一章 魚人の町に落ちる影:お前はお前の役割を果たせ
闇夜の中、僕は凍った砂を北へと歩く。
凍えるような寒さで頭が冷え、どうして鯨人にする一つの質問にあれを選んだのか思いを巡らせる。
歴史を書くならあの質問だろう。でも騎士だった男から話を聞いた頃はもっと、感情に従ってみようと思っていたはずだ。
感情――あの少年について。
どうして人間を虐げた鯨人が、人間の遺した子を育てることにしたのか。
僕の感情が意志に負けた瞬間だった。それがなぜか鯨人と話すことで、ひどく乱暴に揺り起こされた。
結果として僕の感情が知りたがったことは少し分かった気がする。
彼も戦ったのだ。
人間への混沌とした感情の中で、強い憎しみと、慈しみの心。
そして彼の中で、憎しみが勝ってしまった。
〝俺はもう間に合わない〟
きっとあの言葉は、そのことを表していた。
間に合わない。そう、間に合わないんだ。
彼は何年も憎しみに従ってきた。でも、戦ってみることにした。そして、結局は負けてしまって、長く従った憎しみが勝ってしまった。
彼の中には先祖の念が生きているらしい。全てを捨てるほどの愛は、全てを奪われる憎しみより劣っていた。
彼が証明した。証明してしまった。だからあれほどまでに虚しい気持ちになっていたんだ。
僕は間に合う。
間に合う、のか?
〝お前はお前の役割を果たせ、パロマ〟
鯨人には僕の素性が分かっていたのだろうか。騎士だった男が知ってたんだ。鯨人が知っていたとしてもおかしくない。
でも僕には、なんだか別の意味があったような気がしてならないんだ。




