第87話
俺達は暗い階段をただひたすら登っていく。どれくらい登ったかは分からないが、うっすらと上部に明かりが見え始めた。
「ここは?」
階段を登りきった先、そこには研究室の様な部屋が広がっていた。
「ようこそ、愚者共よ」
「誰だ!」
部屋の奥に置かれていた椅子が回転し、マントを付けた女が姿を現す。
「我は魔術王ソロモン、またの名を七騎士のM。全ての魔術を操り、この世の王となる存在だ!」
「ソロモン? また大きく出たな」
ソロモンは大きくマントを翻し、椅子から立ち上がった。
大きい、リーリャンよりも二倍ほど大きな身長だ。俺達を見下ろすその瞳には、黒いよどみの様な物が見て取れた。
「貴様らにはここまで来た褒美として、極上の死をくれてやる!」
「な〜にが褒美だ、魔術師如きに遅れを取るかよ!」
「おい、それ僕にも刺さるからな」
リーリャンが冷静にサクラに突っ込む。俺はホバを部屋の隅に下ろし、部屋の中を見渡した。
魔術的な装飾や観葉植物、何かの書物が山の様に積み重なっている。部屋の各所には札の様なものが貼ってあり、床には水晶やポーションがいくつも転がっている。
「貴様も魔術師か、ちょうどいい」
ソロモンは片腕を伸ばし、指を一本立てる。
「我の偉業をその者たちに語り聞かせる事を許可する!」
立てた指から、炎が吹き上がる。まるで炎の鞭のように振り回し、俺達に襲いかかってくる。
「チッ、火の魔術を使うなんて僕と被り過ぎだろ!」
「言ってる場合か! ナナ、行くぞ!」
「はいであります!」
サクラとナナが炎の鞭を掻い潜り、ソロモンの足元に潜り込む。
ナナが大剣を、サクラが拳をソロモンに叩き込もうとする。
「無駄だ!」
ソロモンが足を踏み鳴らすと、足元から水柱が溢れ出す。一瞬で水の壁を作り上げ、サクラとナナは弾き飛ばされる。
「なに!?」
「はっ!?」
「まだ終わらん!」
水柱の向こう側から、風の刃が放出される。ナナとサクラ目掛けて飛んでいった風の刃を、リーリャンが炎でかき消した。
「ありえない!」
「何がありえないんだリーリャン!」
俺の問いに、リーリャンは額に汗を浮かべながら振り返る。
「魔術とは一人につき一属性しか使えない、魔術とはギフトだからだ。だが奴は今、三つの属性の魔術を使ってみせた!」
「どういう事だ!?」
「奴は世界の法則を捻じ曲げている、本当に魔術の王かもしれない」
「良い! 驚愕し、我の偉業を讃える事を許す!」
水柱が収まり、ソロモンが歩み進む。
地面から突然土の槍が飛び出し、それをソロモンが掴み取る。
「我は万能にして全能! 我に不可能はない!」
「火、水、風と来て、今度は土の魔術・・・一体何属性操れるんだ」
「無論、全てである!」
ソロモンが槍を振るうと、白と黒の球が放たれる。その光の玉はふわふわと空中を漂い、サクラとナナを囲った。
「気を付けろ! 触ると爆発するぞ!」
「こんなもの当たるかよ!」
サクラは軽い身のこなしで光の玉を避け、ソロモンに近寄る。
ソロモンは槍を振り回し、サクラを迎え撃つ。
「はーっはっはっはっはっ!」
ソロモンは高笑いしながら、サクラと槍を使って壮絶な接近戦を繰り広げる。
サクラは体術で戦うが、ソロモンの操る槍のせいで間合いまで近付けていない。
「やっと抜け出せたであります」
光の玉郡から抜け出したナナは、大剣を引きずって部屋の中をひっくり返しながらソロモンに近付く。
「ふん!」
ソロモンはサクラと戦いながら、指を指揮者の様に動かす。すると部屋の中の観葉植物が動き出し、あっという間にナナを拘束した。
「うわっ!」
「自然魔術・・・! 僕が焼き切る!」
「あちっ! あちっ!」
リーリャンが炎を出し、ナナごと植物を焼き尽くす。ナナは地面を転げまわり、炎を部屋中に撒き散らしながら消化する。
「我の研究室を荒らすな!」
「我との戦いで余所見とは、いい度胸だな!」
