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第54話

一瞬で景色が切り替わる。

いや、三度目ともなると慣れたもので実際には違う事が分かる。風になった俺達が、風に運ばれ長い距離を一瞬で移動しているだけだった。

目の前には巨大な純白の門。城壁は高く地平線の向こうまで伸びているように思える。

その城壁はまるで陽炎の様にぼやけていて、しかしながら向こう側が透けて見えることはなかった。


「ここがユートピアです」


ホバが着地し、そう言った。

門は固く閉ざされて、門番の姿なんてどこにも見えない。


「入りましょうか」

「門番がいないが?」

「大丈夫、入れます」


ホバはそう言って、門を通り抜ける。門なんて物が存在しないように、するりと。

俺達も後に続いて門を抜ける。何の抵抗もなく門を通り抜けると、そこには近未来の様な都市が広がっていた。

この世界に似つかわしくないビルが立ち並び、遠くにはモノレールの様な物も見える。道は舗装され、街ゆく人々はみんな綺麗な服装をしている。そして何より、どれもこれも純白に染められていた。


「白い・・・目が痛くなる」

「ここはそういう場所です、慣れてください」

「あれなんでありますか!? この高い建物何でありますか!?」

「あれは移動手段です。この建物はフロアごとに分かれていて、人の居住区や飲食店などが詰め込まれています」

「信じられない・・・こんな場所があるなんて」

「伝説の都に相応しい様相ですよね」


俺は見慣れた都市の様子にこの世界とのアンバランスさを感じ、突然の目眩に襲われる。


「お前様!」

「大丈夫、ふらついただけだ」

「今日はもう休みましょうか、すぐそこの建物がホテルです」


俺はサクラに支えられながら、ホバの案内で近くのビルに入る。ビルの中はまるでホテルのエントランスの様に華やかで、すぐにホテルマンの様な服装をした男が走りよってくる。


「ようこそ、ホテルユートピアへ。お泊まりですか?」

「えぇ、部屋を人数分お願いします」

「かしこまり・・・体調が優れないのですか? 優先してお部屋をご用意致します!」


ホテルマンの男は大急ぎで受付の向こうに行き、部屋の鍵を掴んで俺の傍に走ってきた。


「肩を貸します、移動距離が少ない様に三階のお部屋に案内いたします」

「我が運ぶ、案内だけせよ」

「かしこまりました、こちらへどうぞ」


サクラに支えられながらホテルマンについて行く。ホテルマンは巨大な螺旋階段を登り、振り返って俺達の様子を見る。

サクラは俺を抱き抱え、階段をスルスルと登っていく。


「エレベーターとかないのか?」

「えれ・・・? 申し訳ありません、存じ上げません」

「あぁ、何でもない」


俺はそろそろ目眩が限界に達し、目を瞑ってサクラの心音に耳を澄ませる。

サクラは俺を部屋に運び込み、ベッドに静かに寝かせてくれた。


「お連れ様のお部屋も同じフロアにご用意致しますね、少々お待ちください」

「うむ、ご苦労」


ホテルマンは深々と頭を下げ、部屋の外に出て行った。

部屋の中は近代的で、綺麗なベッドや小さなキッチンなどが備えられていた。


「うぉー! 部屋の中に風呂があるであります!!!」

「声が大きい! 気分の悪い人がいるんだから静かにしたまえ」


部屋の中を散策するナナに、リーリャンが釘を刺す。

一人用の部屋にしては広く、ベッドも二つ用意されている。ホバは慣れた様子で棚からポッドを取り出し、湯を沸かし始める。


「今お茶を入れますね、みなさんはゆっくり寛いでいてください」


俺は湯を沸かす音を聴きながら、また瞼を閉じた。

______________________

目を覚ますと、隣にサクラが眠っていた。

部屋の中には他に誰もおらず、テーブルの上にはまだ湯気の立つカップが二つ置かれていた。

部屋の外からは月光が差し込み、向かいのビルの表面に反射していた。


「むにゃ・・・お前様・・・」


サクラは寝言を言いながら、俺から布団を奪っていく。俺はベッドから抜け出し、窓のそばに行く。


(まるで《《あっちの世界》》だ、この世界の文明レベルでこんな建築が可能なのか?)


夜にも関わらず明かりの灯る摩天楼を眺めながら、俺はボーッと思考を巡らせる。

その時、ビルの上に人影を見つける。


「ん?」


黒い人影、ただ真っ赤な二つの目が俺をじっと見つめていた。距離は遠く顔は認識出来ない程の距離だが、確実に相手は俺の事を認識していた。

見られている。


「っ!」


俺は思わずカーテンを閉める。

心臓が早鐘を鳴らし、汗が吹き出てくる。

俺は知っている、この感覚を。トラウマにも似たこの感覚の名前は、恐怖だ。

俺は何か分からない人影を見て、恐怖を覚えてしまった。脳にこびり付いたようなあの真っ赤な目が、瞬きの度に俺の目の中に浮かび上がってくる。


「お前様? どうした?」

「サクラ・・・いや、なんでもない」


サクラが目を擦りながら体を起こす。俺はそばに置いてあったカップを手に取り、中のお茶を一気に飲み干した。

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