第94話
「エル!」
「あの傷でまだ動けるのか!」
エルはボーディガンの隣で上半身だけを起こし、腕をブラックホールから引き抜いた。血の着いたナイフをブラックホールから引っ張り出し、自分の腹の上に置いた。
『カカッ、その忠義見事だ・・・』
フォームは指揮棒を手放し、その胸に空いた傷を抑える。だが手の間から血はドクドクと流れ出し、あっという間に地面に血溜まりを作る。
「私は最期の瞬間まで、ボーディガン様の為にこの命を使います」
「流石だL、良くやってくれた」
『だが、それは持っていかせてもらうぞ』
フォームが足で指揮棒を蹴り飛ばす。蹴られた指揮棒は一直線に飛び、ボーディガンの目を貫いた。
「くっ!」
「ボーディガン様!」
『カカカッ! 俺様はここまでだ』
フォームの体は空気の抜けた風船の様に萎み、ホバへと形が戻っていく。
『我が側近ホバに伝えよ』
「あ?」
『この長い時をよく働いてくれた、人として生きろ。とな』
「あぁ、伝えとくよ」
サクラが伝言を承諾すると、フォームは満足そうな顔をして目を瞑った。そして目を開くと、優しいホバの表情に戻っていた。
「あれ・・・?」
「おいホバ、フォームから伝言だ」
「我が王から・・・?」
「人として生きろってな」
「・・・え、心臓突き刺されてるのに?」
ホバは血を吐き、その場に倒れる。
ボーディガンは目に突き刺さったレイピアを引き抜き、地面に投げ付ける。
「【未来を見るギフト】が使えなくなった所で、今のお前達相手なら支障はない! トドメを刺してやる!」
「フォームが時間を稼いでくれたおかげで、ゆっくり休憩出来たよ。第二ラウンドと洒落こもうか!」
「ナナもまだまだやれるであります! 腹ぶっ裂かれた程度で戦闘不能なんて、情けない真似出来ないであります!」
「三対一、数の有利で戦おうじゃないか」
俺の目の前に、三人が立ち並ぶ。
だが、ボーディガンの顔にはまだ余裕があった。
「未来が見えないからと言って俺が弱くなった訳ではない。お前達はここで死ぬんだよ!」
ボーディガンの指輪が光り輝く。見えない斬撃が列を成して、俺達に向かってくる。
ナナが大剣を盾に、見えない斬撃を全て真正面から受け止める。
サクラとリーリャンが両側に展開し、ボーディガンを挟み込むように迫る。
「鬱陶しい!」
稲妻が二人の道を阻むように地面に叩き付けられる。二人は稲妻の間を抜け、ボーディガンの懐に入り込む。
「おらぁ!」
「無駄だ!」
サクラの爪を、ボーディガンの双剣が防ぐ。だが、背後ががら空きになった。
「撃ち抜く!」
「消えろ」
リーリャンが準備した魔術が、ボーディガンの指輪のギフトによって打ち消される。だが、リーリャンは立ち止まらず、ボーディガンに接近し背中に直接炎を叩き込んだ。
「ぐっ! 吹き飛べぇ!」
全身を炎に包まれながらも、ボーディガンの指輪が光る。衝撃波が放たれ炎はかき消され、二人は吹き飛ばされる。
「おりゃあ!」
吹き飛ばされた二人に変わって、ナナが前進してボーディガンに切り掛る。ボーディガンは双剣でナナの大剣を受け止めるが、受け止めた双剣が大剣の重量でヒビ割れる。
「まだ、負けられない!」
エルのブラックホールが足元に出現し、ナナが落下する。ナナはボーディガンから離れた場所に出現するが、ボーディガンの目の前には拳を構えたサクラが立っていた。
「次は殺す」
サクラの拳が黒く光る。
「【障壁を出すギフト】! 【鉄の壁を作るギフト】! 【城壁を出すギフト】!」
ボーディガンとサクラの間に何重もの壁が作られる。だがサクラの拳は、その全てを突き破った。
黒い閃光と共に、サクラの拳がボーディガンに直撃する。ボーディガンは吹き飛ばされそうになるが、地面に足を踏ん張って耐える。
「ぐ、がはっ!」
ボーディガンは地面を捲り上げながら後退し、地面に膝を着く。
「【エネルギーを破壊力に変換するギフト】、【砲撃を放つギフト】、【射出物が必中になるギフト】!」
ボーディガンの腕の先に、エネルギーの弾丸が生成される。ボーディガンの全ての指輪が強く光を放ち、そのエネルギーの弾丸に吸収されていく。
「俺がやる、サクラは下がっていてくれ」
俺が前に出るとサクラは構えを解き、俺の肩を叩いた。
「頼むぞお前様」
「あぁ、任せろ」
「俺の前から消え失せろ! 【《《ギフトキャノン》》】!」
ボーディガンの腕から巨大なエネルギー弾が放たれる。俺達に向かって飛んでくるエネルギー弾は、壁や天井を破壊して俺達に突き進んでくる。
俺は腕を前に突き出し、エネルギー弾を真正面から受け止めた。
「【反ッ転ッ】!」
エネルギー弾は俺の腕に触れると同時に方向を反転、ボーディガンに向かって飛んでいく。
「馬鹿な、馬鹿なぁ、馬鹿なぁぁぁ!」
エネルギー弾がボーディガンに直撃し破裂する。轟音と共に凄まじい光が弾け、大量の熱が放たれた。
焼け跡には、ボーディガンがポツリと立っていた。
「ば、かな・・・」
ボーディガンはそれだけを言い残し、地面に倒れた。
「死んだか?」
「いや、まだ息があるようだ」
「とっととトドメを刺すであります」
三人はボーディガンを最大限警戒しながら接近する。
俺は少し離れた場所でその様子を眺めていた。俺の体は限界を迎えていた、もう一歩も動けないという確証があった。
「・・・」
だが倒れる気はしなかった。やり遂げたという達成感と、心地よい疲労感でぼーっとしていた。体が軽い、今にも天に昇りそうだ。俺の後ろから光が差し込む。
光が。
「おーおー! こんな所に隠れてやがったのか!」
誰かがこの空間に入ってくる。どんな流れ弾が当たっても崩れもしない、向こう側の気配すら感じさせなかった壁を崩して。
外からの光と、戦場の熱気。血と汗と鉄の臭い。全てが同時に流れ込んでくる。
それと同時に、俺の心の中には一つの感情が呼び起こされた。
「・・・!」
「よぉ、魔族の負け犬。また会ったな」
俺の後ろに立っている。俺は震えながら、恐怖の渦中に呑まれながら振り返る。
そこには俺の父上、レオーネ・バレンタインが立っていた。




