第77話
リリーナの案内でガリュオーン王国に入る。至る所に傷だらけのエルフがおり、炊き出しには長蛇の列が出来ている。
「悲惨だな」
「あぁ、逃げて来たエルフ達は戦えない女子供達だ。避難所では収容しきれず路上に暮らすエルフも出てくる始末だ。力不足を感じてしまう」
「そう言うな、炊き出しも立派にやれているだろ?」
「あれ美味しそうだな・・・」
「サクラ、ダメだぞ」
リリーナはツカツカと街の中を進み、都市の反対側に向かう。
「そういえばリリーナはどうしてあの小屋に来たんだ?」
「あの小屋はフラン様の要望で綺麗に保っていてな。出撃前に掃除しようと思ったらお前達がいたんだ」
「そっか、ありがとうな」
「礼ならフラン様に言え、会わせてやるから」
街の反対側、南側の門にはガリュオーン王国の騎士達や物資が集まっていた。
「騎士団長様! おかえりなさいませ!」
「あぁ、フラン様は?」
「先頭にて物資の確認中であります!」
「分かった。そろそろ出発だ、他の者にも準備を終わらせておくように言っておけ」
リリーナが指示をすると、兵士は敬礼を残して去って行った。リリーナは俺達に手招きし、軍の先頭へと進んでいく。
「騎士団長?」
サクラが突っ込む。
「あの後近衛騎士団を解体して、王国騎士団として再編成した。おかげで軍力は低下、他国からの侵略に怯えつつ国力増強を計るしか無い」
「他国から侵略されるのか?」
「人間領域にはいくつも民族や国がある。一見争いなく連携が取れているように見えるが、実態は水面下で戦争中だ。いつどこが我慢の限界に達して反旗を翻すか分からん。そうなれば連合内部に亀裂が入る」
「その連合って言うのにボーディガンは含まれていないのでありますか?」
「・・・正直あの場所に人の住める場所があるとは思っていなかった。国として、都市として認識していない。その見解は連合全土で一致している」
「完全にボーディガン不利の戦いだな? それなのに前線は劣勢か?」
「あぁ、劣勢だ」
リリーナが言い切ると、列の先頭が見えてきた。そこでは豪勢な鎧を身に纏った人物の周りに、兵士達が集まっていた。
「あ、騎士団長!」
「フラン様に通せ、客人だ」
「かしこまりました! フラン様、騎士団長がお戻りです!」
豪勢な鎧を纏った人物がこちらを向く。その瞬間、顔がぱあっと明るくなった。
「ジハード様!」
「フラン!? すっかり見違えたな!」
フランは鎧を頑張って動かし、俺達の元に走り寄ってくる。
フランはあの時とは違い、すっかり大人びていた。
「サクラ様もご無沙汰で!」
「あぁ、お前も元気そうだな」
「この方達は?」
「旅の途中で出会った仲間達だ」
「お話たくさん聞きたいです! ・・・ですがそういう訳にも行きません、この地から離れてください」
フランは顔を曇らせる。
「どうして?」
「災厄の魔王軍がすぐそこまで迫っています。正直私達では相手になるかどうか・・・」
「さっき話してた連合とやらは力を貸してくれないのか?」
「連合からも援軍はあります。人間族やドワーフ族、竜人族も参戦してくれますが微々たるものです。他の種族が本気を出すのは、自分達の領地に火がついてからです」
周りの兵士達の顔が曇る。そして、口々に言葉が漏れ出す。
「逃げる時間を少しでも・・・」
「俺達は死ぬのか」
「人間族め・・・」
「原理主義者なら・・・」
「今言った者は誰だ!」
リリーナが剣を抜いて怒鳴り声を上げる。兵士達は萎縮し、次々と首を横に振る。
「今のは?」
「・・・原理主義者共はみんな軍力増強を掲げていた。まさかこの有事の際にも原理主義の影を見る羽目になるとはな」
リリーナは怒りの形相のまま、剣を収めた。フランは悲しそうな表情を浮かべながら、自分自身の頬を張る。
「ジハード様、どうかお逃げを」
「フラン様、この者達も戦地に赴きます」
「えっ、でも・・・」
「我々とは別の目的ですが、ボーディガンを狙っています」
「それは・・・心強いですが、いいのですか?」
「大丈夫、俺達は別の理由で共闘するだけだ。そんなに心苦しそうな顔をするな」
「あっ・・・ありがとうございます!」
フランは頭を下げる。
その様子に周囲の兵士達がどよめく。
「頭を上げてくれ、フラン様。俺達に気を使うなよ」
「そういう訳にはいきません! そうと決まれば伝令を! 我々は国を守護する、連合からの要請である災厄の魔王ボーディガン討伐の任はジハード様一行にお任せします!」
「一気に気を使わなくなったな」
「聞け! 兵士達よ!」
リリーナが馬車の上に立ち、高らかに声をあげる。
「あの日、クーデターが起こりこの国は一変した! 忌まわしき逆賊たる獣人魔王ガリュオーンを討ち取ったのは、紛れもなくこのジハード・アーサーである! その者が我らの戦線に加わってくれる、希望はまだあるぞ!」
兵士達の間に電流のような者が走る。
広まっていた絶望的な雰囲気は、一気に明るくなった。地を向いていた顔は俺達を見つめ、誰かが拳を振り上げた。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
「あの反転英雄が!」
「俺達の国を守るぞ!」
どういう話で広まっているのか分からないが、予想よりも俺の話が広まっている。困ったものだ。
士気の上がった兵士達を眺めながら、フランは馬に乗り剣を抜いた。
「出撃!」




