いと言われるだろうが、それはまずお姉様の保護者役を務めてから言って欲しい。
多分開始3分も保たないはずだ。
マナーがなっていないとか、暴れ出すなんてことはないが、とにかくやばい。
瞬きした瞬間見失う。
気に入らない、退屈と思うと消えるのだ。
見張り役からしたらたまったもんじゃない。
パーティー参加どころじゃない、お姉様探しに始まりお姉様探しで終わる。
こちらは社交どころかまともに挨拶もできないのだ
ただ、最近はギルバートと一緒にいるとまだマシだ。
消えないでちゃんといる。抜け出さないでちゃんといる。
ギルバート婚約者になってくれて本当にありがとう。
私もやっと解放される。ありがとう。
「何となく、来た方がいい気がして」
自由な発言だが、あながち馬鹿にできない。
お姉様の何となくは私では何とかならないことが多い。
抜け出た一息を戻し、気を引き締める。
“何となく”で困るのはいつどこで何があるのかわからないことだ。
パーティーに出なくてはいけない気がしたということは、パーティーの最中に起こるだろうと予想する。
一応お兄様と話をした方がいいかなと考えていると、お姉様がドレスを引っ張った。
「みてギル、殿下の瞳の色だ。刺繍の金は殿下の髪色かーなるほど。アクセサリーも殿下だ」
そういえば見せてなかった概念ドレス。
お姉様は楽しそうにギルバートとキャッキャしている。
まさかお姉様、まさかね。
「私だったら緑のドレスに黒のレースはどう?」
「それはいいね」
「殿下もスピカの瞳色の宝石をつけてらっしゃたね。
だとしたらギルに緑のブローチ?」
「男の色は決まっているが、クラバットを赤にしてブローチを緑にするのはどうだ?」
「それいいね。私達の色の大きなエメラルドを買って半分にしよう。
それでお揃いのブローチをつくるの」
おーいやめて、新たな文化を編み出さないで。
微笑んで口に出さないが全力で止めたい。
大きなエメラルドを侯爵家から出すお金で買うなら止められる。
が、多分自分達の資産から買うだろう。
お姉様の第六感とギルバートの手腕が合わさり多分今誰よりも稼いでいる。
末恐ろしい。
「あらー貴女達何を集まっているの?楽しいおはなし?」
ロベルト様に腰を抱かれながらディアナお姉様がニコニコと近づいてくる。
ああーこれ以上増えないで。
「みてお姉様、殿下の瞳と髪のドレス」
やめてその言い方だと、殿下からむしり取って作ったドレスになってしまう。
「あらあらー、素敵ね殿下ドレス」
ディアナお姉様に悪意はないのだろうが、嫌すぎるドレスの名前だ。
「私も真似して緑に黒のレースで首元まであるギルバートドレスを作ろうかと思っています。
それで首元にお揃いのブローチをあしらいたいなって」
「まぁ素敵ね。私も作ろうかしら。
旦那様どう思います?」
「それは嬉しすぎて吐血するな」
とロベルト様は嬉しそうに宣言された。
姉は呑気にあらーと微笑んでいる。
「ではお義兄様、お姉様にはネックレスはどうですか?
銀の鎖にブルーダイヤなどいいのでは
お義兄様は金の石座にサファイアは素敵だと思います」
「それはいい、帰ったらすぐにつくらせるよ」
その気になってしまっている義兄や姉たちをとめたいがもう止まらないのだろう。
諦めてほほえむことに集中する。
新たな文化ができてしまった。
まだまだ盛り上がる姉達をよそに、いつ抜け出すか思案する。
下手に抜けると照れてるのねっと生暖かい目で見られるのを体験済みだ。
断じて照れてない。広い意味では恥ずかしいけど、それは意中の人の姿を身につけて…なんて乙女的なものではない。
殿下を手のひらでくるくるするためにそういう乙女的な恥じらいも必要だとはおもうが、今回は負けた気になるからヤダ。
なんて頭の中で葛藤していると腰に腕を回された。
「こんなところにいたのかスピカ」
殿下の腕を今すぐ払いのけたい。でも我慢だ。我慢して微笑みを継続する。
姉達が殿下を見てカーテシーをする。
「さきほどぶりだな。楽しそうに何を話していたんだ。
余も混ぜてくれ」
「スピカのドレスについてですわ殿下。
とても素敵なものなので真似をしようかと」
殿下は姉達の顔を見た後私の顔を見る。
微笑んで誤魔化すと、大変いい笑顔をされた。
この顔は面白いオモチャを見つけた時だ。
つまり、私をネタにして揶揄って遊ぶのだろう。
背中に寒気がした。
「そうか、そうか、存分に真似して流行らせて欲しい」
ニヤニヤしないでいただきたい。
そっと離れようとしたとき、力強く抱きしめられた。
何を!
抗議しようと思ったら殿下がずるずると落ちてゆく。
一緒に引きづられるように私も座り込んだ。
頭が真っ白になる。
「でんか?」
変だな何故か手が濡れてる。
手を上に持ってくると真っ赤に濡れていた。
「衛兵何をしている!ウィリアム王子を捕らえよ!」
「殿下すみません傷に触りますね」
ロベルト様が騎士に命令を出し、ディアナお姉様が殿下の傷を見てくれていた。
殿下は攻撃を受けたようで、脇腹が真っ赤になっている。
私はどうすればいいかわからず、殿下を抱えボーとしていることしかできなかった。
「スピカ。スピカ防御壁を張ってスピカ!」
エレーナお姉様の声がするが動けない。お兄様、お兄様はどこ?お兄様助けて
パシッと音がした後、左頬が痛かった。
「しっかりしなさいスピカ。
貴女はリリーフロスト家の三女です。
今取り乱すことは許しません。
国母になるのでしょう!務めを果たしなさい!」
ディアナお姉様の言葉に目が覚める。
そうだ私はスピカ・リリーフロスト。
侯爵令嬢で、未来の王妃だ!
何事にも揺らいではいけない!!
全員に張るには多すぎるとりあえず敵と思われる人を囲うようにに防御壁をはる。
閉じ込めているうちは攻撃を通すつもりはない。
「皆もの退避を!!」
国王様の声で固まっていた人々が一斉に動き出す。
あちらこちらに悲鳴と泣き声があがる。
タイトルを概念ドレスにするか迷いました




