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第61話

「おや、そんなに警戒しなくてもいいじゃないですか」


ネゴシエーターのエルはケラケラと笑いながら、俺にフレンドリーに笑いかける。

俺はエルの側に寝かされている二人を奪い返すために、エルに殴り掛かる。


「おっと、それ!」


エルは簡単に俺の拳を止め、俺の腹に膝蹴りを入れた。

俺は思わずその場にうずくまると、エルは俺の前髪を掴み顔を上げさせた。


「助けてあげたんですよ? 感謝の言葉ならまだしも暴力だなんて恐ろしい」

「クソ・・・テメェは敵だ! 俺達に付きまとって、何の用だ!」

「付き纏われているのは私の方です。私はあなた達とやり合った後すぐにここに向かいましてね」

「何のために・・・?」

「楽園魔王ピースを我々の側に引き入れる為です。このユートピアを人質にすればいけると思ったんですが・・・問答無用でここに落とされました」


エルは俺の髪の毛を離し、ナナを足と先で軽く小突く。


「それよりも大丈夫ですか? 心臓止まってますよ?」

「なっ!」


俺はナナの心臓の鼓動を聞こうと耳をくっ付ける。確かに心臓の音は聞こえない。

俺は急いで心臓マッサージを施す。


「それよりも先に毒を抜く方が先では?」

「うるせぇ! 俺に出来ないんだよ!」

「いいや、出来ます。あなたのギフトは成長した、その力を使えば毒を反転させる事が出来るんじゃないですか?」

「・・・クソ、【反転】!」


俺はエルの言う通り、ナナの体に入った毒を反転させる。

白く変色した腕がどんどんと紫に変色し、更に様態が悪化した。


「どういう事だ!」

「毒が反転しても別の毒になったんじゃないですか?」

「お前が・・・クソ! ナナ! 死ぬな!」

「いい機会です、取引をしませんか?」


俺はナナに心臓マッサージを続ける。


「私のギフトなら毒を取り除けます。その代わり、ここから出るのを手伝ってください」

「お前、ぬけぬけとまだそんな事を!」

「ほんとに死んじゃいますよ〜?」

「・・・っ! 頼む! お願いだ! ナナを助けてくれ!」

「いいでしょう!」


エルは落ちていた男の死体を引っ張って来て、ナナの隣に寝かせる。

そしてナナの額と死体の額に両手を置き、一瞬閃光が走る。


「【融合・合体】!」


光が収まると、ナナの体から毒の色が抜けていた。代わりに男の死体は、さっきまでのナナの様に変色して悪臭を放ち始めた。


「契約成立ですね」

「・・・ありがとう」

「どういたしまして!」


エルは変色した男の死体を蹴って遠くにやる。死体は腐った様にバラバラになり、ガラクタの山の隣に散らばった。


「さて、こっちも治療しちゃいましょうか」

「サクラを? 出来るのか?」

「ある程度備えは持っているので」


エルはサクラの隣に座り込み、懐から小さな箱を取りだした。そして慣れた手つきでサクラの傷を塞ぎ始めた。

あっという間にサクラの傷は塞がり、出血は止まった。


「はい、治療完了です!」

「すごく気分が悪いであります・・・」

「ナナ!」


エルがサクラの治療を終えると同時に、ナナが目を覚ます。


「さすが悪魔の魔族、回復は早いですね」

「・・・悪夢でありますな?」

「残念ながら現実だ」

「えぇ、現実です」


エルがにっこりとナナに微笑みかける。ナナは大剣に手を伸ばすが、俺がその手を止める。


「ここから出るまでは協力関係だ、我慢して欲しい」

「まぁ、ナナを助けたって事は理解出来るでありますが・・・礼は言わないでありますよ」

「えぇ、ご勝手に」


エルは箱をしまいながら、サクラの側に立ち上がる。


「サクラの容態は?」

「脳に強い衝撃を食らったせいで意識を失っていますね、パックリと割れて頭蓋骨まで見えていました。死んでないのは魔王だからですかね? それと全身に切り傷、全身至る所が強い力で押し潰されたように骨折が」

「待てよ、あの短い時間でそんなに酷い傷を負ったのか?」

「あのピースと言う女、私から見ても相当強い部類に入りますね。魔王の中ではボーディガン様の次に強いと思われます」

「やっぱりボーディガンは強いのか?」

「えぇ、この世で最も」


エルはまるで自分の事の様に誇る。

その様子にナナは嫌そうな顔をする。


「それで、ここはどこでありますか?」

「そうですね、ここはユートピアの地下。罪のある者が送られ、死神よっての審判を待つ空間です」

「罪のある者? ナナ達は罪なんて犯していないでありますよ」

「罪の基準は人それぞれです、この街での罪の有り無しはピースが全て決めています。そして罪のある者を審問官や死神が代行者として裁く、それがこの街のルールです」

「死神って言うとお前はあの死神について詳しい様だな? 知ってる事を教えてくれ」


エルは少し考える様な素振りをし、ニヤリと嫌な笑みを浮かべた。


「いいでしょう。死神はピースの側近、この街の罪人を裁く死神です。神出鬼没にして、冷徹無比。おまけに物理も魔術も効きません」

「だがそれは闇の中、あの空間の中でだろう?」

「その通り! 死神は対象一人を相手に闇を展開し、その中で裁きを行う。その闇の中では無敵です。ですが一転、闇の外ではあの死神は実態になる」

「だからお前の攻撃が効いたんだな」

「でもどうして一人を対象だと断定できるのでありますか?」

「それは私が検証しました。死神が展開した闇の中に飛び込んだり、中にいる人を助けたり助けなかったり。死神に攻撃したり、その場から逃げ出したり。それにこの場所にこんなに人がいるのが、死神が同時に一人までしか裁けない事の証明です」

「なるほど、確かに一理あるでありますね」


ナナは周囲をキョロキョロと見回す。

物陰や瓦礫の隙間から人々が、俺達の様子を隠れ見ている。


「死神から闇を奪う方法は二つ、一つは死神が裁きを終えた時。もう一つは対象者が闇の外に引っ張り出された時です」

「それも検証済みでありますか?」

「えぇ。だからここでは基本的に、二人一組で皆暮らしています。一人ぼっちだと、さっきの男の様に簡単に裁かれてしまいます」

「そうか・・・」


地上で見た時、あの男は一人だけだった。だからここに落とされても、誰とも組めずに死神の手によって裁かれたのだろう。


「それで、ここから出る方法はあるんでありますか?」

「そんな方法・・・あります!」


エルは楽しげに言い放つ。


「ここから少し行った先に地上への階段があります、それを登れば恐らく地上に戻れます」

「ならそこから登ればいいじゃないか」

「それがそう上手くいかないんですよねぇ・・・」


エルはそう言いながら、ポリポリと頬をかいた。

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