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第70話

あれから一週間が経った。

僕達は街中に潜伏しジハード達が落ちた地下空間に繋がる場所を探していた。

僕は自由に動けたのでホバを隠し、食料や情報を集めていた。しかしそれでも審問官達は僕を見つけると追いかけて来た。


「クソ・・・ここも塞がれたか」


僕はビルの角から向こう側を伺う。全身を灰色で包んだ審問官達が、武器を持って僕を探して彷徨いている。

僕は炎の翼を広げてビルの側面をかけ登る。あっという間に屋上に着いた僕は、持っていた紙袋を地面に置いた。


「帰ったぞ」

「あぁ、ありがとうございます」


物陰からホバが現れる。紙袋に手を入れ、中からサンドイッチを取り出して食べ始めた。


「どうだ? 何か変化はあったか?」

「いいえ。ジハードさんやサクラさんが地上に戻ってきたなら、何かしらの合図をしてくれると思うのですが・・・」


ホバは双眼鏡片手に周囲を見渡す。僕達が潜伏するビルの下の方では、審問官達が消えた僕を探して動き回っている。

そろそろここも捨て時だ。


「・・・」

「不安ですか?」


ホバが尋ねる。僕は少し返答に困り、黙ったまま頷いた。


「大丈夫です、サクラさんは強い。その強さは魔王の中でもトップレベルです」

「そうなのか?」

「えぇ、僕は色々な魔王を見てきました。その中でも戦闘力の高さだけで評価するなら、サクラさんが一番です。搦め手や知恵比べでは劣る所もありますけどね」

「そうは感じないけどな・・・」

「そうですね、長い間封印されていたと聞いています。そのせいで本気の出し方を忘れてしまったのでしょうか?」


そんなに強いサクラが封印されていた。その封印をした本人が、僕達を追う楽園魔王ピースだ。もしかして、僕達はとんでもない相手と戦っているんじゃないか。地下に落とされたジハード達ももう・・・


「まだ生きてますよ」


ホバが突然話し始める。


「我が王は魔王の気配を感知できます。今この世に存在する魔王は四体、我が王、ピース、ボーディガン、そしてサクラです」

「・・・そうなのか」


魔王は四体。その言葉に安堵感が生まれる。

僕はまだ仲間を裏切っていない。


「ん?」


ホバが反応すると同時に、街の奥が爆発した。あの方向は神殿のある方だ。


「何かが爆発しました!」

「貸してくれ!」


僕はホバから双眼鏡を受け取り、神殿の方に向ける。神殿の天井に穴が開き、土煙が立ち込めている。


「行くぞ!」

「えぇ! 掴まってください!」


ホバの手を握ると同時に、僕達は一瞬で神殿の前まで移動する。

神殿の奥からは轟音が響いていた。


「急ごう!」

「そうは行きません」


落ち着き払った声を響かせ、年老いた女が現れた。あれは神殿の最奥で戦っていた魔術師の女だ。

そしてその両脇には、剣を持った男達が立っていた。


「足止めって訳か」

「いいえ、ここで仕留めます。【ブリザード】!」


女魔術師を中心に氷の魔術が展開される。


「最上級の水魔術を初っ端か!」

「吹雪の中から来ます! 気を付けて!」


吹雪は空から降り注ぐ日差しのお陰で、室内ほどのホワイトアウトとは程遠かった。

吹雪の中で人影が動く。


「そこだ!」


僕が炎を投げ付けると同時に、人影はこちらに飛びかかってきた。

それはあの男達では無く、灰色の布で全身を覆った審問官だった。


「なに!?」

「隙アリ」


背後から声が聞こえると同時に、僕の首が切断される。火だるまになった審問官は僕の跳ね飛ばされた首を受け止め、何かの容器を取り出した。


「危ない!」


ホバのレイピアが審問官の脳天を貫く。僕は容器から外れ、床に落ちて体を再生する。


「何だ、あの容器」

「恐らく封印関連の物かと、あれに入れられたら再生も出来なくなると思ってください」

「面倒だな」


脳天を貫かれた審問官はゆっくりと立ち上がり、容器を持って吹雪の中に身を隠した。

不死の審問官達、手練の剣士二人、魔術師が一人。それに対して僕達は二人。


「不利だな・・・」

「でもここで仕留めなければ合流できませんよ?」

「そうだな、少しガードしておけよ!」


ホバの周囲に風の鎧が展開される。それを確認した僕は、大きく息を吸い込んだ。

冷たい空気が肺に満ちる。氷の刃が体を内部から切り刻んでいく。それこそが好都合だった。


「はぁ!」


体内から溢れる炎の勢いを増し、体外へ放出する。僕を中心に吹雪が崩れ、勢いが衰え消えていった。

僕の体は内部から裂けた部分に炎が生まれ、傷を修復していく。


「さて、厄介なのはどこだ!」

「くっ! 【ブリザード】!」


再度吹雪を展開しようとした女魔術師の首に、ホバのレイピアが迫った。

だがレイピアはすんでのところで止められる。


「残った腕を大切にしましょうよ」

「任務が優先だ」


片腕の男は残った手のひらをレイピアに突き刺し、柄を握って受け止めていた。


「【アイスソード】」


ホバの頭上に氷のギロチンが生成される。そして、ホバの首目掛けて落下する。


「風よ!」


ホバが叫ぶと同時に、ホバのレイピアから激しい風が吹き荒れた。女魔術師は吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。氷のギロチンも方向をずらされ、地面に落下した。

だが、唯一ホバのレイピアを止めた男だけはその場から動かなかった。


「無駄だ」

「我が王よ、世界に吹き荒れし原初の風よ!」

「何っ!」


ホバのレイピアから吹き荒れる風は勢いを増し、周囲の全てを切り刻んでいく。切り刻まれた男はバラバラになり、風に飛ばされパーツごとに吹き飛んでいった。


「いてて、これ使うと自分もダメージ食らうんですよね」


ホバはボロボロの笑顔でそう言った。

そんなホバの背後に、もう一人の剣士が飛び掛った。


「危ない!」

「はっ!」


ホバは華麗なレイピア捌きでその男の剣を弾き飛ばした。


「やった!」

「いえ、私の負けです」


ホバは数歩下がり、その場に膝を着く。その腹部には、深々とナイフが突き刺さっていた。


「暗器使いか!」


僕は炎を放ち暗器使いと集まってきていた審問官達を遠ざける。すぐにホバに駆け寄り、傷からナイフを取り除く。

毒が塗られていたのか、ホバの腹部は変色を始めていた。


「耐えろよ」


僕はホバの傷に腕を突っ込み、内部から傷を焼く。ホバは少し呻き声を上げるが、すぐに立ち上がってレイピアを構えた。


「大丈夫です、まだ戦えます」

「無理するな! 後は僕が」

「そんな事言ってる場合じゃないでしょう、今は一刻も早く楽園魔王ピースに対する戦力が欲しいはずです」


ホバは神殿の奥を指差した。


「ここは僕に任せてください。リーリャンさんは先にジハードさん達と合流を」

「でも」

「大丈夫。ここは通しませんし、僕は死にません」


ホバは悪くなっていく顔色を隠す様に、無理に笑顔を作って見せた。


「さぁ早く!」

「でも・・・」

「行きなさい!」


僕はあまりの気迫に背中を押され、気付けば神殿の中を駆けていた。

また、裏切った。

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