とある令嬢の願望
レベッカ・ロルフ伯爵令嬢に婚約者がいないのはそこそこ有名である。
燃えるような赤い髪に意志の強そうな青い目。
端麗な顔だちをし近寄りにくそうに見られるが笑うと愛嬌があふれる。
だからと言って17歳の乙女によからぬ噂があるのかというとそうでもない。
純粋潔白で人当たりもいい。
決して人の悪口を言わない彼女に社交界の腹の探り合いに疲れた人には眩しく見えた。
縁談が来ないわけではない。
年々申し入れが増す一方なのに、彼女は首を縦にふらなかった。
彼女は結婚する気がないのかと周りをざわつかせているが、そういうわけではない。
周りは知らないが長年片思いをしているのだ。
お相手はアドニス・リリーフロスト侯爵令息。
妹たちも知らない想いを彼女はひっそりと抱えていた。
その想いも今日終止符を打たれた。
アドニスがバルコニーに一人で向かうのを見てレベッカは急ぎ向かう。
いい加減この想いを終わりにして欲しかったから
「アドニス様」
「どうされましたロルフ嬢」
微笑みを浮かべながらこちらを見てくださった。
それだけでレベッカは嬉しかった。
緊張しながらも言葉を紡ぐ。
「10年前の夏の日覚えておいでですか?」
「…気に引っかかったリボンをお取りしましたね。
お礼に貰ったハンカチ今でも使わせていただいてますよ」
もういいじゃないか。
欲しい言葉はいただいた。思い出も覚えて頂けた。
振られる覚悟はとうの昔にできている。
ああ、嬉しい楽しいだけの恋が良かった。
聡いアドニス様のことだ、自分の気持ちなど気付いておられるだろう。
なんて優しくて酷い人なんだろう。
そんな人に私はまた甘えてしまう。
「ごめんなさいアドニス様。
貴方をお慕いしております。
わかっております。この想いは終わりにします。
ただ最後に手を握っていただけないでしょうか」
アドニスは困った顔をして、そっと手を差し出した。
レベッカはそっと握る。
私と違う大きな手、ペンだこか剣だこか、ふふ温かい。
いつまでもそうしていたいけどそっと離す。
「ありがとうございます、いい夜になりました。
さっき最後と申しましたがもう一つだけお願いですわ。
何も言わずにこの場所を譲っていただけないでしょうか」
アドニスは言われた通りなのも言わず立ち去った。
「ありがとうございます」
バルコニーの端までいき上を見上げる。
せっかく星空が滲みハラハラと涙が溢れた。
数分声もなく泣いていると、横からハンカチが顔の前にきた。
受け取らずにいると、乱暴に顔を拭かれる。
「もうブラン、貴方はまた、メイクが崩れてしまいますわ」
「悪い」
どうしていいかわからずブランは右往左往している。
「私、失恋中でしてよ」
「悪い…あのだな…」
この幼馴染はまったく
また右往左往し始めた幼馴染にふふと笑いが込み上げた。
「10年前の夏の日覚えてます?
私のリボンをとって高い木に飛ばしてしまいましたよね」
「すまなかった」
心底申し訳なさそうな幼馴染にまた心が軽くなる。
「貴方虫を追い払おうとしたのでしょう。
誤ってリボンを飛ばしてしまったけど」
「何故それを」
「後から侍女に聞きました。
それに男の子と大喧嘩したことも知っていますよ。
私の陰口を聞いて言い合いになったそうですね。
気にしなくて良かったのに」
「…気にする。君に傷ついてほしくない」
「思い返してみればいつもブランに守られていたわ。
でも貴方ってほんと不器用。わかりにくいし言わないんだもの」
「すまない」
「ふふ謝ってばっかり」
「すま…」
「私今日失恋しましたの。だからいい加減婚約者探そうと思います」
「ああ…」
まだ幼馴染だけど、今日は許して欲しい。
横にいるブランに腕に引っ付きもたれる。
ブランはビックと身体を揺らし固まってしまった。
騎士ともあろうものがこれくらいで動揺してたらいけないと思う。
また笑いが込み上げた。
「明日、花束を持ってきてくださる?」
「?…!ああ、もちろんだ。
百本でも千本でも」
「そんなにはいらないわ。
そうね、薔薇を12本くださいませ」
「?わかった。…そのなんだゆっくりでいいぞ」
この人はどこまで不器用で私に優しいのだろう。
「俺は10年以上待ってた。これからだって待てる。
ただ次の相手は俺がいい。
それだけは譲れない」
「ええもちろん。たぶんそんなお待たせしませんわ」
「そうか」
明日花束の意味を知って真っ赤になるブランが想像できた。
貴方は悩むでしょうね。12本にするか、他の意味にするか。
先ほどまでが嘘のように心が軽くなった。
彼が花束を抱え歩いてくるのを想像し涙が止まった。
間の悪さと不器用さと剣の腕に定評があるブランさん
そのやらかしを笑って見守れるレベッカ嬢は心が広いのか隠れSなのか…大丈夫愛はある




