第76話
目を開く。俺達は森のど真ん中に着地していた。二度のホバによるワープで、現在地はガリュオーン王国の近くだろう。
「ん〜! この匂い、懐かしいな〜!」
サクラが大きく伸びをしながら、森の空気をいっぱい吸い込む。俺も試しに深呼吸してみるが、森の香りがするだけで懐かしいとは感じなかった。
「ガリュオーン王国はあっちですね。すいませんが戦車に乗せてもらえると助かります」
「なんだホバ? 随分情けない事を言うな?」
「いえ、毒は無くなりましたがそれで損傷した部分が多く・・・今でもだいぶ辛いです」
「ナナは何ともないでありますよ?」
「魔族と人間は違うんですよ、ナナさん」
ホバは戦車の上に横たわる。サクラは狼の姿になり、戦車を引く。
「ガリュオーン王国ってどんな所でありますか?」
『ん? 凄いところだぞ! 街は広く食い物は美味い! クーデターでどこもかしこも戦闘が起きていた!』
「待て待て、それは偏り過ぎている。前半はともかく、後半は一時のものだ」
「まぁ大事件があったのはよく分かったよ、そんな場所がまた戦争に巻き込まれようとはね」
「さっさとボーディガンを片付けて平和な世の中を取り戻すであります!」
俺達はやいのやいのと騒がしく森の中を進む。すると、少し開けた所に小屋が見えた。
「おっ」
『おー! あれは我らが三年暮らした小屋だな!』
「ちょっと寄っていこう!」
俺とサクラはウキウキで小屋の扉を押し開ける。あの時からまだそんなに経っていないが、俺達はノスタルジーに浸っていた。
壁に立て掛けられた剣、綺麗に片付けられた水周り、サクラが破壊したベッドが部屋の隅に積まれている。本当にあの時、暮らしていた時のままだった。
「・・・いや、綺麗すぎないか?」
俺は疑問を呟きながら窓際を指でなぞる。埃一つ指に付かない。生活感は無いが、清潔に保たれている。
その瞬間、扉を強くノックする音が聞こえた。
「誰だ! 大人しく出てこい!」
懐かしい声に、俺は思わず扉を開けた。
「リリーナ!」
「なっ! 《《英雄》》!?」
扉の外で待っていた人物は、目の前の景色を確かめるために兜を脱ぐ。
剣を持って警戒を解かず、俺の顔を凝視する。
片角の山羊の獣人は、何度も目を擦った。
「嘘だろ? 夢か!?」
「夢じゃないさ! 帰ってきたんだ!」
「我もいるぜ〜」
「なっ、サクラ!?」
「ナナもいるでありますよ!」
「だ、誰だ!? 本当に誰だ!?」
混乱する様子のリリーナを小屋の中に入れる。俺達の様子を見て、リリーナは首を傾げた。
「色々と聞きたい事はあるが・・・まず誰だこいつらは」
「旅の仲間」
「ナナであります!」
「リーリャン・イ・フェニクス」
「ホバです、横たわりながらで失礼します」
「クソ、何もわからん!」
「勇者であります!」
「フェニックスの魔族だ」
「風神魔王の側近です」
「謎が増えた!」
嘆くリリーナをケラケラと観察しながら、サクラはリリーナを席に着かせる。そして後ろから肩に手を置き、ゆっくりと顔を近付けた。
「分かってるだろ? 我らが来る理由なんてさ」
「・・・あぁ、予想はつく。災厄の魔王についてだな?」
「ヒュー! ビンゴだ!」
サクラは嬉しそうに手を叩く。しかし、リリーナの表情は明るくなかった。
「戦況は悪化の一途を辿っている・・・昨日戦線が前進していると伝わって来た、途中にある街や村を制圧しながらガリュオーン王国に向かって来ている」
「ガリュオーン王国はどう出るんだ?」
「ガリュオーン王国軍は今日中に出発、これ以上の進軍を許さない為に近くの平原で陣を敷く予定だ」
「待て、我の予想だとまだ戦線は遠いはずだ」
「エルフの国は既に堕ちた。避難民が今も大量に入って来ている」
「なるほど、避難民で動きを鈍らせてその隙に進軍する戦法でありますね。非人道的ながら的確であります」
「その通りだ、避難民に構っている暇はない。我々は最後の自由時間を過ぎれば戦地に赴く、フラン様もだ」
「フランも?」
俺は机から身を乗り出す。あんなに小さな子も戦地に駆り出すのか。いや、女王になったからこそ戦地に赴かなければならないのだ。
俺は立ち上がった。
「俺達も行くぞ」
「もちろんだ、お前様!」
「待て、そんな・・・お前達にそこまでしてもらう道理は」
「俺達の旅の目的はずっと変わらない、魔王を倒して最強を目指すだけだ!」
「・・・すまない、ありがとう。今すぐフラン様の元に案内しよう」




