第82話
サクラの引く戦車に乗り込み、ギフターとゾンビを轢き潰しながら突き進む。
『どけどけぇ! 轢き殺しちまうぞ!』
「色々飛び散ってきて最悪だ!」
サクラは蛇行運転をして、なるべく戦力を削っている。だがギフターも人、サクラが真正面から来れば当然避けてくる。
サクラはそんなギフター達を狙って、急な方向転換を何度も行う。俺は必死にホバを戦車に押さえ付け、自分も飛ばないように足を踏ん張る。
『おっ、風向きが変わったぞ』
「なんだって?」
『どうやらあっちでも戦いが始まったようだ!』
サクラが顔だけを後方に向ける、俺も釣られて後方に振り返る。ボーディガンのゾンビとギフター達は進軍を続け、ガリュオーン王国軍と衝突したらしい。兵士達の雄叫びと、剣や槍のぶつかり合う音が遠くから聞こえる。
「ナナ達は大丈夫だろうか」
『それよりも我らの事を心配した方が良さそうだ!』
サクラが急に方向を変える。戦車は遠心力に引っ張られ、ゾンビ達を蹴散らしながら振り回される。
地面に戦車が着地した時、サクラも立ち止まった。
俺達は、移動要塞の目の前にまで辿り着いていた。
『あれだな、ゾンビの親玉は』
サクラが鼻先で差す。移動要塞の巨大な門を背に、骨で出来た神輿をゾンビに背負わせている。そして、その神輿の上に杖を振りかざす老人が立っていた。
「よくぞ来たな愚者共よ! ワシの名は七騎士のZ! 貴様らを殺し貴様らのご主人様になる男だ!」
『なぁにがご主人様だボケ、たかがゾンビに手間取るわけないだろうが』
「かかか! そう吠えるな犬め、お前には特別なゾンビを用意しておいたのじゃ!」
ゼータは神輿から飛び降りる。そして杖を頭の上でぐるりと回すと、乗っていた骨の神輿が蠢き出す。
『なんだ?』
「どんどん形になっていくぞ!」
「この死体を手に入れるのにどれだけ苦労したか!」
骨は次々と接合され、巨大な人型になっていく。そして最後に、犬の様な頭蓋骨が頭に接合された。
「行け! ワシの最高傑作よ!」
『ぐるるるる』
巨大なゾンビは犬の様な唸り声を上げ、じっとゼータを見つめる。
ゼータは一瞬ぎょっとして、杖を振り俺達に向ける。
「何をしている! さっさと殺しにいけ! お前にも恨みはあるだろう!」
『うるせぇなぁ』
ゾンビはハッキリと言葉を発した。そして、ゼータの頭にかぶりついた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
『ぺっ』
ゾンビはゼータを放り投げ、俺達の方を向いた。俺達には、その姿に見覚えがあった。
『久しいな、フェンリル。そしてジハード!』
『お前・・・《《ガリュオーン》》か!』
サクラが吠える。
暴力的な瞳は空洞で、煌めく牙は肉が無く根元まで見える。体は骨だけだが威圧感があり、俺達を前に無い舌を動かす。
『如何にも、改めて名乗ろうか!』
ガリュオーンは移動要塞に付けられていた旗をむしり取り、まるでマントの様に羽織る。
『オレは獣人魔王ガリュオーン! 七大魔王の一人にして、死しても尚蘇る最強の魔王だ!』
その名乗りを聞き、サクラは心底嫌そうな顔をする。
『はははははは! その顔が見たかったぞフェンリル!』
『マジで嫌だ』
『オレとフェンリルは切っても切り離せない縁がある! 過去に二度戦い、どちらも互角! 同じ狼、同じ戦闘力、どちらが上かをハッキリさせるべきだ!』
『我が勝っただろうが! とっとと死ね!』
ガリュオーンは四足で地面を踏み締め、牙を剥き出しにした。
『ならもう一度殺してみろ! 牙を剥け、爪を出せ! オレの喉元をもう一度噛みちぎり、今度は頭蓋を破壊してみせろ! そうしたら今度は永遠に死んでやる!』
『クソッタレ!』
サクラも四足で地面を踏み締めた瞬間、ガリュオーンが飛んだ。サクラの喉元目掛けてガリュオーンの牙が滑り込む。
『早いっ!』
サクラは間一髪の所でガリュオーンを避ける。ガリュオーンは地面を踏み、ゆっくりと俺の方を向いた。
『ジハード、お前も戦うのだ。二人で来い、二人でオレを殺せ!』
「まぁそうなるよな!」
ガリュオーンは一瞬で、俺の足元に滑り込むように噛み付こうとする。俺は飛び退き、戦車から距離を取る。
