第98話
「ベレッタが死んだか、所詮は俺以下という事か」
父上は腕を組んで、要塞の跡地中央で俺達を待っていた。
「この世の中には二種類の存在がいる。俺か、俺以下だ」
「正気ですか」
「正気だ。俺が最強である事は明白だが、それを試さずにはいられないのだ」
「・・・やっぱり正気じゃない」
父上は剣を地面から引き抜き、肩に担いだ。
「俺を囲んでも無駄、全ての策は無意味だ」
「それはどうかな」
リーリャンが鳥の姿になり、俺の真後ろから飛び出す。
父上は剣を構えるが、リーリャンは父上の隣を素通りする。
『燃えろ、【グレン・スネイク】!』
炎の蛇がすれ違いざまに放たれ、父上の顔面に巻き付く。
「ほう、視界を塞ぐ作戦か」
「次だ!」
俺の合図と同時に、悪魔化したナナと狼の姿のサクラが飛び出す。ナナは背後から、サクラは真正面から父上に向かっていく。
『全力で!』
『一撃で!』
ナナの大剣の一撃と、サクラの爪の一撃が同時に打ち込まれる。
『なっ!?』
『やはりか!』
「全ては無駄だ」
父上は炎に顔面を巻き付かれながらも、サクラの首を掴む。そして自分の剣を振り上げ、サクラ目掛けて振り下ろした。
「【反転】!」
「ふむ、ギフトか」
サクラに振り下ろされた剣を、サクラの上に乗っていた俺が弾く。弾かれた衝撃で父上の手が離れ、サクラは俺を乗せたまま父上と距離を取った。
「ナナ!」
『はいであります!』
ナナが背負っていた火薬の樽を外し、父上に向かって投げ付ける。
『今だ!』
リーリャンが同時に炎を放ち、火薬の樽に着火する。
樽に火がついた瞬間、父上を中心に大爆発が起こった。
樽に括り付けた武器が飛び交い、至る所に突き刺さる。
『さて、死んでくれてると嬉しいんだがな』
『ぶち死んだはずでありますよ』
『あの爆発と大量の武器、攻撃を無効化するギフトでもあれは攻撃と判定されないはずだ』
「攻撃を無効化するギフトなら、な」
父上が炎の中から進み出る。身体中に刺さった武器は鋼の肉体の前に折れ、ポロポロと落ちて道を作る。
『マジか』
「作戦は終わりか? ならこっちから行くぞ!」
「散開!」
俺の掛け声と同時にみんな走り出す。父上は俺とサクラに狙いを付け、後を追ってくる。
俺はサクラの背中にしがみつきながら、父上に注意を払う。
「避けろサクラ!」
俺が叫んだと同時に、父上は瓦礫を拾って俺達に投げ付けた。まるで小石の様に扱ったが、父上と同じ程の大きさの瓦礫だ。
サクラは俺の掛け声通り、地面を蹴って飛び上がる。瓦礫は地面に直撃し、バラバラに砕けて散った。
「空中では逃げ場がないな」
剣を構えた父上が、俺達の目の前に現れた。
「【反転】!」
「無駄だ!」
一度弾くが、空中にも関わらず父上は二撃目を放とうとする。
『その体制じゃ、防御も出来ないはずであります!』
ナナが飛び上がり、大剣で父上に連撃を食らわす。父上は更にバランスを崩し、俺達に向けられた二撃目は空を切り裂く。
「鬱陶しい!」
『がっ!』
父上は体を捻ってナナの頭をわし掴み、地面に向かって落ちていく。
『【グレン・アロー】!』
「むっ」
ナナを掴む父上の腕に、無数の炎の矢が突き刺さる。ナナを掴む腕の力が弱まり、ナナは父上の腕の中から脱出して着地する。
父上は地面に叩きつけられるが、何事も無かったかの様に起き上がった。
『硬度と言うより、絶対拒絶に近い物がある。実際防御無視の炎の矢は、あぁして突き刺さっているしね』
『バイオレットと似た物理無効ギフトか、キツイな』
『ならリーリャンを主戦力に、ナナ達は注意を逸らしたり体力を削る方向でいくであります』
「いや断定は良くない。それに服や鎧に傷が付かない事に説明がつかない」
「作戦会議は終わったか?」
父上は腕に刺さった炎の矢をへし折り、地面に投げ捨てる。肩を回してから首を回し、ゴリゴリと音を立てて威嚇する。
『だがリーリャンの魔術なら効く、そこが頼りの綱だろう』
『誘われてたらどうするでありますか? 例えば魔術を受ければ受けるほど強くなるギフトとか』
