第79話
振り返れば、巨大な移動要塞から何かが放たれていた。空には太陽が二つ登り、一つはこちら目掛けて落ちてきている。
「やばい!」
兵士達が一斉に馬に乗り込み、本部に向かって走り出す。俺達は当然のように、置いていかれた。
「嘘だろ!?」
『乗れお前様!』
サクラに跨る。サクラが走り出すと、あっという間に馬に乗った兵士達に追いつく。
その瞬間、大地を揺るがす程の轟音が響いた。俺達の頭上を光の矢が通り抜け、落下する太陽を撃ち抜いた。撃ち抜かれた太陽は無数の炎となり、バラバラになって俺達の頭上に降り注ぐ。
「なんだあれ! 何が起きてる!」
『掴まれお前様!』
サクラが落下してくる火炎弾を避けながら、直撃しそうな兵士達を回収する。乗っている俺は左右に前後に激しく揺さぶられるが、サクラが口で投げた兵士達をキャッチする役目に従事する。
「本部にも火炎弾が!」
「もっと急いでください!」
『こっちだって全速力だバカ!』
本部が見えて来た瞬間、俺達の頭上を火炎弾が通り越していく。本部目掛けて落ちていく火炎弾。それとは別の炎が、本部から飛び立った。
『リーリャン!』
鳥の姿になったリーリャンが身を呈して火炎弾を防ぐ。だが無数の火炎弾はリーリャン一人では防ぎ切れず、何発も本部周辺に直撃する。
「フラン!」
俺達は本部に着くと同時にサクラから飛び降りる。一際大きなテントにも火炎弾が直撃している、俺は最悪の事態を予想し青ざめる。
「ジハード様!」
「フラン! 無事だったか!」
「大きな音がしてテントから出たおかげでなんとか・・・お怪我はありませんか?」
「それよりもヤバい! 戦力差がありすぎる! ここは撤退するべきだ!」
「フラン女王陛下!」
俺達と一緒に帰って来た兵士達が詳細な情報をフランに伝える。フランの顔色はどんどんと悪くなり、隣にいるリリーナの表情も険しくなっていく。
「戦力差は十倍以上、撤退を進言します」
「撤退・・・」
フランはリリーナを見上げる。しかし、リリーナは首を振った。
「さっきの火炎弾で森林火災が起きている。森の中を通り抜けての撤退は不可能、本国からの援軍や物資の供給も絶たれました」
「そうですね、それに・・・」
フランは顔を上げた。
「私達に撤退は許されていない」
「ど、どういう事だ?」
「今頃ガリュオーン王国では避難勧告が出ているはずです。戦力差は予想されていました、勝てない事も予想されてました」
「じゃあ、何でここに?」
「一秒でも長く、一人でも多くの避難民や王国民を逃がすため。私達は、死ぬ事を承知でここに戦いに来たんです」
フランは冷たい表情でそう言い切った。その顔は、まるで国を背負った指導者の顔だった。
俺はリリーナに詰め寄る。
「どういう事だ? こんな小さい子を死なせる前提で戦場に?」
「それは・・・リリーナ様たっての希望だ」
「おい、おかしいだろ? そんなの」
「いいえ、おかしくありません。私達の敗北は決定していますが、戦力を少しでも削れればいいのです。人間族がきっと、私達の犠牲の上勝利してくれるはずです」
「おい」
黙って話を聞いていたサクラが口を挟む。
その表情には、怒りが浮かび上がっていた。
「こんなくだらん奴らの言葉に耳を貸すなお前様、不愉快だ」
「不愉快って、私達だって必死に考えました! 力も無い知恵も無い、そんな私達の最後の足掻きがこれなんです!」
「うるさい。ナナとリーリャン探して行くぞ」
「どこに行くと言うのだ、既にここは戦場。退路もないぞ」
「うっせーな。ぶち殺しに行くんだよ、ボーディガンをな。もっとも負ける前提のお前達に何も期待しないし、邪魔にならないようにとっとと死ね」
「サクラ、言い過ぎだ」
「お前様はいいのか! こんな物言いをする奴らが存在する事に! 生きる事への冒涜だ、命の価値を貶める行為だ! 今の我なら分かるぞ!」
サクラは牙を剥き出しにして、リリーナとフランを睨み付ける。
「生きようとする気概すら感じないこんな奴らに、いったい何が出来る! 死ぬ覚悟も出来ないこんな奴らに、いったい何を期待する!」
「死ぬ覚悟は出来ています」
「いいや出来ていない、震えているのはどうしてだ? 何故兵士達の士気は敵が迫る事に落ちている? こんな中途半端な戦争があっていいものか!」
「貴様、黙って聞いていればフラン様になんて口を!」
リリーナが剣を抜こうと手を動かす。その手を、サクラが足で押さえ付ける。
「お前達は覚悟と言うものを口にする資格は無い」
「なにぃっ!」
「希望を吠えろ! 絶望を跳ね除けろ! お前達にも明日を生きる資格があるのだ!」
「明日を生きる資格・・・」
フランが小さく呟く。そして、リリーナの剣を手で制す。
「貴方達なら、やってくれますか?」
フランが俺に問いかける。
「ボーディガンを倒して、私達を、世界を救ってくれますか?」
「もちろんだ」
「私達の国にも、生きて迎えれる明日は来ますか?」
「もちろんだ」
「手を、貸していただけませんか?」
「もちろんだ!」
フランは両目いっぱいに涙を浮かべる。
その瞬間、また天を割く轟音が鳴り響く。またあの火の玉が天に放たれ、俺達に向かって落ちて来ようとしていた。
「サクラ! 全力で投げろ!」
「おうとも!」
サクラは俺を片手で掴み、カタパルトの様に空に向かって射出する。
体がちぎれそうなくらい痛いが、歯を食いしばって我慢する。一瞬で巨大な火の玉に接近する。
俺は腕を突き出し、火の玉と接触した瞬間に大声をあげた。
「【反転】ッ!!!」
太陽と見まごう程巨大な火の玉は起動を反転させ、移動要塞に向かって飛んでいく。
「俺達からの宣戦布告だこの野郎!」
移動要塞に火の玉が着弾すると同時に炎を撒き散らし、移動要塞が火に包まれた。