『体が軽い! オレの体が骨だけだからか! ははは!』
「笑い事じゃねぇ・・・」
だが、ガリュオーンの動きに反応出来た。あの時にはまるで、嵐の様な戦いである事しか分からなかったサクラとガリュオーン。その二人の動きがハッキリと分かる。
俺はサクラの言う通り、強くなっている。
「やってやるよ!」
『その意気だ! お前様!』
サクラが俺の足元から鼻先で掬い上げ、俺を背中に乗せる。
『今のお前様なら足手まといにはならんだろう!』
「やってやるぞサクラ!」
『かかってこい! オレを超えてみろ!』
ガリュオーンは短く息を吐き、バネの様に体を縮める。
サクラは衝撃に備え足を軽く曲げる。俺も両腕を突き出し、ガリュオーンの突進に備える。
『かっ!』
骨を軋ませながら、ガリュオーンが突進してくる。大きく口を開け、俺目掛けて。
「【反転】!」
ガリュオーンの両顎を反転させる。顎が生物ではありえない角度まで開くが、何事も無かったかのように閉じる。
『行くぞ!』
「おう!」
今度はサクラがガリュオーンに飛びかかる。二匹の獣は揉み合うように戦場を転げ回る。俺は振り落とされようにサクラに掴まり、ガリュオーンの爪がサクラを攻撃しないように反転し続ける。
サクラがガリュオーンを下に敷き、ガリュオーンの首元に噛み付く。そしてそのまま背中の方に引っ張りあげ、俺に目で合図をした。
「【反転】!」
ガリュオーンの頭に触れ、反転をかける。ガリュオーンの首は捻れ、またあの時のようにゴトリと地面に落ちた。
『くくくかかか!』
『クソ、ダメか』
ガリュオーンは前足で器用に頭を拾い上げ、自分のあるべき場所に付け戻した。
『言っただろう、頭蓋を潰せと!』
『わざわざ敵の言う事に従う馬鹿はいねぇよ!』
『ゾンビの鉄則だろうが! オレを殺せ、殺してみろ!』
ガリュオーンは爪を剥き出し、後ろ足だけで立ち上がる。人狼、その名が相応しい獣と人の合間の姿勢だった。
『来るぞ!』
今度はガリュオーンが一方的にサクラに襲い掛かる。爪での猛攻を俺とサクラで凌ぎつつ、ガリュオーンの隙を伺う。
『そこっ!』
ガリュオーンが振り下ろした爪を踏み、サクラが頭蓋骨目掛けて大口を開ける。だが、サクラの口にはガリュオーンの鋭い尻尾が鞭の様に叩き付けられた。
『ってぇ!』
「大丈夫か!」
『まだ動け、るっ!?』
サクラの足がガクガクと震える。そして、そのまま地面に倒れてしまう。
『良いのが入ったなフェンリル、脳が揺れて立ち上がれないだろう』
「おい嘘だろサクラ!」
『がっ、やべっ・・・』
「サクラ!」
俺はサクラの正面に回り込み、サクラの目を覗き込む。ぐらぐらと揺れて焦点が定まっていない。
サクラが戦えない今、俺が何とかするしかない。
俺はガリュオーンの方に向き直った。
「来いよ、俺が相手だ!」
『いいだろう、全力でやってやる!』
ガリュオーンは立ち上がり、両腕を前に突き出す。そして、俺に向けて構えを取った。
俺も同時に、ガリュオーンに対して構えを取る。
『ッ!』
「【反転】!」
ガリュオーンが俺の頭を狙って突き出した腕を反転させる。腕は先端から捻れ、骨が粉々に粉砕されていく。
『まだまだぁ!』
ガリュオーンは残った腕で俺の首をはねようと、空を切り裂きながら爪を伸ばす。
一歩先に踏み込み、ガリュオーンの手の平にぶつかる。
「【反転】ッ!」
激しい衝撃と共に、ガリュオーンの腕を反転させる。弾き飛ばされた腕は弾け、ガリュオーンは両腕を失う。
俺は吹き飛ばされるが、すぐに立ち上がる。着地の衝撃で足の骨は折れていたが、すぐ目前にまでガリュオーンの口が迫っていた。
「くっ!」
ガリュオーンの両顎を抑え、噛み砕かれない様に顎を開かせる。
牙に触れただけで手の平が裂かれている、両腕から血が伝いボタボタと落ちる。
『オォォォォォォ!』
「うぉぉぉぉぉぉ!」
ガリュオーンの顎をこじ開け、ガリュオーンを投げ飛ばす。投げ飛ばされた衝撃でガリュオーンの首が外れ、その頭に駆け寄る。
『殺してみろ!』
「【反転】っ!」
ガリュオーンの頭蓋骨に手を当て反転を発動する。頭蓋骨の中心から捲れ上がり、中と外が反転する。形を維持出来なくなった頭蓋骨は崩壊した。