『なら物理無効に説明が付かない、あの頑丈さは何かタネが無いとおかしい』
「・・・ありとあらゆる攻撃に対する絶対防御ギフトとか?」
『『『それは考えたくない』』であります』
三人から否定され、俺はちょっとしょげる。
痺れを切らした父上は咆哮を上げ、二本目の剣を取り出した。
「もういいか!? もう殺していいか!?」
『ヤバい、来るぞ!』
『ど、どうするでありますか!?』
『手も無い策も無い、一旦逃げるか?』
「いや、俺のギフトなら通じる」
俺はレニィの街での戦いを思い出す。
あの時、俺のギフトは父上の首を捻じ折った。だが、その直後父上は復活した。何事も無かったかのように。
あの一度だけだ、父上に有効打が入っていたのは。だから何か、可能性があるはずだ。
「この絶望的な状況を、ひっくり返してやろう!」
『なら我が運ぶ! ナナとリーリャンは援護を!』
『了解であります!』
『わかったよ!』
リーリャンが返事をした瞬間、リーリャンの首が跳ね飛ばされる。残ったリーリャンの体に、無数の斬撃が浴びせられ粉微塵になる。
「まず一匹」
『リーリャン!』
『ナナ一度離れろ!』
サクラは地面を蹴り飛ばし、父上から距離を取ろうとする。だが父上は素早く回り込み、両手の剣を天に掲げた。
「無双、覇道、俺にこそ相応しい言葉だ」
『クソッ! 狼王爪!』
サクラが爪を出して、父上の剣を防ぐ。父上の連撃で爪はバラバラに砕け散り、サクラの腹に深い傷を付けた。
「サクラ!」
『ナナァ!』
サクラは俺をナナの方に投げ飛ばす。
その直後、サクラの身を父上の剣が襲った。血が撒き散らされ、一瞬でサクラの全身は傷まみれになった。
ナナは俺を受け止め、父上の方に走り寄る。
『おりゃぁぁぁ!』
ナナは大剣を振り抜き、父上の横っ腹に重い一撃を食らわす。だが鎧に傷は付かず、ダメージにすら届かない。
「ふん!」
父上は片手の剣をナナに向ける。ナナは大剣と自分の体で父上の剣を受け止め、背中を丸め俺への道を作った。
その瞬間、サクラも父上の剣に噛み付き動きを止めた。
『旦那様!』
『お前様!』
「うぉぉぉぉぉぉ!」
俺はナナの背中を踏み台にして、父上の首に触れた。
「【反転】ッ!」
父上の首が捻れ、半周する。
「【反転】ッ!」
父上の首が一周する。
「【反転】ッ!」
落ちながら父上の体の各所に触れる。
「【反転】【反転】【反転】!」
父上の体は次々と捻られ、ひしゃげ、原型を保たなくなっていく。
剣を手放し、肉の塊になっても、俺は反転を続けた。
「【反転】【反転】【反転】ッ!」
肉の塊になり身動き一つできなくなった父上を前に、俺は佇んでいた。
「・・・【反転】」
父上だった肉の塊がひっくり返る。血と内蔵がミックスされた気色の悪い物体がこぼれ落ち、地面に血の溜りを作る。
『やったな、お前様』
「・・・うん」
『あんまり気に病むものじゃないであります、暴走を止めたんでありますからね』
「そう、だな・・・」
俺達は三人で、リーリャンの頭が飛ばされた辺りを見回す。
「リーリャンはどこだ?」
『そろそろ復活してる頃だと思うのであります、がっ』
ナナの腹を剣が貫く。地面に深々と突き刺さった剣に、ナナは串刺しになる。
『がっ、はっ? え?』
ナナの苦しそうな息遣い。俺達は振り向いた。
「ふぅ、死ぬかと思ったぜ」
『な、なんで・・・』
「なんであれで、生きてるんだ・・・」
父上は片手に剣を持ち、俺達に近寄る。
『が、ガルルル! バウッバウッ!』
サクラは頭を低くし、唸り声を上げて犬の様に吠え立てる。
父上はすれ違いざまにサクラを切り刻み、動かなくなったサクラを蹴り飛ばした。
「それで、終わりか?」
「そんな、馬鹿な事が・・・」
「じゃあ、死ね。魔族共」
父上が剣を高く振り上げる。
一瞬で振り下ろされた剣。
「・・・ッ!」
「ほう、生きていたか」
「あ、兄上!」
それを受け止めたのは俺の兄上、ベレッタ・バレンタインだった。




