三章 鱗のある少年:ひらひら、ひらひら
ホークたちが帰ってきたのは、僕が本日三度目の雪かきのために外に出たときだった。
「わりぃ。こんなに降るなら手伝いに残ればよかった」
「そう思うなら今からでも手伝ってくれると、とてもありがたいよ。僕の腕と腰はもう雪にやっつけられてるんだ」
一度目の雪かきはまだよかった。雪がふわふわで柔らかく軽かったからだ。
二度目の雪かきはべしゃべしゃとした重い雪で、一人でこれを片づけるのはなかなか大変だった。
「パロマは家で休んでろよ。これくらい、おれたちだけで片付くからよ」
「三人でやったほうが早いからね。僕もやるよ」
「いいから!」
ホークにぐいぐいと背中を押され、僕は家に入る。
二人で片づけるのかと思いきや、イサナも同じように入ってきた。
「ホークさんだけでこの雪を片づけるのは、大変じゃないでしょうか」
「言い出したら聞かないからね。でも少ししたら僕たちも一緒にやろうか」
イサナはこくこくと頷く。なぜか少し嬉しそうだ。
「ボク、あまり役に立てないから、嬉しいです」
「そんなものさ。出来ることをやって、出来ないこともやりたいと思えば意外と出来るようになっていく。そんなものなんだ」
「じゃあボクはたくさん、たくさんできるようになりたいです」
ひとつずつね。
濡れてもなおふわふわの頭を撫でると、くすぐったそうに目を伏せる。
そして少しすると上目がちに僕を見上げ、
「あの、少し経ちましたか?」
早くホークを手伝いに行きたそうに言った。
♢
今日は晴れ間のある明るい日だった。
それでもふわり、ふわりと綿のような雪が降る。
僕は地面に積もった柔らかくて軽い雪をかきながら、どこかで見た唄を歌っていた。
♪
紅い葉 黄の葉に 緑の葉
ひらひら ひらひら 落ちてった
怒りに 恨みに 憎しみが
ひらひら ひらひら 消えてった
ふわふわ ふわふわ 積もる雪
やなこと全部 隠したら
さくさく 足跡つけてみよう
寂しい気持ちが少しだけ
きれいな花が咲いたなら どんな気持ちになるだろう
楽しいような 嬉しいような
花びらはいつか 散るだろう
悲しいような 苦しいような
ひらひら ひらひら 落ちてって
何色なのかも分からない
散った花びら どんな色?
♪
「変わった唄ですね」
ふと振り返ると、そこには眩しそうに目を細めたイサナが立っている。
「この唄は無言の花唄っていってね、大昔に誰かが作ったものなんだ。たまーに、歴史書に脈絡なく添えられたりしてるから、僕もすっかり覚えちゃってね。遊び唄なのか田植え唄なのか、メロディのない詩なのかすら分からないから、勝手にそれっぽく歌ってみたんだ」
一説には植物が朽ちて新たに芽生える様子を歌ったという。また一説には、生涯を植物になぞらえた儚い唄だとも。
真偽は定かではないけど、無言の花唄はいくつかある。
その中でも一番有名なのは僕が歌ったもの。有名といっても大昔に流行っただけで、僕が知ったときには歴史記録管理室の人たちが熱心に仮説を並べ立てたりするくらいだった。
そういった意味では、この唄も失われつつある歴史の一つだ。
いや、歴史記録管理室がまだ正常に機能していた頃からすでに、確かな記録はなかった。
まるで謎かけのようなそれは〝問い唄〟に分類されている。
色んな色の葉に美しい花。雪が降ることから北部のことかもしれないけど、実際に雪が珍しくないところまで来てみると、植物がまともに育たないことがよく分かった。
「この唄を知ったときは、いつか雪を見てみたいって思ったんだけどね」
毎日のように雪かきをしていると、煩わしいものなんだなとつい思う。
それでも、今日のような雪だったらそれほど悪くないなぁ、と思ったりもする。
「手伝おうかと思ったのですが、もう終わってしまいそうですね」
イサナは活発というより大人しい子だと思っていたが、とにかく人の手伝いをするのが大好きな子だ。
ついさっきまでできなかったことができるようになるのが嬉しかったり、単純に人の役に立つのが嬉しくて仕方ないといった様子だ。
「じゃあ少し手伝ってもらおうかな。窓のほうがまだ結構残ってるんだ」
「分かりました!」
ほら、こうやって、こっちが嬉しくなるような返事をしてくれる。
こんな日々も、いつか、ひらひらと落ちていってしまうんだなぁ……。




