第57話
「リーリャン遅いなぁ〜」
サクラがぼやく。
俺はハッと我に帰り、周囲を見渡す。だが誰も俺を見ておらず、俺は額の汗を拭う。
「そうですね、先に神殿に向かいましょうか」
「じゃあナナはエントランスの人に伝言を頼んでくるであります!」
ナナは席を立ち、エントランスに向かう。俺はサクラが平らげた料理の皿を返却口に返そうとする。
「あぁお客様! 私達が片付けますのに!」
「いや、せめて自分達が食べた分はと思って・・・」
「私達にお任せ下さい! それが喜びなのです!」
ウエイトレスは俺から皿を受け取り、テーブルに残っていた皿も自分で片付けてしまった。
「お前様。やってくれると言ってるんだ、任せるべきだろう?」
「いや、まぁそうだけど・・・」
「先を急ぐ身です、ここは任せましょう」
ホバに急かされ俺達はエントランスに向かう、ナナと合流しホテルを出る。
外は快晴で、太陽の光を白い建物が反射していつもより眩しく感じる。
「神殿って言うのはどこにあるんだ?」
「ユートピアの最奥、僕達が入ってきた入口とは逆方向ですね」
「つまりあっちだな! 行くぞー!」
美味しい食事を食べて上機嫌なサクラを先頭に、俺達は街の中を歩く。
街ゆく人々は俺達と同じ様な白い服を着て、往来を歩いている。ナナの様に剣や武器を持った者はおらず、俺達の異様さが浮かび上がる。
「みんな白い服を着ているでありますね」
「この街のルールの様なものですね。白は潔白の証、罪なき者の理想郷を掲げるこの街の精神です」
「罪なき者の理想郷?」
「それがこの街の存在理念だそうですよ」
「見ろ! 馬まで白いぞ!」
十字路に差し掛かると、サクラは横の道路を指さした。
「まずい! 道の端に寄ってください!」
「なんだなんだ!」
ホバの言う通り、俺達は道の端に寄る。白い馬に乗った集団が十字路の中央で立ち止まり、馬車から人が降りてくる。
その集団は全員が灰色の装束で顔までを覆い、手には剣を持った者達だった。
「なんだアイツらは」
「普段は地下にいるはずの審問官です、滅多に出てこないはずなのに・・・」
「こっち来るでありますよ」
審問官達は俺達の方に歩いてくる。街の住人達はその様子を遠巻きに見守るばかり、声の一つも上げていない。誰も身動きをしていない。完全に止まった空間の中を、審問官達だけが動いていた。
「・・・」
「・・・」
ナナがゆっくりと大剣に手を伸ばす。
サクラも服の下で拳を固め、審問官達との距離を測りだす。俺は視線で二人を諌め、審問官達の様子を見守る。何故だか、こちらには来ないという確信があったからだ。
「審問である」
「審問である」
審問官達は俺達の目の前を通過し、俺達と同じ様に道の端に寄っていた男の集団の前に立つ。
ブツブツと念仏の様に同じ言葉を唱え、男達をあっという間に取り囲んだ。
「な、なんだよお前ら!」
「やっちまうぞコラ!」
「審問である。貴様らに罪の告白を促しに来た」
「審問である。罪ある者は罰される」
「審問である。その罪を告白せよ」
「まともに話も出来ねぇのか!」
男の一人が審問官の胸ぐらを掴み上げる。その瞬間、別の審問官がその男の腕を切り落とした。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「てめぇ!」
男達は隠し持っていた剣を白い服の下から取り出し、審問官達に切りかかる。
一瞬で事態は急変した。審問官達と男達が切り合い、周囲に血飛沫が飛び散る。
「大して強いってわけでもないんだな」
サクラはその様子を観察しながら、お互いの強さを比較している。
バタバタと審問官達が倒れ、男達もあと二人となってしまった。
「クソ! 何が楽園だ!」
「兄貴、逃げましょうよ!」
「こうなったら何がなんでも生き残るぞ! そこの奴らを人質にしろ!」
「む? 我か?」
残った男達はサクラに狙いを定める。
サクラは舌でペロリと唇を舐め、悪い笑みを浮かべた。
だが次の瞬間、倒れた審問官が男の足を掴んだ。
「審問である、審問である」
「なっ! 殺したはずだろ!」
倒れていた審問官達は次々と起き上がり、剣を持って男を突き刺す。男は剣に刺さったまま持ち上げられ、地面に叩き落とされた。
「兄貴ぃ!」
「審問である」
審問官達は最後に残った男に狙いを定めた。剣の先を向け、男を取り囲む。
男は剣を手放し、両手を上げて降参した。
「審問である。罪ある者を連行する」
「離せ! 罪ってなんのことだよ!」
「審問である」
審問官達は男を馬車に詰め込み、男達の死体も同じ様に馬車に投げ込んだ。
そして審問官達は同じ馬車に乗り込み、その場を去っていった。
「なぁ、アイツらはどこに連れていかれるんだ?」
「この街の地下、罪ある者がその執行を待つ場所に」
「ふーん」
サクラは興味を失ったかの様に生返事をホバに返し、足に着いた血を振り払った。
「行きましょう、あまり長居するものではないですね」
「ま、こっちに来なくて何よりでありますね」
俺達は血溜まりを避け、街の奥へと向かった。
人々は、何事も無かったかのようにすっかり日常に戻っていた。




