第75話
振り返れば、そこには何も存在していなかった。ただ薄らとした明かりが天に向かって登っていく。それが何なのか、人の魂なのかは俺には分からなかった。
『どうやら間に合ったようだな』
サクラは手綱を外し、人型に戻って身震いをする。俺達は戦車から降りて、門があった場所を探る。
何もない。ただ、だだっ広い砂漠が広がるだけ。まるで最初から何も無い、幻だったかのように。
「ユートピアはどうなったんだ?」
「おそらく消えた、中の人間も間に合わなかっただろう」
「見捨てたみたいで少し罪悪感がありますね」
「う、うぅ・・・」
ホバが呻き声を上げながら体を起こす。
戦車から這って降りようとするので、俺が支えて地面に下ろす。
「話は風に乗せて聞いていました・・・エルは戦争は既に始まっていると、言ってましたね?」
「あぁ、言っていたな」
「では行動は早めに起こした方がいい・・・今すぐ戦地に向かいましょう・・・」
ホバは地面を這いつくばりながら、地面に円形を描こうとする。
「待て待て、そんな体で無茶するなよ」
「いいえ、無茶をしなければなりません。災厄の魔王を打ち倒す事は、何よりも優先されなければならない」
「一度体制を立て直すのも大事だ。ついでに情報を整理しよう、な?」
ホバは動きを止め、その場で寝返りを打って仰向けになる。
そして、大きくため息をついた。
俺達もホバの周囲に座り込み、円形にホバを囲む。
「まずは失った物を数えよう。俺達はホテルに預けた荷物、路銀を失った。後ホバのクソでかい荷物だな」
「あれは放浪生活の中で集めたガラクタがほとんどです、大した痛手ではありません」
「そうか。次に手に入れた物だが、この戦車が一台」
「これは我がよく知っている、我が全力で引いても壊れんし大砲を食らっても傷一つ出来ない」
「めっちゃ丈夫な移動手段って訳だな、心強い」
ホバは地面に絵を描き始める。覗き込んでみると、どうやら世界地図の様だった。
「今いるのが大陸の北の果て、東西に別れ西は魔族の領域、東は人間側の領域です」
「デビルシティは西のここらへんでありますね」
ナナが指で書き込む。
「ならレニィの街はここだな」
大陸の中央に位置する場所にリーリャンが描き込む。
そしてホバは、東南の位置に巨大な丸を描いた。
「ここは魔物の多い原生林があります。おそらくボーディガンはここを根城にしているでしょう」
「侵攻が始まっているとしたら、戦線はここくらいか?」
サクラが首を傾げながら線を描く。
「そこでしたら、エルフの国は既に渦中ですね。ただ閉鎖意識が強く、僕もあまり滞在した事が無いですね」
「俺達は何をするべきだ?」
「ボーディガン軍の正しい情報が知りたいですね、戦争に参加する主要国で情報を得られたらいいのですが・・・」
悩むホバを他所に、サクラが戦線の近くに円を描いた。
「ここは何でありますか?」
「ん? ふふ、お前様なら分かるだろ?」
「・・・あっ! 獣人の国、ガリュオーン王国!」
「ここなら情報にアクセスしやすいし、何より知り合いもいる! ホバ、ここに行くぞ!」
「分かりました、少々お待ちください」
ホバはナナの手を借りながら地面に円を描く。俺とリーリャンは戦車を押し、円の中に押し入れる。
「よしっ! これでいいか」
サクラは枯れ木を門があった地面に突き刺し、何かを彫っている。
「円が描けました、早く入ってください」
「はいはい! 今行くよ!」
サクラが円の中に入ると、ホバが円に触れる。俺達はまた風となって、世界を移動した。




