表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂鳥物語-現の鳩  作者: 千羽鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/34

二章 八地区に差す光:祭りが近い

 あくる日。いつも通り昼過ぎに石壁に向かう。

 魚人は頻繁ひんぱんに攻めてくる。だから僕は平和を求めて、戦場におもむく。

 戦場では戦士と医者が求められる。


 劣勢なのはやっぱり八地区のほうで、僕は戦士になるか医者になるかの選択を迫られた。

 戦える人はもういない。死んでしまった人と、大怪我を負った人。

 いつも通り、軽傷の人に医者を一旦任せて、僕は槍を握り直した。


 魚人の町からも二人の死者が出た。死体のほとんどは人間。

 残る魚人は二人。弓を構えた人と斧を構えた人がそれぞれこちらに鋭い目を向ける。

 たった四人で攻めて来たのか。


「こんにちは。お久しぶりですね」

「久しぶり……? お前、あの変わり者の人間か!」


 鯨人くじらびとのことを教えてくれたお兄さん(お姉さんだったっけ?)は親しみのある笑みを浮かべる。


「知り合いか?」

「一度話しただけだ。やりづらいが仕方ない」

「そうか。殺していい人間だな」


 もう片方の斧を持っているのは、ずんぐりと重そうな体格の、立派なひげが二本ある魚人。

 髭の魚人は強い憎しみを僕に向けている。鯨人くじらびとに見たものより複雑じゃなくて、同じくらい強い感情。


「無い尻尾しっぽとやらを振ってみるか?」

「そうしてもどうにもならないでしょうし、そうする気もありません」

「思っていたより見上げた人間だ」


 お兄さんが答えて弓を構え直すと、髭の魚人が突進してくる。

 斧を振り上げる腕に狙いを澄ませると、途端に矢が三本も飛んできた。

 横に避けて二人の攻撃を避ける。避けた先に飛んできた矢は槍で弾く。


 髭の魚人はそんなに速くない。僕は次の矢を射ろうとするお兄さんに向かって走った。

 次々と飛んでくる矢を弾きながら、後ろから追いかけてくる重い足音に耳を澄ませる。


 五歩くらいだろうか。


 最後の矢を弾きながら振り返り、髭の魚人の首に向かって槍を突き出すと、肩に命中する。

 背のほうから飛んできた矢を避ける。目前の腹に刺さり、髭の魚人は膝をついた。

 左側に回りながら胴体を切りつけつつ、続けざまの矢を柄で弾く。

 髭の魚人の真後ろまで回り込んで、その首をもう三度深く刺すと、ようやく倒れ込んだ。


「あとは貴方だけです、お兄さん。こっそり逃げるなら気づかないふりをしましょう」

「ならそうしよう。勝ち目はなさそうだ」

「魚人たちのご遺体はどうしますか?」

「好きにしろ。魚人は死骸を弔わない」

「町に戻る前に一つ教えてください。お兄さんは、人間を憎んでいますか?」

「今は別に嫌いじゃないが、同胞どうほうを殺したお前は憎い」


 そうは言っても、意外なことにお兄さんからは強い憎しみを感じない。


「先祖の念というものは呪いだ。俺は今のところ免れてる。だがそいつはそれに憑りつかれていた。憑りつかれた者が死ねば、別の同胞へと宿る」


 それじゃあ、争いがなくならないわけだ。

 なんてこった。もし鯨人を討てたとしても、同じような魚人が生まれるだけじゃないか。


「俺たちもお前の同胞を何人も殺した。だから同胞を殺されても文句は言えない。先祖の念が宿る者は、そう思わないだろうがな」


 油断なくじりじりと後退して、お兄さんは僕の槍が届かないところまで行くと、くるりと背を向けて走り出す。


「それから俺は女だ。じゃあな! 二度と顔を合わせないことを祈る!」

「し、失礼しました! 色々と教えてくれてありがとうございます!」

「張り合いのないやつだ!」


 石壁の向こうへと消えていったお姉さんは、最後に一本の矢を飛ばす。

 足元に刺さったそれには紙切れがくくりつけてあった。

〝休息。祭りが近い〟

 妙な文だ。でもこっちにとっては都合がいい内容。


「……パロマ?」


 振り返ると、思いもしない姿。

 ホークだ。彼はいつから見ていたんだろう。

 来たばかりだとしても魚人を殺したとは思うだろう。八地区の人たちはもう、退いていったのだから。


「これでしばらくは、ここの平和も続くね」

「たまにどこかに行くのは、こいつらを殺すためだったのか」


 ホークは怯えも嫌悪も見せない。見慣れた光景なんだろう。

 死体より僕が持つ紙片に目を向けるから、なんだか彼のことが余計心配になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