四章 加筆:六本腕の最期
――以下より、代理加筆修正――
これを記していたパロマが執筆できる状態ではなくなってしまったため、以下より鳩による代理加筆修正になる。
なお、加筆に当たって関係者にも当時の詳しい話を聞く必要があった。
どうしても誤った歴史を誤ったままにしてはならないと、パロマの魂が言っているのだ。
「おかしいんだ。俺は人間のことが好きだったはずなのに、殺したくて仕方ないんだ」
六本腕は混乱した様子で、とても困っていて、悲しそうで、憎らしそうだった。
何人も魚人を殺してきた僕を見ているようで、遥か昔の先祖が僕を見ているようで。
僕はもう、彼らを殺すのは嫌だ。
口では殺したいと言う六本腕の心は、誰かを愛で、誰かを慈しむ。
もう誰が誰に持った感情なのかも分からない。誰にも、彼自身にも。
きっと長年鯨人を苦しめたものが、今は六本腕に宿っている。
僕はもう、彼らを殺したくない。殺させたくない。
あんなに話が好きで、人間の僕との別れを惜しんだ六本腕が、ゆらゆらと剣を迷わせている。
僕ら人間と魚人は、昔はあんなふうに話せたんじゃないのか?
彼らの先祖だって、そうなることを望んだのではないのか?
「貴方は鯨人と様子が違います。どうしてそんなに困っているんですか?」
純粋な疑問だった。
六本腕は剣を振り回すとも下ろすともなく、ただ困って彷徨わせている。
「そうだ。おかしくなったのはボスが死んでからだ。俺は人間のことが好きだった。それがボスが死んでから、もっと好きになったんだ。なのにお前を殺したい」
「お前は殺したいだけじゃない。殺されたいんだ。そうだろう?」
銛を構えるエトレが言う。ひょっとすると、ただの挑発だったのかもしれない。
「……そっか~! 魚人が死んで人間も死ねば、みんな同じだ~!」
彼の混乱した言葉の意味は分からなかった。それでもなぜか、六本腕はとても納得のいった様子で、僕の槍に貫かれた。
六本の腕はしばらく、しばらく蠢いていた。
僕の槍は額に、首に、胸を貫いた。
それからもうしばらく経って、ようやく六本腕は動かなくなった。
それでもその腕は、剣を握ったままだった。
たとえ死んでも、あらゆる感情から解放されないのだ、と教えるようだった。




