第81話
爆炎の中から四肢が吹っ飛んでいく。くすんだ色の四肢は地面に落ちて、崩れて消えてしまった。
「あっぶねぇ〜」
サクラがゾンビの頭だけを持って、爆煙の中から歩み出てくる。
「そ、そんな! ゾンビとは言え元はエルフっスよ! なんでそんな残酷な事が出来るんスか!」
「あ? 知らねぇよ、ゾンビは魔物だしそれを殺すのに躊躇いはない」
「お、おかしい! Lの話では命の価値を理解して弱体化したって聞いたっスよ!」
サクラは頭の後ろを掻きむしり、ゾンビの頭を地面に投げ捨てる。
「勝手に弱くなったと思わないでくれないか? 不愉快だ」
「狂ってるっス」
「狂わなきゃ魔王なんざ務まらんだろ」
イーは這いずりながらサクラと距離を取る。体にぶら下げられたナイフはポロポロと剥がれ落ち、地面に道を作っていく。
「おいサクラ! 足元に気を付けろよ!」
「二度も通じるかよお前様、それよりもゾンビに気を付けろよ」
「うわっ!」
俺の背後スレスレにまで、ゾンビ達は迫っていた。ギフター達は様子を見ているのか、ゾンビ達だけをけしかけてきている。
俺はゾンビの大群から距離を取り、それでも近寄って来たゾンビの体に蹴りを入れる。
「何か助ける方法があれば・・・」
俺がそう呟いた瞬間、背後で鎖の音がした。振り向けば、サクラが空中を舞う鎖に囲まれていた。
「な、なんだあれは!?」
鎖は細かく爆破されて空中に留まり、鎖には要所要所にナイフが結び付けられている。鎖が二重螺旋を描き、その中心にサクラを捉える。
「今度は盾になるゾンビもいない。死ね! 奥義【爆千刃】!」
二重螺旋を描いた鎖が連鎖的に爆発する。それと同時に結び付けられたナイフが全て、サクラに向かって飛んで行く。
「サクラ!」
「くだらんな」
サクラが指を鳴らすと、爆風の方向が変わる。ナイフは指向性を失い四方八方に飛び散り、着弾と同時に次々と爆発していく。
「な、なにをしたんスか!」
「我は一人ではない」
「ゲホッゲホッ、無理させるのやめてくれませんか?」
血反吐を吐きながら、俺の傍までホバが這ってくる。そう言えば馬車から落ちた後から、一切気にしていなかった。
「ホバの力で爆風の風向きを変えた。あれ全部食らってたら危ないが、数発程度なら問題ない」
「あの、お礼とかは?」
「ない!」
「ですよね・・・」
「お、俺様の奥義が・・・ありえないっス!」
イーは片足で立ち上がり、折れた足をぶらぶらさせながらゾンビの中を割って進む。
「L! L! 俺様を回収しろっス! 俺様じゃ手に負えないっス!」
『ダメじゃ』
突然老人の声が戦場に響く。
するとゾンビ達がイーを囲み、手足を掴んで拘束する。
『貴様は儂ら七騎士の中で最も若く最も弱い、そんな面汚しの為にLが割く労力はない!』
「やめるっス! クソ、離せ!」
イーはゾンビ達の体を爆破し逃れようとするが、ゾンビ達は次から次へと群がりイーを拘束し続ける。
『貴様はこの儂、七騎士のZ操るゾンビ共で始末してくれる!』
「やめろ! 俺様はLのお気に入りっス! いちばん伸びしろがあるって言ってくれた、かなう奴はいないって言ったっス! こいつらじゃなければやれる、やれます! やらせてください!」
『ダメじゃ』
ゾンビ達が一斉にイーに覆い被さる。肉の食いちぎられる音と共に、爆発音が小さくなっていく。悲鳴も聞こえなくなった頃、ゾンビ達の視線がこちらに向いた。
『次は貴様らじゃ、ぶち殺してゾンビにしてくれるわ!』
「また変な奴の相手させられんのかよ、めんどくせぇな」
「でもどこにいるか分からない、ゾンビも数が多い。サクラ、気を付けろよ」
俺はホバを背負いながら、サクラに警告する。すると、俺達を囲っていたゾンビ達の間からギフター達が進み出てきた。
「お前らの実力は大体わかった」
「あぁ、俺達でも殺せるって確信がある!」
「俺達ギフターの手柄にしてくれる!」
人、エルフ、魔族。色んな種族の混合部隊が俺達に迫る。
「まぁいい、我が全員相手してやる」
「舐めやがって!」
「おっ?」
サクラの足元から植物のつるが伸び、サクラの足をがっちりと掴む。俺の足元からも植物が伸び、俺の下半身をがっちりと掴んだ。
「俺のギフトは【植物を操る】ギフト! この平原全てがお前らの敵だと思え!」
「ふーん、よいしょっと」
サクラは足を引き上げ、植物のつるを引きちぎる。
俺も足を上げてみるが、みるみるうちに植物が剥がれていく。
「この平原の弱い植物じゃどうにも出来んな?」
「な、それがどうした!」
「退いてろ、次は俺がやる!」
前に進み出たのは人間の男。
男が地面に手を着くと、みるみるうちに土が男の体を包み込んでいく。
「ギフト、【ゴーレムマウント】! 俺の体をゴーレムで包み、俺が操る事で圧倒的な戦力となる!」
「あーはいはい」
サクラが一瞬で近寄り、ゴーレムの腹にパンチを食らわせる。
背中がぱっくりと割れ、さっきの男が血を吐きながら吹き飛んでいく。
「それで、次は?」
「最後はワシだ!」
最後に進み出たのは魔族の男だった。男が両手をくっ付けると、光で作られた刃が現れた。
男はそれを掴み、サクラに切っ先を向けた。
「【光の剣】、それがワシのギフトだ! 剣術を極めたワシの剣技と、変幻自在の光の剣! 無敗の剣聖とはワシの事じゃ!」
魔族の男は光の剣でサクラに切りかかる。だが、サクラは当然の様に男の剣を拳で弾き飛ばした。
だが、何も握っていなかった男の手から光の剣が飛び出した。
「喰らえ!」
「おー」
光の剣はサクラの頬を掠る。
それと同時に、サクラは男の腕をへし折る。
「まだまだぁ!」
男は転がり、足をサクラに向ける。足の先から光の剣が伸び、サクラの目の前にまで迫る。
「ふん」
サクラは平然とした態度で、男の背中を踏み抜く。骨と内蔵が潰れる音と共に、血が吹き出した。
「なんなんだこいつら・・・」
「まぁそう言うなお前様」
サクラは血に濡れた足を振って綺麗にしながら、俺の方に近寄ってくる。
「ただの兵士じゃ歯が立たない、初見殺しも多い。我らの様にある程度実力があるからこそ、弱いと認識してしまうのだ」
「いや、俺はそこまで強くないし・・・」
「何を言ってる、お前様は強い。人類の中でも上澄みよ」
サクラはそう言って、俺を慰める。
そして大きく伸びをして、移動要塞の方を指差す。
「さっきのゼータとか言うやつの声は向こうから聞こえた、行くぞ」
「分かった」
俺達はゾンビとギフターがひしめく移動要塞の方に舵を切った。




