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第60話

「サクラ! ナナ!」


暗い穴の中を落下していく。

俺は意識のない二人を掴み、自分のそばに引き寄せる。

下方には薄暗いが、スラムの様な街が見える。


「【反転】!」


俺はタイミングを見計らい、地面に激突する寸前に反転を使う。

俺は地面に着地し、サクラとナナの容態を確認する。


「サクラ・・・!」


サクラに意識は無く、出血が酷い。素人目から見ても命の危機だ。


「ナナ・・・!」


ナナの顔色はどんどんと悪くなり、腕が変色し始めている。腕に刺さったナイフを抜き取り毒を吸い出す。だがナナの体に入った毒は、対処のしようがない程悪化していた。


「クソ・・・!」


上を見上げる。

俺達が落ちてきた穴はすっかり閉じており、無限にも思える暗闇だけが広がっていた。

俺はサクラとナナを担ぎ、出口を探して歩き始める。


「なんなんだ、ここは?」


俺がガラクタで作られた建物の間を通る度、誰かの視線を感じる。

ガラクタの隙間やゴミの物陰から、薄汚い格好をした人達が俺達の事を見つめている。服装は俺達が着ている白い服に見えるが、汚れたり破れたりしてボロ布のようになっていた。

人々はやせ細り、まるで獲物が死ぬのを待つ蝿の様な視線で俺達を追ってくる。


「嫌な場所だぜ」

「お、おぇぇぇ」


ナナが俺の肩で吐く。ナナの体調はどんどん悪くなっているのか、顔が苦悶に歪んでいる。


「ナナ、大丈夫か?」

「・・・」


ナナの返事はない。

今の俺に毒を治す手段はない。サクラの傷を手当する手段も持たない。

俺は無力だ、何も出来ない。


「クソッ! リーリャン・・・!」


リーリャンは俺の手を掴まなかった。地上なら、あの上にある街ならきっと医療機関もあるはずだ。毒の解毒も傷の治療も出来る。

こんな事にもならなかったはずだ。


「有罪、だ」


声が響く。俺は顔を上げると、そこには黒い人影が背を向けて立っていた。

その人影の側には、見覚えのある男が倒れていた。地上で今日、審問官達に連れて行かれた男だった。その顔は恐怖に歪み、白目を剥いて死んでいた。

そして、その男の前に立つ黒い人影がゆっくりと振り向いた。


「次の、審判だ」


その黒い人影には、真っ赤な二つの目が輝いていた。


「死神!」

審判ジャッジ


死神の目が見開かれる。その瞬間、俺の心臓が止まった。

胸に鋭い痛みと、喉に何かがつっかえるような苦しみが広がる。

死神はゆっくりと歩み寄り、俺達の方に迫ってくる。


「っ! がぁっ! 【反転】!」


俺は自分の胸に手を当て反転を使う。対象は自分の心臓。まるでAEDの様に反転を使い、自分の心臓を動かした。

俺の思惑通り心臓は鼓動を再開するが、足に力が入らない。


「審判の、時だ」

「何?」

「お前達は、罪を犯した」

「罪・・・?」


死神は足を止めず、どんどんと俺達との距離を詰める。俺は二人を担ぎ直し、死神に背を向け距離を取ろうとする。

しかし、俺の目の前には巨大な闇の壁が立ちはだかっていた。


「なっ!」

「審判から、逃れる事は出来ない」


俺は闇の壁に体当たりをする。闇の壁は俺を包み込み、優しく跳ね返す。

俺の視界の端に、死神の腕が見える。闇に包まれた様な細い腕が、サクラに向かって伸びている。


「触るな!」


俺は死神の腕からサクラを庇うように逃げる。

死神はゆったりとした動きで腕を引っ込め、俺達の方に方向転換しまた近付いてくる。


「このっ!」


俺は地面に落ちていた石を蹴り上げ、死神にぶつける。しかし石は死神の体を通り抜け、地面に落ちる。


「こっちです!」


声が響く。闇の壁の向こう側から腕が突き出て、俺に向かって差し伸べられる。


「死神は一人だけを付け狙います! 先に二人をこっちに!」

「・・・っ!」


俺は迫る死神を見る。死神はゆっくりと腕を伸ばしてくる。

俺は咄嗟に二人をその腕に渡し、転がって死神の腕を避ける。

腕は二人をしっかりと掴み、闇の向こう側に引っ張り出した。


「次はあなたです!」


また腕が差し伸べられる。俺がその腕を掴むと、一気に闇の外に引っ張り出される。

振り返ると、闇が晴れ壁が無くなっていた。しかし黒い靄を纏った死神は今だに宝石の様な赤い瞳をぎらつかせ、俺の方をじっと見つめていた。


「スクラップ×(かける)弓矢、名付けて鉄屑流星砲!」


突然細かな鉄屑がいくつも放たれ、死神の体に直撃する。今度は通り抜ける事はなく、鉄屑は死神の体に突き刺さった。


「審、判・・・」


死神はゆっくりと後ずさり、血を流しながら闇の中に溶け込むように消えてしまった。


「死神は闇の外なら実態があります、そこを狙うんですよ」

「助かったよ、ありが・・・」


俺は助けてくれた人物に向き直る。

そして言葉を詰まらせた。


「いえいえ、貴重なギフターを失う訳にはいきませんから」

「テメェは! 《《エル》》!」


そこには、ネゴシエーターのエルがいた。

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