第85話
リーリャンは俺達の乗った戦車を足で掴み直し、翼を広げて炎の合間を抜ける。空気が焼け付き、灼熱の熱気が呼吸と共に肺を焼く。
「ゲホッゲホッ!」
『受け取れ!』
リーリャンがサクラを戦車に投げ入れる。俺がキャッチし、落ちないように抱きしめる。
「リーリャン! もっと炎から離れるであります!」
『無理だ!』
リーリャンが空中で一回転する。その背中を、ドラゴンの放つレーザーが通り抜ける。俺達は遠心力に振り回されながらも、戦車から振り落とされないようにしがみつく。
「くぅ!」
「・・・アイツの炎も、無尽蔵じゃないはずだ」
サクラがポツポツと話し出す。
「止まった瞬間に攻勢を仕掛ける」
「どうやって攻めるでありますか?」
「全力だ、何も策は無い。ただ全力を出せ」
「サクラ、それでダメだったらどうするんだ?」
「・・・逃げる」
いつにもなく消極的だ。サクラの額を拭ってやり、ドラゴンの方を見る。
ドラゴンは自分の吐き出す炎で、俺達を見失っているようだった。しかし、尻尾は常にリーリャンを狙い、レーザーを放ち続けている。
「あの尻尾、何か変だ」
「変でありますか?」
「あの尻尾だけ別の生き物みたいだ」
「じゃあ切って確かめるであります!」
「いい気付きだお前様。ナナ、同時にやるぞ」
サクラは爪を出し、ナナは大剣を担ぐ。
リーリャンは俺達の会話を聞き、ドラゴンに見つからない様に背中側に回り込む。
『行けるぞ!』
ドラゴンが炎を吐くのを止め、周囲を見回した。
「「今!」」
ナナとサクラが同時に飛び出し、挟み込むように尻尾を切り付ける。
サクラの爪は尻尾の中央まで入り込むが、ナナの大剣は途中で止まって切断には至らない。
『そこかぁ!』
ドラゴンは首を回し、ナナに向かって噛み付こうとする。
ナナは尻尾を背に、動こうとしない。
「ナナ!」
ドラゴンがナナと一緒に尻尾に噛み付く。
「自分で尻尾を食いちぎるであります!」
『そんな馬鹿な真似するかよぉ!』
ドラゴンは口を開き、尻尾とナナから離れようとする。その瞬間、サクラが下からドラゴンの顎を殴り上げた。
「リーリャン!」
『分かった!』
リーリャンはドラゴンの頭の上に回りこみ、ポイと戦車から足を離した。戦車は重力に従い、ドラゴンの頭目掛けて落下した。
『ぐぁっ!』
「ぶっち切れろ!」
サクラが下から。戦車が上からドラゴンの頭を潰す。ドラゴンは耐えられず、自分の尻尾を噛みちぎった。
『ぐぁぁぁぁぁぁ!』
「うわっ!」
噛みちぎられた尻尾はビチビチと地面を這い回り、レーザーを至る所に放ち続ける。
戦車に乗ったまま俺達はドラゴンの頭から滑り落ち、燃え盛る地面の上に着地した。
『よくやったナナ!』
サクラがナナを背中に載せながら、戦車を引っ張り走り始める。
『殺してやる!』
ドラゴンは頭を振り回し、俺達を執拗に探している。リーリャンがドラゴンの目の前を飛び抜け、俺達から注意が逸れる様に働く。
「次はどこを切り落とすでありますか?」
「体は厚い鱗で覆われている、そう簡単に刃は通らない様に見えるな」
『打撃も斬撃も効かない、どうする?』
レーザーが天井を崩し、勢いよく尻尾の先端が地面に叩き付けられる。そのレーザーが、ドラゴンの足を切り裂いた。
「・・・」
薄い傷だが、確実にダメージが入っている。ドラゴンは気付いていないが、出血も見て取れる。
「アイツ、殺せる気がする」
「どうやるでありますか?」
「あの尻尾から出てるレーザーをドラゴンに当てるんだ! 鱗じゃない場所、柔らかい場所に!」
「柔らかい場所ってどこでありますか!」
『あるぞ、一つ』
サクラは視線をドラゴンの腹に向ける。腹の下、大きく空いた口。
「尻尾を取りに行くぞ!」
『おう!』
サクラは戦車を方向転換して、尻尾の方に走り出す。その瞬間、ドラゴンの視線が俺達の方を向いた。
『見つけたぞ!』
ドラゴンは大きく口を開き、炎を口内に溜め始める。サクラはスピードを上げ、すれ違いざまにナナが尻尾を拾い上げる。
『燃え尽きろ!』
「【反転】!」
ドラゴンが吐き出した炎を反転して、ドラゴンに浴びせる。だが効果は薄く、俺の腕だけが焼けていく。
「サクラァ!」
『炎を突っ切るぞ!』
サクラは速度を更に上げ、ドラゴンの吐いた炎の中を突っ切った。俺は一瞬全身に炎を浴び、全身に激痛が走る。
サクラは戦車をドラゴンの腹の下で止めた。
「食らえであります!」
ナナがドラゴンの尻尾を腹の口に向ける。放たれ続けているレーザーは、ドラゴンの腹の口内を突き破り大量の血液が流れ出た。降り注ぐ血液のシャワーで、俺の炎が消化される。
「やったか!?」
尻尾はレーザーを全て放ち終え、くたりと動かなくなってしまった。ドラゴンの腹の口は一文字に閉じ血液を中に留めようとするが、口の端から血液が零れている。
『掴まってろよ!』
サクラが戦車を急発進させる。それと同時にドラゴンの腹が俺達に迫る。
俺達がドラゴンの腹から出た瞬間、ドラゴンは地面に倒れ伏した。




