第63話
「あれがその階段か?」
暗闇の中に、真っ白い階段の入口が見える。
暗闇に上部が隠れているが、階段は地上に向かって伸びているように見える。
「誰もいないでありますね?」
「今なら行けるか?」
「いえ、あの階段の周りに行くと必ず死神が現れます」
「必ず?」
「別の場所で死神が現れている最中でも消え、この階段前に現れて階段に近づく者を排除してきます」
「・・・ところであれはなんでありますか?」
ナナは階段のそばにある坂道の上に、ロープでぐるぐる巻きにされた数人の男女を指さす。
「あれは緊急脱出装置です」
「は?」
「私が死神に襲われた際、仕掛けを作動させると彼らの一人が転がり落ち」
「あぁ、もういい。聞いてもろくでもない事が分かった」
「とっとと解くであります」
「私を殺そうとした悪人ですから、手出しは無用ですよ」
エルは飄々と答えながら、階段とは逆方向に歩き始めた。
「どこに行くんだ?」
「まずは食事と休息です、最高戦力が目を覚ますまでは作戦は後回しです」
「待てよ、何させるつもりだ?」
「あなた達にも死神と戦ってもらいます、地上に出る手段はそれしかありません」
「あれと戦うのか・・・」
俺は桜を背負って、渋々エルの後に続く。ナナは最後まで縛られていた人達を見ていたが、意を決した様に俺達のそばに走り寄ってきた。
「死神は強いです、恐ろしい程に」
「知ってるよ、俺も戦ったからな」
「まともに戦った経験はありませんが、大体の攻撃手段は割れています」
エルは歩きながら自分の胸を指差した。
「心臓です。死神に睨まれると心臓が止まります」
「あ〜・・・止まったな」
「止めた後に触れられると、もう確実に死にます。心肺蘇生法なんて効きませんでした」
「試したのでありますか?」
「えぇ、ちなみに直接触れられても心臓は止まります。そういうギフトでしょうかね」
「ギフトにも限度があるだろ・・・そんな無法のギフトが存在するのか?」
俺の問いに、エルは目を輝かせて振り向いた。
「存在します! ギフトとは神からの贈り物、《《有り得ない》》こと自体が《《有り得ない》》のです! まさに我らがボーディガン様のように!」
「待て、ボーディガンのギフトが何だって?」
「おっと、これは失言です。忘れてください」
エルは失言を取り繕うように平静を装い、嫌がらせの様に歩くペースを上げる。
俺はサクラを背負い直し、ペースを上げてエルに着いていく。
するとエルは、一つの小さな建物の前で立ち止まった。建物と言っても崩れ掛けで、全体的に斜めに傾いている。
「やぁどうも皆さん、ごきげんよう」
エルは上機嫌に扉を開ける。中には数人の老若男女が集まっていた。
「・・・何の用だ」
「食料と安全な寝床の提供をお願いします」
「勝手な事ばかり言いやがって、ぶち殺してやる!」
奥に座っていた大男が立ち上がり、折れた剣を持ってエルに切りかかる。
エルは懐から小さな杖を取り出し、先端を男に向けた。
「【融合・合体】」
エルは男が振り下ろした剣を寸前で避け、剣に触れると同時に杖を伸ばす。
杖の先は勢いよく伸び、剣と合成された杖の先端は鋭くなり男の首を貫いた。
「が、ごぼ」
「あぁ、汚い」
男が吐き出した血を避けるために、エルは俺達を押しのける。
エルが杖を手放すと、男は前のめりに倒れ杖が首の後ろから貫通した。
「それで? 意見のある人はいますか?」
「・・・勝手にしろ」
「長老! どうして奴に好き勝手に・・・!」
激しく言い合う人達をスルーして、エルは奥にある扉に手を掛ける。
扉を開けると棚がいくつか置かれており、その上には仕分けされた食料が乗っていた。
「ここの食糧事情は非常に厳しい、上から落ちてくる食べ残しや消費期限切れの物しかないです」
「そんなに逼迫しているのか? 上では全部無料だったぞ?」
「えぇ、ここは罪人のいる場所ですから。恵は届きません」
「とりあえず主様の為に、喉を通りやすいものだけ貰っていくであります」
「嫌ですね、全部貰っていくんですよ!」
そうエルが嬉々として宣言すると、またどよめきが広がった。
「明日からの食料は!?」
「どうやって生きればいい?!」
「こいつを殺してでも!」
「やめとけ、無駄死にするだけだ」
「エル様・・・どうかお慈悲を」
「そんな物はありません。ギフトすら持たず犯罪を犯して国や街を追放され、挙句の果てにこんな所に落とされる奴らに救いは無いのです」
「待てよ、どういう事だ?」
俺が尋ねると、エルは両手いっぱいに食料を抱えながら答える。
「このユートピアに来る者は大まかに二通り。一つは街や国が滅び行く宛てを無くした難民。そしてもう一つは、犯罪や追放刑を食らい行く宛てを無くしたどうしようも無いクズ! そのクズがここに落とされているのです!」
「罪ってそういう事か・・・でもそれなら俺達はどうして?」
「さぁ? 狂った独裁者の物差しなんて知りませ〜ん」
エルはわざと外したような調子で言い放ち、食料を持って建物を出ていく。
「ナナ達は死神を倒すであります。そしたらみんな自由の身であります」
「本当か、本当にできるのか?」
ナナはいくつか食料の入った箱を持ちながら、みんなの前に立って宣言している。
「ナナ達は約束するであります! 必ず死神を倒すと! なので、どうかみんなも罪を償って生まれ変わって欲しいであります!」
「あぁ、約束しよう。必ず・・・そういう事なら食料を持って行ってくれ、どうか役に立ててくれ」
「ありがたく頂戴するであります!」
ナナは深々とお辞儀をし、エルに続いて建物を出る。俺も後を追って建物を出た。俺達の後ろ姿を見つめながら、数十人の老若男女は残った食料に目を向けていた。




