二章 八地区に差す光:喰わざるの少年
早朝。
いつの間にかベッドの端に伏せて眠っていたようだ。
顔を上げると、少年はベッドの上で胡坐をかいてぼうっとしていた。
「寒くないの?」
「…………」
まだ寝ぼけているのか、返事はない。
構わず毛布を羽織らせてあげると、包まってぬくぬくと心地良さそうにまどろみ始める。
「ごめんね。でも死ななくてよかった」
昨日の、押さえつけたり無理やり手当てをしたことを言ったんだけど、少年には何を謝られたのかピンとこなかったようだ。
小首を傾げて考えるふりをしながら落ちていく瞼がおかしくて、僕は思わず噴き出した。
そうか。この子の瞳は、本当はバイオレットなんだね。
「僕は中立保護機関アモーレのパロマ。難しい事情があって、ここでお世話になってるんだ」
いつまでもここにいると家の主も困ってしまうだろう。
二枚の毛布でぐるぐる巻きにしても、抱き上げても、少年は不思議そうに見上げるだけだった。
意識がはっきりしてるかはちょっと分からないけど、一晩でずいぶん回復するものだと驚いた。
この子は鬼子と呼ばれる者だ。でも、本物の鬼ではない。鬼なら髪は金色のはずだし、瞳も紅いままだ。
少年の髪は紫色で、瞳も紅くなることはあるけど基本的には紫色のようだ。
魔族は紫色の瞳を持ってることが多い。そして魔力を開放すると、別の色に変わる。
ここは北部の果てだ。魔族は珍しくないだろう。
「君を僕の家に連れて帰るよ」
昨日とは打って変わって、少しも抵抗しない。
外に出ると眩しさに嫌そうな顔をしたから横を向くことを提案すると、素直に横を向く。一応僕の声は聞こえているらしい。
途中で出会った人のほとんどは気を遣って、あまり近づいたりしなかった。
今日は天気がいい。雲一つない空を久々に堪能しながら、僕たちはのんびりと白い家を目指す。
「パロマ。ケガは大丈夫なのか?」
昨日手伝ってくれた一人が声をかけてくれた。
「はい。さすがにまだまだ治ってませんけど、だいぶ落ち着いたようです」
「そうじゃない。お前のケガだよ。交替するか?」
僕の代わりに少年を抱こうと手を伸ばすと、今にも眠りそうだった少年の身体がびくりと強張る。
「お気遣いありがとうございます。もう少しなので大丈夫です」
状況を察したのか、男の人は手を引いて頷く。
「そいつのことは何か分かったか?」
「さあ? これからですね。この子は〝喰わざる〟です」
「そうか。他のやつにも伝えておこう」
男の人がいなくなるまで見届けてようやく、安堵したように身体の力が抜ける。
「僕のことはもう恐くないのかな?」
やっぱり返事はない。
少年はもごもごと毛布を引き上げて、隠れるように顔を埋めてしまった。




