第88話
「我こそが、この世の王になるに、相応しい・・・!」
ソロモンはゆっくりと壁から起き上がる。
「しぶといな、もう決着はついたってのによぉ」
「トドメはサクッと刺してやるでありますよ」
ソロモンの目の前に、サクラとナナが立ち塞がる。
だが、ソロモンの目にはまだ闘志が宿っていた。
「何かまだやる気だぞ!」
「S! 城を大きく揺らせ!」
ソロモンが大きく叫ぶ。その瞬間、要塞が大きく傾いた。サクラとナナは吹き飛ばされ、傾いた地面を転がった。
「我にはまだ勝機はある!」
二人の包囲を抜け出したソロモンは、体制を立て直して立ち上がる。
「指輪よ! 魔術の深奥を我が手に!」
ソロモンの指に付けられた十の指輪が光を放つ。部屋中に貼られた札が呼応する様に光り輝き、触手が現れ俺達を攻撃する。
「あの触手をなんとかしろ!」
「数が多いであります!」
「ジハード、ホバ、こっちに!」
リーリャンが俺達を掴み、部屋の隅に纏める。だが、そんな俺の足を触手が掴んだ。
「なに!?」
「ジハード!」
「お前様に何があった!?」
サクラが触手の向こう側から声を上げる。俺は触手に引き摺られ、部屋の向こう側に引っ張られる。
そして、俺の首を誰かが掴んだ。
「動くなてめぇら!」
ソロモンが叫ぶと同時に、触手が札の中に収納される。俺の首を掴んでいたのは、ソロモンだった。
「お前様!」
「旦那様!」
「すまない、僕がいながら!」
「動くなって言ってるだろこのクソボケ共がぁ!」
ソロモンは俺の首を掴む手に力を入れる。首の骨がミシミシと音が鳴り、呼吸が苦しくなる。
サクラ達は動きを止め、俺とソロモンをじっと見つめる。
「いいか、一歩たりとも動くなよ!」
「ごめんサクラ、俺のせいで!」
「てめぇも喋ってんじゃねぇぞスカタン!」
ソロモンは俺の顔を、空いた手で殴り付ける。
まるでサンドバックの様に体が跳ねるが、衝撃が逃がせず変な呻き声が漏れる。
「S! 先にこいつらが大切にしているガリュオーン王国軍を殺す! その後こいつらをなぶり殺しにしてやる!」
「さっきから誰に話しかけているんだ?」
「七騎士の一人、この城を操るSだ! 質問一つにつきこいつを痛めつける!」
ソロモンは俺の横腹に、雷魔術を纏わせた拳を叩き込む。閃光が走ると同時に、内蔵が焼ける感覚が走り抜ける。
「次の質問は!」
「・・・」
「よし。窓の外を見てみろ、許可する」
サクラ達が窓の近くに寄り、窓の外の様子を伺う。
「要塞の移動速度が早くなっている! もう王国軍の目の前だ!」
「そうだ! 貴様らを絶望させてやる! 我を痛め付けた貴様らを!」
「そのスーパーって奴を見つけないと、王国軍が踏み潰される!」
「S! 火球を撃て、ガリュオーン王国に火を放て!」
ソロモンの合図とともに、窓の外から赤々とした光が灯る。要塞の中心部が開き、内部から小さな火球が現れる。魔力が注がれ、火球はどんどんと巨大になる。
あっという間に太陽の様な大きさになった火球は、燃え盛る森の向こうのガリュオーン王国に狙いを定めた。
「もう止まらん! 王国と王国軍を殺した後は貴様らだ! 撃てS!」
火球が放たれた。
その瞬間だった。
「伏せろ!」
サクラがナナとリーリャンを引っ張って窓から飛び退く。
無音が、空を割いた。
視界が白く染まる。いや、正確には急に飛び込んできた外の光に、目が慣れていなかった。
太陽は俺達を覗き込み、あの閉鎖的だった部屋の大半は吹き飛んだ。耳鳴りが頭痛を引き起こし、突風が全身を殴り付ける。
「___!」
サクラがまた何かを叫んだ。それと同時に、止まっていた時が動き出した。
「うわーっ!」
光の束がまるでビームのように、要塞の半分を消し飛ばした。火球も消滅し、衝撃音と要塞の崩れる轟音が響いた。
王国軍を踏みつぶそうとしていた要塞の歩みは止まり、俺達からもその姿が確認出来た。
「な、」
「ガォォォォォォ!」
獅子の様な咆哮が、戦場の隅々にまで響いた。
「援軍だ!」
「人間族の援軍が来たぞ!」
獣人達の声援が轟く。それと同時に、銅鑼と喇叭の音が鳴り響く。
燃え盛る森には一本の巨大な線が伸び、そこから大勢の軍隊が行進していた。
「我ら人間族の援軍也! 災厄魔王ボーディガン討伐に助太刀いたす!」
兵士達の雄叫びと同時に、人間族の兵士達がゾンビとギフターに襲いかかる。ガリュオーン王国軍と挟撃の形になり、ギフター達は慌てふためく。
「おい、あの咆哮って・・・」
俺の小さな呟きは、俺達の中で不安となって伝播した。
「な、なんだ今のは!? なんなんだ今のは!」
ソロモンは慌てふためき、俺の首を掴んでいる手を緩めた。
俺はその瞬間を逃さなかった。
「おぉ!」
ソロモンの胸を押しのけ、胸部に触れる。
「【反転】!」
「がっ!」
ソロモンの心臓を反転させる。心臓は動きを止め、ソロモンは胸を抑えて苦しそうに掻きむしる。
俺はその隙にソロモンの腕から脱出し、サクラ達の元に走り寄る。
「ぶっ殺してやる!」
うずくまるソロモン目掛けて、サクラが飛びかかった。
「かっ、雷よ!」
ソロモンは自分の拳に雷を纏わせ、自分の胸を殴りつけた。
「電気ショックで心臓を動かしたぞ! 早くトドメを!」
サクラの拳が迫る。その瞬間、ソロモンの指輪が光った。
「・・・また消えた」
ソロモンの姿は、煙の様にすっかり消えていた。




