第83話
「サクラ!」
俺は横たわったままのサクラに駆け寄る。
『ガリュオーンは?』
「俺が殺した」
『そうか、強くなったな』
サクラは人型に戻り、頭を振って目眩を飛ばす。
「さて、あのジジイはどこ行った?」
「ゾンビ共ぉ!」
老人の声が響き渡る。移動要塞の壁に叩き付けられていたゼータは、ゾンビ達の手で救助されていた。
「あの二人を殺せ! 殺せぇ!」
「我もいい所を見せなきゃな!」
サクラは拳を開いたり閉じたりして、殺意の目をゼータに向ける。
その瞬間、地響きが鳴り響いた。
「な、なんだ!?」
「お前様、離れろ!」
サクラが俺と戦車を引っ張り、移動要塞から距離を取る。移動要塞は地響きを鳴らしながら、ゆっくりと六本の足で立ち上がった。
「ひ、ヒィー!」
老人の悲鳴が聞こえる。振り返れば、移動要塞の巨大な足が、ゼータを踏み潰した瞬間だった。
「あれも何かのギフトか!?」
「わからん! わからんが、もう一度動きを止める必要がある!」
「いいえ、もう止まりませんよ」
俺達の目の前に、巨大なブラックホールが開く。そこからゆっくりと、エルが姿を現した。
「ご無沙汰しております、ユートピアではありがとうございました」
「エル!」
「えぇ私です、驚きました?」
エルはお茶目な作り笑顔を浮かべながら、大きく腕を広げた。
「七騎士を二人も屠るなんて、流石ですね」
「大して強くなかったぞ」
「うちはギフトの性能主義なもので。所でZが死にましたね?」
周囲が騒然となる。地響きに混じって、人の悲鳴があちらこちらから聞こえ始めた。
「なんだ!?」
「見ろお前様!」
ゾンビ達が急に、仲間のはずのギフター達を襲っていた。戦場はもはや敵味方関係なく、ゾンビの入り交じる地獄絵図に変わっていた。
「Zが制御していたゾンビ達が自由になりました。近くにいる者を無差別に襲い始めます」
「なんだそのクソ軍団! よくそんな不安定な奴を戦力にしたな!」
「まぁ対応策はあります、落ち着いてください。B!」
エルが両手を叩くと、ブラックホールの中から青年が現れる。それは紛れもなく、デビルシティで会ったビィだった。
「もう僕の出番ですか・・・?」
「大舞台ですよ、吹雪を展開しなさい」
「はぁい」
ビィは気怠げな返事を返し、口を大きく開いた。その口から白く細い糸の様な物が吐き出され、段々と渦を巻いて巨大な吹雪となる。
一瞬で周囲は雪が降りしきり、上空には吹雪で作られたドームが形成された。
「何をする気だ!」
「一斉駆除です」
エルが指を鳴らす。すると、移動要塞で何かが動く音が聞こえる。移動要塞の内側から赤い光が放たれ、巨大な火球が形成を始めていた。
「またあの火の玉かよ!」
「貴方のせいで再起動に時間が掛かりましたが、もはや万全です。今度は凄いですよ、吹雪の外は全て火の海になりますからね!」
「なに!?」
俺はガリュオーン王国軍の前線方面を見る。ホワイトアウトしている視界では詳細は掴めないが、前線は吹雪に守られていない様に見えた。
「やめろ! お前達の仲間も巻き込むぞ!」
「構いません、吹雪いたら吹雪の中へとは伝えています。遅れる者がいれば、それは自業自得ですよ」
「お前・・・! とことん腐ってやがるな!」
「その前に殺しちまえばどうなるかな!」
サクラが駆け出す。一瞬でビィの目の前にまで辿り着き、拳を握りしめて振り下ろした。
だがその拳は、ブラックホールに吸い込まれた。
「させませんよ、何のために私がいるとお思いで?」
「ならお前から殺してやる!」
素早く拳をブラックホールから引き抜き、エル目掛けてサクラが突進する。
「鉄+投網!」
「うわっ!」
サクラの体目掛けて、エルが何かを投げ付ける。それは網の様に広がり、サクラの体を捕縛した。
「+短剣!」
サクラの体を縛る網が光り輝き、網の間から無数の短剣が飛び出し一瞬でサクラを串刺しにした。
「いって! この網硬いし! ウザイ!」
「この程度で仕留めれるとは思ってませんが、時間稼ぎにはなります」
「お前様がやれ!」
「分かった!」
俺は全力でビィに向かって走り出す。ビィも俺の動きに反応し、吹雪の中を駆け出した。
だがサクラに鍛えられた俺の方が足が早い。一瞬で追い付き、ビィを組み伏せる。
「殺せ!」
サクラが鉄の網を引きちぎりながら吠える。俺は拳をビィの頭目掛けて振り下ろした。
「だからさせないって言ってるでしょ」
俺の拳はブラックホールに飲み込まれていた。素早く引き抜き、ブラックホールを避けて振り下ろす。だが俺が拳を振り下ろす度に、ブラックホールは俺の拳の前に現れる。
「ダメだ! 先にエルを!」
「いいやもう遅い、発射しろ!」
エルが大声を上げる。その瞬間俺の腹を蹴り、ビィが俺の下から脱出する。
「これで僕の仕事は終わり、後は終戦までのんびりと部屋でッ!」
ビィの口を塞ぐように、頭に大剣が突き刺さる。その瞬間吹雪が収まった。
「これでもしゃぶってろであります!」
「ナナ!」
「待たせたでありますね、主様! 旦那様!」
ナナはビィの頭から大剣を引き抜く。吹雪はすっかりと止み、移動要塞から放たれる赤々とした光だけが戦場を照らしていた。
「B吹雪を! 死んでも止めるな!」
「・・・ッ! ッッ!」
ビィは口を開けて吹雪を出そうとするが、喉が潰れたのか吹雪は発生しない。ナナは大剣を振り上げ、ビィを真っ二つに切り裂いた。
「クソ! 作戦が台無しですよまったく!」
「やっと引きちぎれたぞクソが! ぶち殺してやる!」
サクラも網から脱出し、拳を鳴らしながらエルに迫る。
エルは後ずさりして、背後にブラックホールを出現させる。
「残念ながら私はまだ死ねません、ここでさようなら!」
「させないよ!」
巨大な炎がエルを吹き飛ばす。ブラックホールを覆い隠すように、炎の鳥が舞い降りてくる。
「リーリャン!」
「あの吹雪は合図かい? どちらにせよグッドタイミングだったようだね!」
「もう逃げられないぞエル!」
「くっ・・・」
エルはまた更に後ずさる。その瞬間、移動要塞の歩みが止まった。
「ボーディガン様!?」
『入れ、L』
「あぁ、ありがとうございます!」
エルは移動要塞の方に走る。俺達も追い掛けるが、ゾンビ達が道を塞ぐ。
エルは移動要塞の巨大な正門を開き、移動要塞の中に逃げ込んだ。
『牙爪魔王、悪魔の勇者、不死鳥の魔族、風神魔王の側近、そして反転英雄よ。我が城に入るがいい』
「なんだと?」
『扉は開かれた、挑戦を受け入れよう』
雲を割くような声が響き渡る。俺達を誘い込むかのように、移動要塞の扉は開いている。
「サクラ、ナナ、リーリャン、ホバ! 行くぞ!」
「おう!」
「はいであります!」
「わかったよ!」
「はい」
俺達は戦車を引っ張り、移動要塞の中に乗り込んだ。




