第96話
戦場に混乱が走り抜ける。異常事態に人間軍も、王国軍も、そして残った数少ないギフター達ですら狼狽え戦闘をやめていた。
「えっと・・・?」
「・・・」
フランは混乱を隠し切れず、解決を求めて俺達の顔をそれぞれ見つめている。
リリーナは片眉を釣り上げて、瞼を痙攣させている。
『手始めに! 俺が世界最強である事を証明する為に、この世界に生きる全ての生命体を殺す!』
レオーネの宣誓に、どよめきが沸き立つ。
『人間だろうが獣人だろうがエルフだろうがドワーフだろうが龍族だろうが妖精だろうが魔族だろうが魔王だろうが! 全ての生命体の命は俺の手のひらの上だ! 俺が自由に扱う!』
「無茶苦茶言いやがった・・・!」
『手始めに人間の国を滅ぼす! その次は連合を! 諸種族を殲滅しながら魔物を絶滅させ、魔族を全員殺す! 魔王は不老、何年掛かろうとも俺が世界最強である事を証明してやる!』
また戦場に獅子の雄叫びが轟く。
この世界に対する宣戦布告の雄叫びである事は、そこにいる誰もが理解できた。
「そ、そんな事させない! 私が話を付けてきます!」
「フラン様!?」
要塞跡に向かって駆け出そうとするフランを、リリーナが引き止める。
「まだゾンビがいます! それにレオーネ・バレンタインは正気じゃない、発言通りなら殺されてしまいます!」
「それでも自国民を守るために! 私は行かなくては!」
「おいおい待てよフラン、危なっかしい事は我らに任せろよ」
サクラがフランを担ぎ上げ、リリーナに投げ渡す。
「よしナナ、ありったけの火薬と武器を集めろ」
「了解であります!」
「リーリャン、上空からレオーネのいる場所を見つけろ。声の出処から、恐らく要塞の中央あたりだろう」
「わかったよ」
「フラン、リリーナ、ジハードとホバ、それとエルを連れて即座に撤退しろ」
「わ、わかった!」
「おい待てサクラ、俺をどうするって言った?」
サクラは俺に背を向けた。
「もうお前様は戦えない。その傷だ、動けているのが奇跡だ」
「でも」
「ダメだ、お前様の命の方が大事だ」
「サクラ達の命も俺にとっては大事だ」
俺が動けないのは分かっている。命の灯火がもう消えかかっているのは分かっている。でも不思議と動けている、まだ戦える気がする。
だから俺はまだサクラと一緒にいる。サクラ達と一緒に戦う。
「俺も行く」
「ダメだ! お前様は死ぬ!」
「死なない! 俺は絶対に死なない!」
「いいや死ぬね! 確実に死ぬ!」
「あの二人何やってるんでありますか?」
両手いっぱいに武器と火薬樽を持ったナナが、よろけながら戻ってくる。
リリーナとフランは苦笑いを浮かべながら、俺達のやり取りを見守っている。
「行く!」
「行くな!」
「行く!」
「行くな!」
「はいはい、二人ともそこまでであります!」
睨み合い揉み合う俺達の間に、ナナが割って入る。
「旦那様は連れて行くであります!」
「ダメだ! 絶対に死ぬ!」
「主様はアイツに勝ち目がなかったら、自分の命を投げ捨ててもナナ達を逃がすつもりでありますよね?」
「うぐ」
「お見通しであります。そんな事させないであります、死ぬ時はナナ達も一緒であります」
『そうだとも!』
炎の鳥のリーリャンが降り立つ。
「よっと。僕は不死鳥だが、あの強さの敵は初めてだ、ほんとに死んでしまうかもしれない」
「だ、だったらなんで!」
「死とは一番縁遠い僕も、君達となら死んでもいいと思ったからだ」
「おかしい、おかしいよ!」
サクラは取り乱しながら、二人の顔を交互に見る。
「そういう事だサクラ、俺も行く」
「なんで、なんで・・・我はお前様やナナやリーリャンに生きてて欲しいだけなのに!」
「それは俺達も一緒だ、サクラに生きてて欲しい」
「うっ」
「だから俺達は一緒に行く、死ぬ時も一緒だ」
「・・・馬鹿共が」
サクラは火薬の詰まった樽を担ぎ、要塞の跡地へと向かう。ナナは大剣を背負い、沢山の武器を両手に持って後に続く。リーリャンは俺に肩を貸しながら、サクラの後に続く。
俺は自分の中の炎を保ちながら、要塞跡地に向かって進んだ。
兵士やギフター、ゾンビ達の死の山を掻き分け突き進む。要塞は崩れ落ち、巨大な城壁の様に積み上がっていた。門だけは立派に佇んでおり、その前には一人立つ人物がいた。
「・・・来たか」
剣を地面に突き立て、門を守るように仁王立ちしている。
「兄上・・・」
そこにいたのは【剣聖】、ベレッタ・バレンタインだった。




