第66話
「休息は十分取れましたね? そろそろ行きましょうか」
エルはスっと腕を伸ばし、サクラの腕を掴もうとする。
俺はそんなエルの腕を掴み上げる。
「おい」
「なんです? 早く行きましょうよ」
「ふざけんなよ、お前」
ナナも大剣を持ち、エルの動向を見る。
「なんです? 戦えるのなら問題ないですよね?」
「精神年齢五歳だぞ? 戦わせれる訳ねぇだろ、殺すぞ」
「お〜怖い怖い、ブチ切れじゃないですか」
エルは手を引き、俺から少し離れる。俺とナナはサクラを守るように立ちはだかり、エルを睨み付ける。
「でも契約は果たされなきゃいけない」
エルは手袋を外す。
人差し指に付けている指輪が、ギラギラとドス黒い光を放っていた。
『サクラを連れて階段前に行きますよ』
「っ!」
「なんでありますか!」
「いや、はなして!」
俺達の体は自由を失い、サクラを抱えて建物の外に出る。足は勝手に動き、エルの後に続いて地上への階段に向かう。
「《《取引》》をした、つまりは契約。この指輪は契約を履行させる為なら、相手にある程度の行動を強制出来るギフトが込められています」
「今すぐやめろ! 止まれ!」
「やっぱこいつロクでもないであります! 自由になったらぶっ殺してやるであります!」
「それもこの指輪で禁止させてもらいますから大丈夫ですよ〜」
「ど、どこにむかうの?」
サクラは俺の腕の中で心配そうな声をあげる。俺は必死に平静を装いながら、サクラを離そうと意識上で藻掻く。
「大丈夫、俺がなんとかするから」
「う、うん・・・」
「おいエル! サクラは置いていこう、俺達がその分も働く!」
「何言ってるんですか、魔王がいなきゃ話にならないレベルの強さなんですよ死神は」
「ナナなら勝てるであります! 悪魔の力を使えば主様とも互角でありました!」
「それなら勝利を確実なものとする為に、魔王の力は尚更必要ですね」
エルは俺達の言葉を受け流しながら、歩を進める。段々と階段が近付いてくるにつれ、俺は更に焦る。
この状態のサクラを戦闘させるなんて冗談じゃない、そんな事になったら俺はサクラにこれからどう顔向けすればいいんだ。
「さて、着きました」
体に自由が戻る。その瞬間サクラを抱え、踵を返して走り去ろうとする。
しかし体を反転させた瞬間動きが止まり、エルが笑いながら俺の目の前に顔を出す。
「ダメですよ〜? 契約は必ず果たされます」
「絶対に許さないからな・・・!」
「あなた達に残された道は二つ。ここで死ぬか、死神を下して外に出るかです」
「・・・っ!」
俺はサクラを地面に下ろし、膝を折って視線を合わせる。
「サクラ、今から俺達は強い敵と戦わなきゃいけない」
「え・・・たたかう?」
「あぁ。だが、サクラは俺達を応援するだけでいい、危ないからここにいてくれ。約束してくれ」
「わ、わかった・・・」
サクラは何度もこくこくと頷いた。緊張に染まった顔、額に流れる汗を手の甲で拭ってやる。
俺は無理にでも笑顔を作り、エルの方に振り向いた。
「文句はねぇな」
「まぁ、いいでしょう。私が危なくなったら、指輪の力で強制的に参加させますからね」
「そうなったらここから出た瞬間にお前を殺す。契約はここから出るまでだ」
「おっと恐ろしい。では始めますよ〜!」
エルはおもむろに地面に手をくっ付ける。そして地面に埋まっていたロープを引っ張り出し、思い切り引く。
仕掛けが動く様な音がして、階段側の坂道に吊るされていた男が落下した。
「〜〜〜!!!」
口を塞がれ声にならない悲鳴が響く。ぐるぐる巻きにされた男は坂を転がり、悲鳴をあげながら階段の前で停止した。
その瞬間、男を中心に闇の壁が現れた。
「よいしょ!」
エルがロープを思い切り引くと、男がまた坂の上に向かって引っ張られる。闇の壁を抜けた男は、ピクリとも動いていなかった。
「さて、本番始まりますよ!」
「速攻で片付けるであります!」
ナナの皮膚が黒く染まり、二本の角が生え揃う。
その瞬間闇の壁が溶けるように無くなり、死神の姿が顕になった。




