第99話
「これ以上家族を・・・!」
「どういう風の吹き回しだ? お前が俺に逆らうなんて」
父上は兄上を蹴り飛ばし、斬撃をいくつも食らわせる。兄上は高速の剣捌きでその斬撃を防ぎ、父上に斬りかかった。
「危ないところだったね」
「リーリャン!」
リーリャンは炎の翼をはためかせ、上空から俺の目の前に降り立った。
「飛ばされた首から復活したが、要塞の外でね。そこであの二人を見つけたんだ」
「二人?」
「私の事です、ジハード」
リーリャンの背中から、エルフ耳がはみ出る。
「お前は、エル!」
「えぇエルです、そんなに驚かないでください」
エルは傷まみれの状態で、息も絶え絶えの状態で背負われていた。
「あの傷でどうやってここまで?」
「優しい風が背中を押してくれました・・・ボーディガン様は?」
「俺がここに来た時にはもう死んでいた」
「そうですか・・・ならボーディガン様の野望は私が引き継ぎましょう」
「まだ懲りて無いのか?」
「その為には奴が、レオーネ・バレンタインが邪魔者です」
エルはリーリャンの背中から降りて、俺に向かって両手を差し出した。
「今の私に戦闘は出来ません、でも戦力は必要でしょう?」
「・・・いいのか? 俺達は敵だぞ」
「障害を乗り越えるまでの同盟です、経験あるでしょう?」
「いいだろう、僕はその手に乗ろう。ジハードはどうする?」
リーリャンは迷いなく、エルの手を取る。
俺は倒れたままのサクラや、意識を失ったナナを見る。
「俺達が戦っている間、エルは二人を助けてくれ」
「いいでしょう、契約ですね」
「よし、俺も乗ったぞ。頼んだぞ、エル」
俺もエルの手を取る。その瞬間、俺とリーリャンの体が光り始める。
自我が溶け、体が溶け、意識も溶ける。エルの体を通じて二人が混ざり合い、一人に融合する。
「【融合・合体】!」
『・・・』
黒い装束に赤い装飾。長い黒髪を指で巻き取り、風に靡かせる。
巨大な黒い大鎌の先を撫で、その先端をレオーネに向ける。
『あれ、僕の敵だね』
「お、お前は?」
『僕に名前は無い。相応しい名前を借りるとするなら、僕は《《死神》》と名乗るしね』
「死神・・・!?」
『いいから君は自分の仕事しなよ、殺すよ?』
「わ、わかった!」
エルは体を引きずりながら、ナナとサクラの方に向かう。
僕も鎌の先端を撫でながら、ベレッタとレオーネが戦っている場所に歩いて向かう。
『ねぇ、僕も入れてよ』
「あん? 何者だ貴様」
「なんだ、誰だ?」
『ベレッタは休んでていいよ、僕がやるしね』
大鎌を振り上げ、一瞬でレオーネを切り裂く。だがレオーネの体に傷は一切付かず、キョトンとした顔をしていた。
「ふん、無駄という事が分からんのか?」
『いいや、無駄じゃないよ。取るもん取ったしね』
「はぁ?」
僕は大鎌の先をレオーネに見せる。そこには、赤々とした心臓が大鎌の先端にぶら下がっていた。心臓は鼓動を続け、力強く脈動を続けている。
『【概念摘出・心臓】』
「なっ、はっ?」
レオーネは自分の胸を強く押す。心臓の音が聞こえなかったのか、露骨に焦り始める。
まるでそれに呼応するように、大鎌の先端の心臓も動きを弱めていく。
『もう助からないよ、心臓を抜き出したしね』
「俺が・・・負ける?」
『そう、負け。君は死ぬ』
「認めない・・・認めない!」
突然大鎌の先の心臓が跳ね上がり、大鎌自体がレオーネに向かって引っ張られる。
僕は急いで心臓を握り潰し、地面に叩き付ける。
だが潰れた心臓はすぐに元の形に戻り、レオーネの胸の中にめり込んで行った。
「俺が負ける!? こんなヘニャヘニャの小僧に!? ありえない! 認めない! 俺は勝者、俺は覇者だ! この世で最も強く偉大で、最高の人間だ!」
『なんて奴だ』
レオーネは雄叫びを上げ、片手に持った剣を振り上げ迫ってくる。大鎌で剣の攻撃を受け止め、隙を見て大鎌の先端で頭を切り裂く。
『【概念摘出・脳】』
「がっ、あっ」
『脳を摘出した、もう考える事も出来ないよ』
「ぐっ、うぅ!」
脳を摘出したにも関わらず、レオーネは僕に攻撃を続ける。本能による攻撃は単調だが、レオーネの技術や攻撃力は十分に脅威となり得た。
『もうそろそろ時間だ、変わってくれる?』
「わ、分かった!」
