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砂鳥物語-現の鳩  作者: 千羽鳥


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二章 八地区に差す光:ここの平和は〝しばらく〟続く

 白い家に帰りがてら、僕はホークに魚人と八地区の人間たちとの因縁を詳しく話した。

 魚人の町で見てきた人々。鯨人くじらびとの苦悩。そして、知ったばかりのことも。


「気になるのはこの短い文だ。圧倒的優勢の魚人がわざわざこれを教えてくれる意味は、なんだろうね」

「祭りって?」

「さあ? きっと祭りがあって忙しいから、しばらくこっちに攻め込まないよってことだね」


 ホークは足許あしもとの雪をさくさく踏みながら、少し考える。


「さっきの魚人、なんて言ってたんだ?」

「祭りのことは言ってなかったなぁ。僕が殺めた魚人は先祖の念というものに憑りつかれていたって。ああ、先祖の念っていうのはさっき話した、可哀想な人たちの怨念みたいなもののことだと思う」

「憑りつかれると、人間を殺したくなるんだな」

「どうもそれだけじゃない気もしてるんだ。もともと彼らの先祖は、人間のことを好きになって陸に上がったからね。僕はあまり想像力がないからか、よく分からない」


 ホークは魚人のお兄さん――じゃなくてお姉さんと、髭の魚人のことを気にした。

 だからどんな様子だったか話してみると、突然怒りの感情が生まれる。


「あの逃げたやつって、髭の魚人をわざとパロマに殺させたんじゃねぇか? 鯨人ってやつはどうしようもないくらい強くて、町の実権を握ってるんだろ? 同じように人間を憎む魚人を送り込んで、憎んでないやつまで無理やり一緒に戦わせてる」


 驚いた。複雑に絡んだ、しかも話したばかりのことをホークはすんなり理解し、しかも自分なりの考えまでまとめたんだ。


「鯨人って気に入らねぇ仲間を喰うんだろ? だから魚人たちとしても、鯨人にいなくなってほしい。でも強くて勝てねぇから、人間を憎むふりをして一緒に攻めてきて、八地区で始末する。嫌なやつらじゃねぇか。どこがいいやつらなんだ」

「ちょっと待って。そう決めつけないでよ。何か別の事情があったのかもしれないし、もしホークの考えが合っているとしても、彼らにはそうせざるを得なかった。自分で仲間を殺したくないし、自分も死にたくないなら」


 言いながら僕は、ホークの考えは正しいと思った。

 お姉さんの矢が髭の魚人に命中したとき、その後も続けざまに矢が飛んできた。

 自分の攻撃が間違って仲間に当たってしまったら動揺する。背中を向けていたから心は見られなかったけど、続けざまの矢は的確で、動揺らしいものは感じなかった。


 魚人の町で会った六本腕は、魚人は人間のことが嫌いなわけではないと話した。

 もしかすると魚人の町は、真っ二つに割れている?


「祭り……」


 槍を捨てた男が鯨人を討つと言っていたのも、忘れていたわけじゃない。

 僕が知る前からあの人は町にいたんだ。単身で乗り込むにしては時間が経ちすぎている。


 堂々として、まっすぐな人だった。無謀だと分かっていても、本当に単身で乗り込むかもしれない。

 そして敗れてしまった。だとすればそんな話はこっちまで聞こえてこないだろう。だから僕は、今までそう思っていた。

 彼は敵に情けをかけたことを糾弾されて槍まで置いてしまった人だ。再び槍を取るだろうか。


 もしかすると彼は今まで、鯨人に不満を持つ魚人たちを味方に集めていた?

 困ったことにあの人ならどっちもあり得る。


「鯨人ってさ、殺してくれるやつを待ってるんじゃねぇか?」


 どきりとした。

 どうして鯨人を見てもいないホークに、そんな考え方ができるんだろう。


「だって、鯨人ってその気になれば自分で攻めてくるとか、ちまちまやらないで一斉に押し寄せるとかできただろ。ああ、もしかして祭りってそのことか? 八地区の人間を根絶やしにしてやる、その準備をするからしばらく待ってろ、みてぇな」


 ホークは本気で言ってない。でも僕にはそれもあり得る気がしてきた。

 鯨人の討伐は失敗し、邪魔者がいなくなったところで北の邪魔者を始末することに専念できる、とか。


「どうなんだろう。鯨人を討つ祭りか、人間を殺す祭りか……」

「……ん? パロマ、混乱してねぇ?」

「そうかな。そう、かも。むしろ君はどうしてそんなに平静でいられるのか気になるよ」

「たとえばこの手紙が油断させるための罠だったとして、今まで通り見張って、今まで通り負けるだけだろ」


 そうか。罠だという考え方もあるんだ。


「もしパロマの言う通り魚人たちがいいやつばっかだったとして、手紙はいい報せだっていうなら、どんな内容だ?」

「だから、しばらく攻めないから安心していいよ、みたいな……。あっ」


 そうか。これは停戦の取り決めでもなんでもない。もしそうなら、こちらとの話し合いが必要になる。

 向こうが〝もう攻めない〟ではなく〝しばらく攻めない〟としか言えないのは、先祖の念が誰に宿ってどうなるのか向こうにも分からないからだ。


 鯨人のように強くて人間を憎んでいる人が生まれる、あるいはすでにいるなら、争いは続く。

 それでもわざわざ知らせてきたのは、人間への敵意を持たない魚人が優勢になりつつあるからかもしれない。

 じゃないとこちらに〝休息〟を約束することもできないんだ。


「初めの解釈で合ってたんだ。ここの平和は〝しばらく〟続く」


 ホークは大きく伸びをして、多分な、とあまり興味がなさそうに答えた。

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