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第55話

結局サクラは俺の部屋から出ていかず一夜を過ごした。十分に睡眠を取れた俺は、体調がすっかり良くなっていた。


「お前様! このホテル、レストランがあるらしいぞ!」

「いいね、行ってみるか」


俺達が部屋を出ると、ちょうどリーリャンも部屋を出てきた所だった。


「おや、おはよう。よく眠れたかい?」

「リーリャン、お陰様でな」

「昨日ホバが言ってたレストランに行くぞ!」

「いいね、僕は少し外を散歩してくるよ。先に行っててくれ」

「分かった!」


サクラはリーリャンを素通りし、俺達の二つ隣の部屋をノックする。


「おいナナ! 起きろご飯を食べに行くぞ!」

「ん〜まだ眠いであります」


ナナが眠そうな顔で扉から顔を覗かせる。その隙間にサクラが指を突っ込み、扉をこじ開けてナナを引っ張り出す。


「大体お金もってないでありますよ」

「その心配はありません」


いつの間にか廊下に出てきたホバが、補足を入れる。ホバの格好は街の人々の様に白い服に着替えていた。


「全員部屋に備え付けてある服に着替えてからレストランに向かいましょう、そこでこの街の仕組みを説明しますね」

「分かった!」


サクラはナナを放り出し、少し離れた自分の部屋に飛び込む。そして数秒もしないうちに白い服に着替えて飛び出してきた。


「ナナも着替えてくるであります、先に行ってて欲しいであります」

「俺も」

「早くしろよー! お腹すいたからなー!」


サクラに急かされ、俺は部屋に戻って白い服に着替える。

白い服の着心地は今まで着た服とは全く違い、近代的な着心地だった。サイズもピッタリで、不気味な程に体にフィットしていた。

窓の外を見てみるが、昨日の黒い人影は見えない。人影に見えそうな物体も見えなかった。


「お前様〜!」

「はいはい、今行くよ」


俺が部屋から出ると、みんな白い服に着替えていた。サクラが俺の腕を引っ張り、階段の方に歩いていく。


「レストランは下の階だって! 合ってるよなホバ!」

「えぇ、この街の料理はどれも美味しいですよ」

「楽しみだな〜!」


俺達は階段を降り、二階に行く。二階に客室はなく、壁が取り払われて広々としたレストランエリアになっていた。

俺達が席に着くと、ウエイトレスの様な風貌をした女がやって来た。


「ようこそレストランユートピアへ、こちらメニューとなっております」

「うん? 値段が書いてないでありますね?」

「当レストランのお食事は全て無料となっております」

「無料!? ただ!? 全部くれ!」

「かしこまりました!」


ウエイトレスの女性は深々とお辞儀をして、足早に厨房に向かっていった。


「この街では全て無料なのです」

「全て? もしかしてこのホテルの宿泊費もか?」

「えぇ、食事娯楽宿代移動費何もかも無料です」

「どうしてそんな事になっているんだ?」

「それは・・・僕にも分かりません。この街には一度来ただけで、深く知っている訳ではありません」

「人当たりも良くっていい街だな!」

「えぇ、僕もこの街は好きです」


すぐにウエイトレスは食事を持ってきて、テーブルの上に置き場がないくらいに置いていった。


「うおー! 見た事もない料理が山ほどあるぞ!」

「どれもこれも美味しそうでありますね〜! 匂いも食欲をそそるであります!」

「早速食べましょうか」


俺はみんなが食事に手を付け始める中、一人その様子をじっと見ていた。

みんな見た事のない食事だと言っているが、俺にはどれも見覚えがあった。《《あっちの世界》》で見た食事によく似ている。

陶器の食器、銀のカトラリー、この世界では貴重な調味料や更新料がふんだんに使われた料理。本当にホテルに備え付けられたレストランで出てくるような食事だ。


「どうした? 食わないのかお前様?」

「いや、食べるよ」


俺はパンを掴み、バターを塗る。この世界ではあまりみないふわふわとしたパンに、バターが染み込む。口に運ぶと簡単にちぎれ、口の中に小麦の味が広がる。


「美味しい」

「だよな! こんな食事が無料だとか太っ腹だな! ここは本当に楽園だな!」

「・・・あぁ」


俺は言いようの無い不気味さと懐かしさに襲われながら、みんなと一緒に食事を取った。


「そうだホバ、この街に来たがどうやってそのピースに話をつけに行くんだ?」

「ピースはこのユートピアの最奥にある神殿にいます、そこに話をつけにいきます」

「そんなすぐに会えるものなんでありますか?」

「いや、会えないだろう。謁見する為にはいくつか手続きをする必要がある、それは僕がやりましょう。数日は必要ですね」

「ん? 我らは必要じゃないんじゃないか?」

「いえ、不測の事態が起きた時の為に戦力は必要です」


ホバはそう言いながら口元を拭う。空いた皿をウエイトレスが片付ける。その動作は洗練されていて、この道何十年のプロの動作に見えた。


「この街は・・・なんなんだ」

「どうした?」

「俺には不気味な物に見えて仕方ない、どれもこれも完璧すぎる」

「完璧なのはいい事じゃないか?」

「いや、模倣だ。完璧な模倣に見える」


サクラは首を傾げる。しかしナナは何かを察したのか、周囲の様子をキョロキョロと伺う。


「何か見覚えがあるんでありますか?」

「そんなはずは無い。僕は世界中を回っているが、こんな景色は他では見た事がない」

「何だか説明しにくいんだが、例えるなら創作の世界みたいな。この世界ではない別の世界の景色に見えるんだ」

「なるほど、僕は文化や人の作った文献なんかには興味を持っていない。そういう話ならありえるかもしれないですね」

「とにかく気を付けた方がいい、ここは思っているよりユートピアじゃないかもしれない」


俺がそう言い切ると、背筋に寒気が走る。

また何かに見られているような気がする。

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