第67話
「ナナが戦闘を行くであります!」
ナナが大剣を振り回しながら、死神に向かって突っ込んでいく。
死神はゆらりと体をこちらに向け、赤い両目を見開いた。
「審判」
「ナナ!」
先を走っていたナナの体がグラりと揺れる、前のめりに倒れそうになったナナの腕を引っ張る。
「【反転】! 考え無しに突っ込むな!」
「はっ! 考えなしじゃないであります!」
ナナは心臓が動き出すと同時に起き上がり、俺の前に立ち塞がるように立った。
「なるほど、死神の遠距離攻撃を身を呈して受けると言うわけですか!」
「そうであります! まずは近付く、心臓止まったら旦那様に任せるであります!」
ナナはもう一度歩を進める。
死神はもう一度目を見開き、ナナの心臓を止めた。
「審判」
「【反転】!」
ナナの背中越しに触れ、心臓を動かす。ナナは心臓が止まったり動いたりしている中でも、全身を続けた。
俺とエルはナナの真後ろにピッタリくっつき、死神と直線上にならないように後を追う。
「審判!」
「無駄だ! 【反・・・」
「え!?」
ナナが顔だけで振り返る。心臓は止まっていない、俺達はみんな一瞬だけ。死神から目を離した。
「危ない!」
エルが俺とナナを引っ張る。その瞬間、俺達の目の前を黒いモヤが通り抜けた。
「ブラフ!? そんな知能があるのか!」
「どうやら、ナナ達はまだあの死神について知らない事が多いようでありますね・・・」
ナナは俺達に腕を見せ付ける。先頭を走っていたせいか、エルが引っ張るのが遅れたせいか。ナナの腕がパックリと裂けて血が流れ出ていた。
死神は体をくねらせ、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「ここまで近付ければ!」
ナナが地面を強く踏み込み、死神の背後に回り込む。大剣を振り抜き、死神の体を両断する。
「なっ!」
「なんだあれは!?」
死神の体はぐにゃりと曲がり、くの字に曲がった状態でナナの大剣を受け止めていた。ナナの大剣を受け止めいてる部分はモヤが少し晴れ、銀に輝く剣が見え隠れしている。
「体が無い!」
「剣が本体ですか! 【融合・合体】!」
エルは懐から鞭を取り出し、近くに落ちていたガラスの破片に触れる。眩い光と共にガラス片が無くなり、鞭から無数のガラス片が飛び出す。
「名付けて異薔薇の鞭!」
「うわっと!」
エルが鞭を振り回し、ナナの体を掠って死神の体に巻き付く。ガラス片が食い込み、死神の闇で覆われた体を縛り上げる。
「叩き潰すであります!」
ナナが飛び上がり、大剣で死神を叩き潰しに掛かる。
死神は腕を伸ばし、ナナ目掛けて闇を集める。
その瞬間、エルが鞭を操り死神を地面に叩き付けた。
「どりゃぁぁぁ!」
ナナの大剣が深々と地面に突き刺さる。周囲には土煙が立ち込め、状況は一時的に見えなくなる。
「っ! 鞭が切られました、気をつけて!」
エルが叫んだと同時に、ナナが土煙の中から吹っ飛ばされてくる。
「ナナ!」
「前を見てください!」
土煙の中で、赤い二つの目が光る。俺は思わず自分の胸に手を当てるが、心臓は変わらず動いていた。
「エル!」
倒れようとするエルを抱え、心臓に手を当てる。死神によって心臓は止められていた。
「クソッ! 【反転】!」
「あぶない!」
サクラの叫び声がする。俺が顔を上げると同時に、目の前に死神が立っていた。闇に覆われた剣を俺の首に向かって、今まさに振り抜こうとしていた瞬間だった。
(動こうにも膝の上に乗るエルが邪魔で急には動けない。エルを捨てて逃げる事も出来るがそれだとエルが死ぬ。俺が変わりに食らうか? 剣で切られたらどうなる? 死ぬ? 死ぬのか?)
