二章 八地区に差す光:人間としての役割
白い木で造られた立派な建物。僕はそこに案内された。
かつて診療所と呼ばれていた白い家には、死ぬまで医者をしていたというアモーレが住んでいたらしい。
「ここの医者は、命を諦められるほうが向いてる。お前は向いてない。やらなくていい」
案内してくれた人は淡々と言うと、すぐに出ていった。
消毒液や様々な薬。家主が寝るためのベッドが一台と、患者を寝かせるための二台。
建物内は床や天井、壁や家具、それから棚も診察台も白い。
これだけの物が揃いながら、まるで空っぽだ。
トマトがあれば投げつけたくなるような天井。いや、そんなことをしちゃいけない。
「はは……」
一人で暮らすには広すぎる空間に、空虚な一人笑いが響く。
うっかりすると頭の中まで真っ白になってしまいそうな家で、僕はわざわざ運び直してもらった医学書と思われるものを開いてみた。
さっぱり理解できなくて別の、別のと手に取るうちに、かなり難易度の低そうなものを数冊見つける。
先達はここで一から医学を学んだのだろうか。それとも、自分が死んだあとに続く者が現れると信じたのだろうか。
僕が早く来ていれば、魚人の町で足踏みしなければ間に合った……?
今日は何人死んで、昨日は誰か死んだのか?
鯨人のことを調べずにまっすぐここに来ていれば、何か変わったのか?
そんなことを考えちゃいけない。僕は医者ではなく、歴史を記す役割の人間だ。
医療の知識がなくても分かる。さっき亡くなってしまった人は、少なくとも一朝一夕で身に着けられる程度の知識では助けられなかった。
歴史記録管理室の者としての役割じゃない。
それでも僕は医学書を読みふけった。
きっとこれは歴史云々ではなく、感情を持った人間としての役割。




