三章 鱗のある少年:彼は時々、繊細さが足りないんだ
名を忘れてしまった少年の怪我は順調に回復している。
魚人の町で会ったときのようにびくびくした様子はなく、怪我を診るときも食事を運んで来たときすらも、ぼうっと呼吸しているだけ。
心は見えない。安心も不安もない。まるで初めてここに来たときに見た白い家のように真っ白で、あまり見ているとこっちが不安になる。
僕は彼ほど理不尽でひどい目に遭ったわけじゃないけど、何かが違えば彼のようになっていただろう。
ホークは僕のように不安がらず、むしろ積極的に彼の世話を買って出た。
意外と面倒見がいいようで、彼はよく少年に話しかけている。でも返答はいつも、真っ白な心と黒い瞳だけだった。
「食わないと死んじまうぞ?」
全くもってその通りなんだけど、ホークが来たばかりの頃を思い出し、君が言うことかとつい思った。
ホークは食事を用意した僕を訝しみ、毒が入ってると疑い続けたんだ。
毒見をしてあげても疑いは晴れず、困り果て、ついにはお前ならどうやって毒殺するかと僕に聞いてしまうほどだった。
最後には疑うのがバカバカしくなって食べたんだっけ。
どうして自分を助けるのか分からないと言った彼が、今では少年を助けようとして、なんとか食べさせようとしている。
なんだか、感慨深いなぁ。
僕が物思いに耽っていると、不意にがちゃがちゃと無作法な音が聞こえて我に返る。
「ちょ、ちょっと! そんな無茶したらダメだよ!」
「だって、こいつ食わねぇんだもん。こうしないと食えねぇかと思って」
「だったらもう少し優しく……」
口をこじ開けて無理やりスープを流し込もうとしていたホークを止めると、少年は苦しそうにむせ返った。
「自力で食べられない人には、こうやって少しずつ食べさせてあげないと」
「寒いし、すぐ冷めちまう。そしたらパロマがっかりするだろ」
「うーん、微妙! 君の考え方は微妙だよ! たしかに冷めるのは少し残念だけど、こんな乱暴な食事、食べるのが嫌になっちゃうよ」
ホークは拗ねて鼻を鳴らすと、がちゃりと食器を置いてどこかに行ってしまった。
「ごめんね。彼は時々、繊細さが足りないんだ。時々、僕もね。珍しく緑牛の干し肉が手に入ったからスープにしてみたんだけど、美味しくなかったかな?」
「…………」
やっぱり返事はなかったけど、それでもスプーンを口元に運べば飲んでくれた。