ベレッタが頷いたのを確認すると、僕はレオーネから距離を取った。心臓は大鎌から外れ、レオーネの頭に吸収された。
それと同時に僕と変わるようにベレッタがレオーネに斬り掛かる。
僕はエルの側まで戻り、自分の体に手の平を当てる。
『【反転】』
体が光り輝き、一つだった意識が分裂する。まるで弾かれる様に俺達は分裂した。
「うげぇ! 意識が混ざり合うのは不快だ!」
「リーリャン大丈夫か?」
「僕はこの融合に向いていないみたいだ、すごい気持ち悪い・・・」
「殺しきれませんでしたね」
サクラの手当をしながら、エルが声を掛けてくる。
「次は、ナナが行くであります・・・」
腹に包帯を巻かれたナナが体を起こす。
「その負傷、融合の負荷に耐えきれないかもしれませんよ」
「それでもナナはやるであります」
ナナはエルの手を取る。
エルは驚いていたが、俺に向かって手を差し出した。
「ナナ・・・」
「連続して融合した時の負荷は私には想像出来ません、それでもやりますか?」
「ナナが覚悟を決めているんだ、俺もやるよ」
俺はエルの手を取った。
また自我が溶け始め、ナナとの融合が始まる。溶け、混ざり、一つになる。体が、自我が一つに整形される。
「どうだ?」
『うん、悪くないよ〜☆』
自然とテンションが高くなる。笑みが溢れ、白い翼が生え体が宙に浮き始める。
白い装束は風を纏い、その風は羽衣となった。
「お前は」
『俺は《《天使》》! 世界で一番可愛くて、世界で一番強い女の子だよ〜☆』
「なんだこいつ・・・」
まるで破綻した存在を見つめるように、エルが俺の事を見つめる。
『今から全員殺すから、覚悟しててね〜☆』
「ぜ、全員!?」
『まずはあそこのデカブツから! 待っててね〜☆』
俺は翼を広げ、要塞跡地を飛び回る。十分に加速を付け、レオーネに向かって指を鳴らす。
『ほいっ☆』
俺の体から光球が放たれ、それが体の周囲で衛星の様に周回を始める。そして狙いを付けレオーネに向かって指を向けた。
『そ〜れっ☆』
俺の周囲を飛び回る衛星から、レーザーが放たれる。レオーネとベレッタはレーザーを剣で弾き、俺の方に注意を向けた。
俺はわざとらしく翼を広げ、笑顔を二人に振り撒いた。
『こんにちは☆ 殺しに来たよ☆』
「次はなんだ・・・?」
「強者か! 俺と戦え!」
レオーネは剣を振り回し、俺の光球を次々と切り裂く。だが無尽蔵に体から吹き出る光球は、尽きる事は無い。
『うざい〜☆ 死んじゃえ〜☆』
「はははははは!」
光球からレーザーが放たれ、次々とレオーネに向かう。レオーネはレーザーを片っ端から撃ち落とし、俺に向かって剣を振る。
『はい、残念☆』
「ぐっ」
レオーネの背後に忍ばせた光球からレーザーが放たれ、レオーネの体を貫く。
『まだ終わらないよ〜☆』
レオーネの体を貫通したレーザーは俺の周囲の光球に吸収され、反射して更にレオーネの体を細切れにした。
『まだまだ〜☆』
光球はレオーネを取り囲み、次々とレーザーが照射される。一瞬でレオーネの体はバラバラに引き裂かれ、その細かな肉片すらも蒸発させる。
『ふぅ☆ 駆除完了☆』
「くくく、くはははははは!」
『え〜!? キモ〜☆』
蒸発させた細切れ肉から、レオーネの体が再生する。
レオーネは治りかけの体で剣を持ち、俺の体を切り裂いた。
『いった〜い、退散退散〜☆ 【反転】!』
俺は自分の体に手を当て、融合を強制的に終わらせる。
弾ける様に分裂し、俺とナナに別れる。
「おっ、おぇぇぇ!」
俺はその場に内蔵の中身を吐き出した。酷い頭痛と吐き気、内蔵の中で何かが暴れる様な感覚。
父上はそんな俺に近付き、剣を振り上げた。
「何だか知らんが、お前を殺せば解決だな」
「・・・っ」
「父上!」
父上に向かってベレッタが叫ぶ。
「お願いです、これ以上家族を手に掛けないでください」
「家族?」
「そいつは・・・俺の弟の、《《ジハード・アーサー・バレンタイン》》です!」
父上は俺の顔を見つめる。そして、ハッとした様な表情をした。
「アイツか、あの《《失敗作》》の!」
「失敗作・・・?」
「お願いです父上。これ以上、これ以上・・・」
「そうか、全て繋がった」
父上の顔は、冷酷そのものだった。
「お前も失敗作だったか」




