閑話:だからこそ、鯨人を討とうと心に決めた
ラディレは実直な生き方をする人間だ。
自由となった彼は最初にやったこととは、家財を売り払って召使いにまとまった金を渡すことだった。
そして旅装を整えると、惜しまれながら故郷を後にした。
どうして簡単に騎士団を抜けてしまうのか、どうして故郷を捨ててしまえるのか、ほとんどの人には理解できなかった。
弱い者を守らない規律によほど嫌気が差したのか、それとも感情に流されて役割を疎かにした責任か。
そのどちらでもない。彼が彼であるために、彼の生き方が許されないところだったからだ。少なくともラディレはそう考えた。
しかし、彼に自由は向かなかった。
当てもない旅を続けるうちに、ある想念が湧く。
私はただ、ぶらぶらするために騎士を辞めたのか?
胸に去来したそれは日増しに強くなり、それでもラディレはぶらぶらするほかなかった。
そうして行き着いたのが、半ば鯨人に支配された魚人の町。
彼は魚人の豪快なところがすぐに気に入り、長居するうちに情が深まる。
すると横暴な鯨人に憤りを覚え始めた。
魚人の半分以上は、実は人間に敵意を持たない。
人間を危険視してはいるが、あまりにも実力差のある者を相手に度を越してひどい扱いをしなければならないと、憐れんでさえいる。
人間に好感を持つ魚人でさえ、町から追い払うことに迷いはなかった。
それでも、逃げていった者に追い打ちをかけることを拒む魚人は多い。
鯨人に命じられるままに八地区へ向かう魚人が多いのは、そうしないと鯨人に喰われてしまうからだ。
ラディレは弱い者に情をかけたことを許されなかった。
だからこそ、弱い者に攻撃を加えることを強制する鯨人を討とうと心に決めた。




