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第71話

俺達は薄明かりの中、階段を登り続ける。

焦った様なエルを先頭に、俺達は石造りの階段を。


「お、扉だ」

「随分長かったでありますね」

「開かない!」


エルは扉を押し開けようと、両手を付いて目一杯押す。しかし扉はビクともしなかった。

そんなエルの隣に、サクラが進み出て扉の前に立った。


「はぁっ!」


サクラが扉をぶん殴ると、金具のひしゃげる音と共に扉が吹き飛んだ。扉は天井をぶち破り、天高く吹き飛ばされていった。

扉の外は小さな室内で、待合室の様にベンチや飲み物の乗った机などが置かれていた。


「なんだ・・・?」


あまりの異様な雰囲気に俺が踏み出せずにいると、エルは我先にとその部屋に入っていった。


「地上です、早く。早く帰らなければ」

「どうした? さっきからそんなに急いで」

「説は二つ。あの地下空間の時間の流れが地上部分と違う説。もう一つはこのユートピア自体が外の空間と隔絶されていて時間の流れが違う説です」


エルは俺の問い掛けに答えてるのか答えていないのか、曖昧な答えを話して部屋の中を駆け回る。そして、壁につけられた扉を見つける。


「待つであります、お前達は何を企んでいるのでありますか?」


ナナの問いかけを無視し、エルは扉を押し開けた。

眩い光が差し込む。


「ようこそ、地獄より戻りし罪人達よ」


そこは地下に落ちる前に見た、神殿の最奥だった。

玉座には相変わらずバイオレットが座り、俺達の事を見下ろしていた。


「バイオレット・・・」

「少しは頭が冷えましたか? フェンリル」

「どうするでありますか、旦那様」

「どうするもこうするも、戦うしかないんじゃない?」

「残念ながら戦いは起こりません。今から行われるのは・・・」


バイオレットが杖で床を二度叩く。神殿の床が変形し、俺達の前に長机の様にせり出した。

そして俺達の前には、証言台の様な物が浮いていた。


「あの地下から戻った者には裁判を受ける権利が与えられます」

「裁判?」

「死神の審判をパス、即ち無罪判定を受けた者。これは裁判を受け再審査を受ける権利を得る」


バイオレットは書状を持ち、内容をつらつらと読み上げる。


「もしくは死神を倒し地上に帰還した者。これは罪を受け止める器に値する可能性を考え、裁判を受け再審査を受ける権利を得る。お前達は後者の様ですね」

「あぁそうだ、死神は俺達が倒した」

「ふむ。強かったですか?」

「・・・あぁ」

「そうですか」


バイオレットは深く反応する事もなく、読み終わった書状を消滅させ玉座の上で足を組んだ。


「では、裁判を開始します」


バイオレットは杖でまた地面を叩く。するとエルの腕に手錠が現れ、その手錠に引っ張られる様に証言台の上に引っ張られていった。


「なんですか!?」

「まずはお前から。一番手早く済みますからね」


証言台の上に立たされたエルは、腕の手錠を外そうと藻掻く。しかし手錠は外れず、バイオレットは別の書状を取り出した。


「罪人、罪を自白する権利を与える」

「はぁ? 私に罪? そんなもの一切ありません!」

「そうか。では・・・罪人エル貴様には【魔王に屈し、協力した罪】が適応される」

「我が命、存在全てボーディガン様の為に! それの何が問題ですか!」

「魔王とはこの世を乱す悪、この世ならざる存在してはならない者。よって、それに協力する者は有罪である」

「楽園魔王ピース! お前もその魔王の一人でしょう!」

「えぇ、そうです」


バイオレットはあっさりと、エルの反論を受け入れた。そして、一際冷たい目線をエルに投げかける。


「だから私はここにいる。このユートピアと言う檻に自分自身を幽閉している。世界は私を認識しないし、私も世界を認識しない」

「っ! やはりここは隔離された空間か!」

「そうです。時間も、空間も、何もかも。外とは違う、それがユートピアです」


バイオレットは杖で激しく床を叩く。まるで裁判で使われる木槌の様に。


「判決を言い渡す。通常は追放刑だが、災厄魔王ボーディガンの悪性を考慮し・・・死刑に処す!」

「っ!」


エルが証言台から弾き飛ばされ、俺達の方に飛んでくる。俺がエルを受け止めると、手を縛っていた手錠は消えていた。


「執行は裁判が終わり次第です。では次」


バイオレットが杖で床を打ち鳴らす。その瞬間、ナナの体が証言台に向かって飛んでいった。


「次はナナの番でありますか!」

「そうです。次はナナ・ベルフェゴール、貴方です。では罪を自白してください」

「どうせナナの罪は魔王に協力したとか、悪魔の血筋だからと言うんでありましょう!? それに弁護人もいない裁判は不当裁判であります! 今すぐ改善を求めるであります!」


