三章 鱗のある少年:そんなことをして、どうするんですか?
少年の心が癒えるのにはホーク以上に時間がかかった。
それでも少しずつ口数が増え、どうやら僕とホークのことを信用してくれたらしいことも、その言動から分かる。
「みなさん、ボクたちに食料や水を分け与えてくれます。どうしてなのでしょう?」
ある時、少年が言った。
「ここは少し殺伐としているところだけど、助け合って生きているんだ。でも僕がみんなに良くしてもらえるのは、きっと医者をやっているからだと思う」
「いしゃ? いしゃとは何をする人なのですか?」
「ケガとか病気を治すんだよ。おれもお前も、パロマが治してくれただろ?」
ホークが言うと、少年は驚いたように僕を見上げた。
「そんなことをして、どうするんですか?」
「どうするって……。どうもしないよ。痛そうで、つらそうで、できれば治してあげたいなって思ったからかな」
この地区に入ってきた時、僕の目の前で倒れ、亡くなった人のことを思い出す。
〝僥倖だ〟
彼はそれだけを言い残した。
何もすることのできなかった、医療の知識をほとんど持っていなかった僕に、彼はなぜか感謝した。
今でこそ色んな知識を身に着けた。多くの人を助けられた。
でも、次の日の争いに、僕は送り出していただけなのかもしれない。
治してどうするんだと聞かれても僕は、傷を治せばまた戦えるだなんて思ったことなんか、一度もない。
争いを始めた魚人が憎い。争いを始めた人間が憎い。
ここでも魚人の町でも、うまくやっていこうと思えばできるじゃないか。
現に今だって、争わずに両者は生きている。
身を滅ぼすだけの復讐心なんか、捨ててしまえ!
貴方たちは自分の家族や仲間たちにまで危険を及ぼしてまで、何を求める!
「……マ。パロマ」
「ん、ごめん。聞いてなかった。なんだって?」
「顔色が悪いぞ。パロマだってたまには休んだらいい。最近、いつも遅くまでなんか書いてるじゃん」
「うーん、まだちょっとやることがあってね。でも、今日は早めに寝ようかな」
答えながら伸びをして、立ち上がる。
僕のふるまいがわざとらしかったのがバレたのか、ホークは心配そうに僕を見上げる。
それでも僕は、二人に笑いかける。
「外の空気に当たってくるよ。最近はずっと家に籠りきりだったからね」
この二人の平穏を、守っていたいから――。




