第84話
城の中は暗く、ジメジメとしていた。
ごちゃごちゃと様々な配管が至る所を通り、通路はギチギチに狭くなっていた。
「臭い・・・」
サクラがうんざりした様子で呟く。俺も匂いを嗅いでみるが、特に変わった匂いはしない。
「どんな匂いでありますか?」
「油に似ている、だが不純物が多い。生ゴミや死体も混ざっている」
「うへぇ、あの巨大火球の燃料でありますかね」
俺とリーリャンで戦車を引いて、ギリギリ通り抜けられる。時々配管に引っ掛かるが、戦車に付いた刃が配管を次々と引き裂いている。
「中に何も通っていない配管、君はどう思う?」
「うーん、今は使われていないだけなのかも?」
「はは」
リーリャンに軽く笑われる。そんなに変な事を言った覚えは無いが、馬鹿にされた気がする。
「お?」
サクラが立ち止まる。
目の前には、中央が歪んだ壁が立ち塞がっていた。
サクラは何の躊躇もなく、その壁を蹴り破った。薄い鉄板が貼り付けられていただけの壁は崩れ、広い広場が現れた。
「なんだぁ?」
『よく来たな! 挑戦者よ!』
大きな声が聞こえる。広場の向こう側には台座があり、そこに巨大な人影が見えた。
『俺は七騎士のD! この城にやって来た挑戦者を選定する役目を担っている!』
「何だこの要塞、中身スカスカじゃねぇか!」
『スカスカではない! 俺が存分に戦える様にスペースを作られているのだ!』
その人影は台座から飛び降り、広場の中央で光り輝く。
次の瞬間、俺達の目の前には巨大なドラゴンが姿を現した。
『燃え尽きろ!』
巨大なドラゴンは大きく息を吸いこみ、灼熱の炎を吐き出した。
「こっちだ!」
サクラが全員の手を引き戦車の中に隠れる。炎は一瞬で広場を焼き付くし、戦車にも覆い被さる。
「あちっ! あちっ!」
「うるさいぞナナ! 直撃してないから大丈夫だ!」
「クソ! 僕の本気の炎と同じくらいの火力だ!」
『そんな小さな物で俺の炎をやり過ごすとは!』
炎はまだ広場の床を焼き尽くしている。炎は至る所から立ち上り、火柱が広場を照らす。
ドラゴンは足を振り上げ、俺達目掛けて足を振り下ろした。
『掴まってろ!』
サクラが狼の姿になり、戦車を引いて広場を駆ける。
「サクラ、足が!」
『このくらいの炎、大した事ない!』
「この調子で背後に回り込むであります! ナナが仕留めるであります!」
『ちゃんとやれよ!』
焼ける広場を走り抜け、サクラはドラゴンの背後に回り込んだ。ナナは戦車を足場にドラゴンの背に登り、大剣を振り上げる。
『無駄だぁ!』
ドラゴンの巨大な尻尾がナナを押し潰す。まるで血を吸いに来た蚊を叩き潰すように、ナナは潰れた。
「ナナ!」
「こ、ん、な、も、のぉぉぉ!」
ナナは大剣を歯に咥え、踏ん張って尻尾を持ち上げていた。
「ぐぎぎぎぃ!」
「サクラ、ナナを助けに行くぞ!」
『させん!』
巨大なドラゴンは足を振り上げ俺達を潰そうとする。サクラは戦車を引きドラゴンの腹の下に潜る。
「僕が行く!」
「リーリャン頼んだ!」
リーリャンは炎の翼をはためかせ、ナナを助けに腹の下から飛び出した。
そんなリーリャンが、巨大な口に吸い込まれた。
「リーリャン!」
『うぉぉぉ!』
リーリャンはドラゴンの口をこじ開け、鳥の姿になって脱出する。
その瞬間、俺の頭に何かが落ちてくる。濡れている、粘ついている。
ふと見上げてみる。
「うわっ!」
ドラゴンの腹には、巨大な口が付いていた。その口はもごもごと何かを咀嚼して、歯の隙間から炎をチラつかせている。
『走るぞ!』
サクラが叫ぶと同時に走り出す。ドラゴンの腹の下から抜け出した瞬間、腹の口から炎のブレスが吐き出された。
サクラは人型に戻り、戦車の中に入って炎をやり過ごす。
「どうする!」
「分からん! ただこいつを何とかしなきゃ我らは死ぬ!」
上空を飛び回るリーリャンに向かって、ドラゴンの頭が首をもたげる。そして広場の天井目掛けて、炎を吐き出した。
『ぶはははははは!』
ディーの高笑いが広場に響く。リーリャンは炎を必死に避けながら、広場の天井付近をグルグルと飛んでいる。
やっと腹の口からの炎が止まる。サクラは再び狼の姿になり、俺を背中に乗せる。
『お前様、まずはナナを助けに行くぞ!』
「分かった!」
サクラが走り出し、ドラゴンの足を駆け昇る。ゴツゴツとした鱗を足場に、一瞬でドラゴンの背中に到着する。
『ナナ!』
「遅いであります〜!」
ナナを押し潰そうとする尻尾に手を当てる。
「【反転】!」
尻尾は一気に持ち上がり、ナナを引きずり出す。
「見捨てられたかと思ったでありますよ〜!」
「助けに来ただろ! 怪我は無いか!?」
「大丈夫であります!」
『お前様!』
サクラが吠える。俺に向かって、尻尾の先端がピタリと照準が合っていた。
サクラが飛び出し、ドラゴンの尻尾に噛み付く。その瞬間、尻尾の先端からレーザーが飛び出し俺の頬を掠った。
「あっぶねぇ!」
「あちち! 上から炎も降ってくるであります!」
『背から振り落とされるなよ!』
サクラがそう言い残し、ドラゴンの尻尾に振り回される。右に左に、壁に床に何度も叩き付けられる。尻尾の先端から放たれ続けているレーザーは、移動要塞の壁をゴリゴリと削っていく。
『ぐぁっ!』
サクラが尻尾から吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。燃え盛る地面に落ちそうになったサクラを、リーリャンが掴んだ。
『ジハード避けろ!』
その声が聞こえた瞬間、俺の目の前には炎の赤が映った。
「【反転】!」
炎を咄嗟に反転させる。反転した炎はドラゴンの頭を燃やすが、一瞬で炎は鎮火する。
ドラゴンはもう一度大きく口を開き、炎を口の中に溜め始めた。
「逃げるであります!」
ナナは俺を担ぎ上げ、ドラゴンの頭の横を通り抜けて地面に降りる。ナナの足から煙が上がり、苦悶の呻き声を零す。
「ナナ!」
「魔族は頑丈!」
ナナは言い聞かせる様にそう叫び、俺を担いだまま焼ける地面を駆け抜ける。戦車に飛び込むと同時に、ナナは足を抱える。
「いっ・・・!」
「無理するな!」
「人間なら普通に死ぬであります、ここはナナが無理をする場面であります!」
『呑気に話してる場合じゃないぞ!』
リーリャンが手網を掴み、戦車ごと俺達を持ち上げる。その瞬間、ドラゴンは広場全てを焼き尽くすほどの炎を吐き出した。
尻尾からのレーザーは俺達をつけ狙い、腹の口からは広場の下方を全て火の海にする。そして暴れ狂う頭からは、広範囲を焼き尽くす炎の息を吐き出していた。
『ぶははは! 俺は七騎士のD! 全てを焼き尽くし終焉をもたらすドラゴンの魔族! 掛かってこい挑戦者共!』