ナナは自信満々に受け答えし、見事にバイオレットに反論して見せた。バイオレットは少し考え、組んでいた足を解いた。


「弁護人を用意しなかったのはあなた達です。そしてあなたの罪はそれだけではありません」

「なんでありますか? ナナは勇者であります、清廉潔白に生きてきた自信があるでありますよ?」

「それです、勇者である事が問題なのです」

「はい?」


ナナは意表を突かれた様な声を出す。バイオレットは書状を取り出し、内容にスラスラと目を通した。


「あなたは勇者。即ち私の後釜でありながら、勇者の力を使いこなせず旅をしています」

「勇者の力を使いこなす? ナナはフルに使ってるつもりでありますよ?」

「怪力や俊敏性は悪魔の力、魔王を探知するレーダーも一部の力に過ぎません。勇者の力とは民草の祈りを一身に受け、それら全てを力とし不可能を可能とする力です」

「・・・?」

「即ち、自分の理想を実現させる能力。それが【勇者】のギフトの真の能力です」


急にバイオレットが訳の分からないことを宣い始め、ナナは困惑の色を浮かべる。

その様子に、バイオレットはため息をついた。


「あなたは無自覚に使っているはずです。【勇者流】、と言う妙な技を使うでしょう。存在しない流派を」

「あ〜・・・確かに」

「おい待てよナナ、つまり勇者流なんて存在していないって事か!?」

「えぇ、そうでありますよ? やりたい事をやって、それにかっこよく勇者流とかその場で名前を付けてるだけであります」

「マジかよ、結構かっこよくて憧れてたのに・・・」


ナナのケロッとした返事に、俺は落胆する。旅の途中でナナに隠れて、勇者流のマネとかしてたのに。

剣の才能がないが学だけはある俺の知らない流派があるのかとワクワクしていたのに、まるで裏切られた気分だ。


「それです、その無自覚さが罪なのです」

「はぁ〜? あれは旦那様が少し子供っぽいだけでありましょう?」

「いいえ、勇者であるにもかかわらず力を使いこなせない。そしてそれに無自覚である。【勇者の名に泥を塗る罪】が適応される」

「そんなもの全部お前の基準であります! 王様気取ってんじゃねぇであります!」

「ここは私の楽園、ここでは私が法です。反論は認めますが、正当性は見受けられないので却下します。判決は死刑、執行は後に。次!」

「うわっ!」


エルと同じ様にナナが吹き飛ばされてくる。俺が受け止めると、ナナは牙を剥いてバイオレットに威嚇していた。

そのナナを受け止めた俺の手に、手錠が浮かび上がっていた。


「証言台に」

「次は俺か」


俺は引っ張られる前に、自ら証言台に飛び乗った。バイオレットは頷き、書状を広げる。


「では」

「その前に! この裁判に無罪はあるのか?」

「えぇ、罪のない者を裁く事はありません」

「そっか。じゃあもう一つ質問! リーリャンとホバは無事か?」

「二人ともあの後は逃走しました、追わせていますが、今は行方知れずです」

「そうか。無事か」

「では改めて、罪の自白を求めます」

「俺の罪は、【魔王に屈し、協力した罪】だろ?」


バイオレットの顔に明るさが灯った気がした。


「そうです。自覚がある様で何よりです」

「そりゃどうも」

「自白を行った者には更生の余地があると認められます。ジハード・アーサー・《《バレンタイン》》、あなたであれば魔王と手を切る事で更生となります」


俺はバイオレットに向かって中指を立てた。


「嫌だね。それにその名(バレンタイン)は既に捨てた名だ」

「そうですか、失礼しました。では、判決は同じく死刑。執行は後に」


俺は弾き飛ばされる前に証言台から飛び降り、サクラ達の元に戻った。手錠は消え、両腕の自由が戻った。


「次は私・・・」


サクラが不安そうな声をあげる。俺は肩に手を置き、笑顔を見せる。


「大丈夫だ、死刑だなんだとかはアイツを倒せばいい話だ」

「う、うん・・・」


サクラの腕に、手錠が浮かび上がった。

その時、大広間の扉が開いた。


「遅刻ですよ」

「・・・」


そこには、神妙な面持ちをしたリーリャンが立っていた。

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