俺の思考は生きる方法を詮索して回り続ける。しかし最適解は思い浮かばず、刻一刻と俺の首に向かって剣が振られていた。
世界がスローモーションに見える、死神の闇の揺らぎがそよ風に揺れる草木の様で。
「やめて!」
俺の目の前で、サクラが死神に蹴りを入れる。死神は吹き飛び、ゴミの山に突っ込んだ。
「サクラ!」
「ご、ごめんなさい!」
「違う! どうして・・・」
「わ、わたしにとっておにいさんが、とてもだいじな人におもえたから!」
「サクラ・・・!」
俺の腕の中で白目を剥いていたエルが、むせながら目を覚ました。
「ゲホッ! これ絶対体に悪影響ですよ!?」
「うるせぇ! 生き返らせてやったんだから感謝しろ!」
「はいはいありがとうございます! それで状況は!」
怒り心頭という様子のエルに、死神が吹き飛んでいったゴミ山を指さす。
死神はゴミ山を掻き分け、中からゆっくりと這い出てきていた。
「主様、離れていてください」
「う、うん・・・きをつけてね!」
サクラは俺達を気にしながら、またさっき待機していた場所に走る。
そんなサクラの右肩に、死神の剣が突き刺さった。
「サクラ!」
「審判!」
駆け寄ろうとした俺の心臓が止められる。俺は歩みを止めずに、自分の心臓を再稼働させる。
倒れようとするサクラを受け止め、心臓に手を当てる。
「クソッ! 【反転】!」
止められた心臓を再度動かす。サクラは咳き込みながら目を覚まし、右肩に刺さった剣を見て涙を流した。
「えっぐ・・・ひっぐ・・・」
「酷い事しやがる・・・! 今抜いてやるからな!」
俺はサクラの右肩に刺さった剣を引き抜き、自分の服を割いて止血をする。
「ナナ! 死神の相手を・・・!」
振り向いた時、俺の目には衝撃の光景が飛び込んだ。
「ナナ? エル?」
二人が倒れていた。外傷も見た所も無い。
やられた。
「ナナ!」
俺はサクラをその場に寝かせ、ナナの元に走る。
その道を塞いだのは、死神だった。
「・・・」
「お前・・・!」
死神は剣を抜き、俺に向かって振る。俺はその一撃を避け、ナナ達の元に走ろうとする。
だが死神はゆらりと揺らめく炎の様に動き、俺とナナ達の距離を詰めさせないようにする。
「な、なんなんだよお前!」
死神はゆっくりと俺に向かって手を伸ばす。
今までは心臓が止められても、すぐに動かしたから助かっていた。だが今は止められてからしばらく経っている。あとどれ位で完全に死ぬのか。
それを考える暇も、死神の攻撃を避ける暇も無かった。
「おぉぉぉ!」
「・・・!」
死神の腕を避けず、触れられながら横を通り抜ける。胸に鋭い痛みが走り、全身から力が抜ける。地面を転がりながら、自分の心臓に手を当てる。
「【反転】・・・!」
動き出した心臓をフルに使って、体を動かし這い寄る。近くにいたエルの胸に手を置き反転を使う。
「次は・・・」
その瞬間、俺の背中に痛みが走った。前に進もうとも進めない。
死神の剣が、俺の腹を貫き地面に突き刺さっていた。
「ナナッ!」
俺は自分の腹を裂きながら這いずる。ナナの胸に手を触れ、大きく息を吸い込んだ。
「【反転】!」
「っは!」
ナナが息を吹き返した。それと同時に、俺は口から堪らず血を吐いた。
「よ、よかった・・・」
意識が朦朧とする。
死神が自分に向かって手を伸ばすのが見える。その死神を、ナナの大剣が弾き飛ばした。
「旦那様っ!」
「俺はいい、サクラを・・・」
「貸してください」
ナナを押し退け、エルが俺の傷口に手を入れる。
「【融合・合体】」
「なんだ・・・?」
俺の傷口が光り輝き、傷が塞がる。
「傷口をくっつけました。激しく動くとまた開きます」
「あ、ありがとう」
「勘違いしないでくださいね、私はただ借りを返しただけですから!」
「それよりも、サクラを!」
「おい!」
俺がサクラに目を向ける。
横たわるサクラの側に、死神が立っていた。
「サクラ!」
俺は立ち上がろうとする。だが足に上手く力が入らずに、膝をつく。
死神はゆっくりと腕を伸ばして、サクラに触れようとする。
「あなたが」
「・・・?」
「あなたがわたしのうでを、おにいさんたちをいじめるんですか?」
「・・・!」
サクラは腕を抑えながら立ち上がる。
死神は何かを感じ取ったのか、ゆっくりと後ずさる。
俺達もサクラから発せられる威圧感の様なものに圧倒される。
「ゆるしません!」
「審判!」
死神が目を見開くと同時に、サクラの姿が消える。
一瞬で死神の背後に回りこみ、足を振り上げる。
「ぜったいに! ゆるしません!」
サクラのかかと落としが死神に直撃した。
死神を中心に空間がひび割れ、周囲の地面が盛り上がる。まるで爆発したかのような衝撃波が周囲のゴミを蹴散らす。
「・・・」
死神はまるでボロきれの様に、その場に落ちて動かなくなっていた。