ソロモンの一瞬の隙を突き、サクラが槍を乗り越えソロモンの腹に本気の拳を叩き込む。空間にヒビが入り、ソロモンの体を一瞬で蝕む。
「効かんな、そんな生温い一撃などな」
「なに!?」
「力の魔術だ! 離れろサクラ!」
離れようとしたサクラの腕を、ソロモンが掴む。
「だが一発は一発、やり返させてもらう!」
ソロモンは拳を振り上げる。その拳は帯電し、稲妻を纏っている。
一瞬光が強くなり、サクラ目掛けて拳が振り下ろされる。サクラの顔面にソロモンの拳がめり込むと同時に、部屋中に閃光が走る。
俺達の体を稲妻が走り抜け、熱と同時に痛みが走る。
「雷魔術・・・!」
「もうなんでもありでありますね」
「サクラ!」
サクラはソロモンの足元で、地面に倒れている。ソロモンはそんなサクラの頭に足を乗せ、何度も踏み潰す。
「弱い、弱いぞ魔王! 我の魔術の前に何人足りとも立つ事は許されん! 跪けゴミ共!」
ソロモンが大きく足を振り上げ、稲妻を纏った足をサクラに振り下ろす。
その瞬間サクラが跳ね上がり、ソロモンの体を一瞬でよじ登った。
「その首食い破ってやる!」
「くぅ!」
サクラがソロモンの首に迫り、噛みつきかかる。その瞬間ソロモンの指輪が光り輝く。
「え?」
突然、ソロモンの姿が消えた。サクラは地面に落ち、周囲を見渡す。
「な、どこに行った!? しっかり掴んでいたのに!?」
「跪け!」
ソロモンが部屋の奥から現れ、稲妻が部屋を満たす。
俺達は稲妻に貫かれ、そこ場に倒れた。
「なんだ・・・まるで時間を止めたみたいに・・・」
「時間魔術・・・記録にしか残っていないぞそんなら魔術!」
「痺れる、体が動かないであります・・・!」
「我こそ魔術の王、この世界を支配するに相応しい王である!」
ソロモンは高笑いを上げ、椅子に座り直した。
俺は痺れる体を起こし、ゆっくりと立ち上がる。
「おい、ソロモン。王になるって言ってるな?」
「そうだな、我こそ王に相応しい」
「ならボーディガンの事はどう思っているんだ? あいつにひれ伏しているのはどういう事だ?」
「・・・」
突然ソロモンは黙り、その表情を暗くした。
黙ったまま指を動かし、植物にポーションを持ってこさせる。
「我は魔術において最強である。肉弾戦も出来るし、不可能はない」
「ならどうして」
「だが! 我では・・・」
「こんなに強いのに、勝てないのか?」
ソロモンはポーションを飲み干し、俺に向かって空の瓶を投げつけた。
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ! 我は最強、我は無敵、我こそ真の王に相応しい! だが奴と争えば、世界は壊滅的な被害を受けるだろう! だから戦わないのだ!」
「・・・なぁんだ」
サクラが嘲り笑うように言い放つ。
「お前、勝てないからって言い訳してるんだな」
「ッ!!!」
ソロモンの背後から、魔術が溢れ出す。怒りに満ちた表情をしたソロモンは、息を荒らげながらサクラに近付く。
「撤回しろ! 我は寛容である!」
「嫌だね、お前はボーディガンより弱いんだからな」
「最後の忠告だ! 撤回しろ!」
サクラは立ち上がり、ソロモンの前に立つ。
「雑〜魚♡」
「ッ!!!」
ソロモンはサクラの首を掴み、地面から持ち上げる。拳を握り締め、魔術を纏わせる。
「死ね!!!」
俺は走り出し、ソロモンの拳に触れた。
「【反転】!」
サクラ目掛けて振られた拳は反転し、骨や間接を無視してソロモンの顔面に叩き込まれた。様々な色の閃光が走り、ソロモンが壁に叩き付けられる。
「無茶するなよ!」
「ははは! お前様が動けたのが見えたからな、挑発して攻撃を誘ってやったぜ」
「だからって俺頼みすぎるだろ、間に合わなかったらどうするんだ!」
「でもお前様なら来てくれる、だろ?」
サクラは俺に向かってウインクをした。




