第58話
俺達は街の奥へと進み、神殿へと辿り着いた。
現代風の建物とはうってかわり、まるで神話時代に取り残されていた様な立派な神殿が姿を現した。
周りのビル群には負けず劣らずの大きさを誇る割に、神殿の近くに人気は一切なかった。
「それでは中に入りましょうか」
「勝手に入っていいのでありますか?」
「立ち入りを制限されている場所は分かりやすいので、大丈夫と聞いています」
「聞いています? 随分とあやふやだな」
「僕もこの神殿には入った事がありませんから」
少し不安そうな声を上げつつ、ホバは神殿の中に入っていく。
入口に扉などはないが、立ち並ぶ巨大な二本の柱によって道が出来ている。一歩踏み入れるだけで、まるで別世界に足を踏み入れたような気分だ。
「三人の管理者に許可を貰うと、やっとピースへの謁見が許されます」
「三人もいるのか? めんどくさいなぁ」
「管理者って、何を管理しているんだ?」
「それぞれ人、建物、物品を管理していると聞きます」
「大雑把でありますね」
ふと後ろを振り返る。
神殿の入口、そこに黒い影がいた。真っ赤な二つの目が、俺をじっと見つめている。昨日よりかは距離も近く、俺は途端に動けなくなる。
「ま、みん、な」
声が掠れる。正常に発声が出来ない。
俺を気にする事なくみんなは先に行ってしまう。俺だけ取り残されてしまう。
黒い影が神殿に入ってくる。ゆっくりと俺と距離を詰めようとする。
「おい」
「っ!」
突然肩を叩かれる。振り向くと、不思議そうな顔をしたサクラがいた。
「どうした? お前様」
「・・・何かに着けられている、昨日からずっと」
「ほんとか? 何が着いてきているんだ?」
「黒い影だ、赤い目の・・・」
俺が視線を向けると、黒い影はもういなかった。
俺は自分の頬を引き攣らせるのを感じながら、サクラの方に振り返る。
「本当にいたんだ、あそこに!」
「待てお前様、我はお前様を疑ったりはしない。その言葉も信じる、大丈夫だ」
サクラの宥めるような声色に、恐怖で凍りついた心が溶かされる。サクラは俺を抱きしめ、背中を何度か優しく叩く。
「ありがとう・・・」
「大丈夫だ、そいつは我が何とかしてやる。みんなに追い付くぞ」
サクラは俺の手を引き、神殿の奥に向かう。少し行ったところに、ホバとナナが待っていてくれた。
「大丈夫でありますか?」
「追手がいるらしい、黒い影に赤い目だ」
「赤い目・・・?」
「何か知っているのか?」
「楽園魔王ピースの側近は、赤い目だと聞いています。もしかしたら・・・」
「そうか。ホバ、目的地変更だ」
サクラは拳を叩き合わせ、意気揚々と前に進み出る。
「攻撃の意思があるなら話は別だ、直接ピースの所に行くぞ。我の伴侶を脅威に晒した罰を与えてやる!」
「そうですね、どういうつもりなのか意図を聞き出すべきですね」
「力ずくって訳でありますね! 腕がなるであります!」
「みんな・・・」
サクラは俺に笑いかけ、周囲の臭いを嗅ぎ分ける。
ナナはアホ毛を弄り、周囲の索敵を始める。
ホバはレイピアを取り出し、先頭を切って歩き出す。
「先程言った立ち入り禁止の場所、この神殿の最奥にピースはいます」
「ならここを真っ直ぐだな!」
「さっさと行くでありますよ!」
俺達は歩を早め、神殿をどんどんと進む。二本の柱を何度も抜けて、俺達は巨大な扉の前に辿り着いた。
「ここか?」
「その様ですね」
「たのもーであります!」
ナナが扉を押し開ける。神殿の柱と同じくらい巨大な扉が、ゆっくりと開かれる。
そこは巨大な空間で、奥には祭壇のような階段と巨大な玉座が置かれていた。
玉座には神殿の奥から差し込む光によって逆光になり、誰かが座っているが姿が見えない。
「おい! お前が楽園魔王ピースだな!」
「ここは僕が。初めまして、僕は風神魔王フォームの側近。ホバと申します」
ホバは深々とお辞儀をして、玉座に座るピースを見上げる。
「この度は手続きを飛ばし謁見した無礼をお許しください」
「・・・」
「今日は交渉にやって来ました、災厄の魔王に対抗するべく力を貸していただきたいのです」
「それと我の伴侶にちょっかいかけるお前の側近を何とかしろ!」
「ふむ」
ピースが声を発する。
その声を聞いた瞬間、サクラの耳がピンと立ち上がった。
「お前は・・・?」
「話くらいは聞いてやろう、《《フェンリル》》」
ピースは玉座から立ち上がり、階段を降りてくる。そこには髪の長い美女が立っていた。
「・・・《《バイオレット》》!」
「大きい声を出すな、《《フェンリル》》」
「知り合いか?」
「勇者バイオレット、過去に我と共に世界を旅して魔王を狩った友。そして、我を封印した張本人だ!」




