第53話
あれからまた一夜が過ぎた。
俺達は出発の準備を済ませ、早朝城の門の前に揃っていた。
「もう行くのか?」
「はい父様! ナナは魔王を打ち倒す旅を続けるであります!」
「そうか・・・魔王を打ち倒すと言うことは、いつかそこの魔王も倒すのか?」
「う〜ん・・・正直倒せるか分からないので、チャンスがあればやるであります!」
「お、言うなナナ〜? 今ここでやっても我はいいんだぞ?」
俺は浮き足立つサクラを抑え、ベルフェゴール卿に礼をした。
「この数日泊めていただいてありがとうございます。それと、通行許可証も」
「良いんだ、こちらこそありがとう。おかげで娘と少しだけ分かり合えた気がするよ。そして何より、魔族が間違った道に行かないようにしてくれてありがとう。魔族全体に代わり礼を言う」
「準備が出来ました、みなさん円の中に入ってください」
ホバが地面に円を描き、巨大な荷物を担ぎ上げる。サクラとリーリャンが足早に入り、ナナはどうしたのかその場に留まる。
「ナナ、心配ならここにいてもいいんだぞ」
「・・・いや、父様は大丈夫であります。ナナの父様でありますからね!」
「あぁ、大丈夫だ。行っておいで」
「はい! 行ってきますであります!」
ナナは大きく手を振り、円の中に飛び込んだ。
俺も荷物を持ち、円の中に足を踏み入れる。
「飛ばしますよ」
ホバの声が聞こえると同時に、景色が一瞬で切り替わる。
目の前にはデビルシティもベルフェゴール卿も城も無く、ただ灰色の砂漠だけが広がっていた。
「ここは?」
「よっと、ここは中継地点です。ここで魔力を回復させてから、次で目的地まで向かいます」
「そう言えば次の目的地を聞いていなかったな、どこに行くんだい?」
リーリャンの質問にホバは椅子を広げながら答える。
「次の目的地は人間の領域と魔族の領域の狭間の延長線上、世界の果てに鎮座する最後の楽園。《《ユートピア》》です」
「ゆーとぴあ?」
「聞いた事がある。どこにも居場所の無い者を誰彼構わず受け入れる、夢の都。そこではどんな種族も平等な権利を得て、正しい秩序の元平穏に暮らす都市があるって。でも伝説のはずじゃ・・・」
「その伝説の都は存在しています。そこに向かいます」
「あるのは分かったでありますが、どうしてそこに?」
「そのユートピアを統べるのが、魔王の一角だからです」
「へ〜」
サクラは興味無さそうにその場に寝転がり、ホバの言葉を聞き流す。
「災厄の魔王に対抗する為には戦力が必要です、その為に同じ魔王の力が欲しいのです」
「どうせ大した事無いだろ? 我一人いれば十分よ」
「獣人魔王ガリュオーン、自然魔王ガルガンチュア、不死魔王ヴェール。同じ様に声を掛けようと思っていましたが、既に彼らは退治されました。だからこそ戦力は必要なのです」
「どんな魔王なんだ?」
「ユートピアを統べる魔王、その名は。《《楽園魔王ピース》》」
それを聞いたサクラ達は顔を見合せ、首を傾げた。どうやら誰も聞いたことがないらしい。
「そもそもユートピア自体が伝説の都なのに、そこに支配者なんているんですか?」
「僕はピースに会った事があります。と言うかほぼ全ての魔王と面識があります」
「ほぼって事はボーティガンとは面識がないんでありますね」
「まぁ・・・そうです。痛いところを突きますね」
「どうでもいいだろ。とりあえずそのピース?とか言うやつをボコって言う事聞かせりゃいいんだ。我に任せろ!」
「いえ、不本意ですがあのネゴシエーターと同じ事をします」
ネゴシエーター、エルの事だ。
ホバは本当に悔しそうな顔をしながら、ため息をつく。
「災厄の魔王は世界を滅ぼす、その脅威はきっとユートピアにも及ぶでしょう。それを逆手に取り、戦力としての参加を促します」
「アイツと一緒って訳じゃないであります。しょうがなく、しょうがなく人質に取るだけであります」
「人質って・・・一応君の家が酷い目にあったって言うのに、随分と軽く言うじゃないか」
「やられた事は気に食わないけど、手段としてはよく出来た物でありますよ〜」
ナナはピンピンとした様子でそう語る。リーリャンはその様子に呆れたのか、苦笑を浮かべながら首を振った。
ホバが立ち上がり、また地面に円を描き始める。
「魔力が戻った、そろそろ出発の準備をしてくれ」
「そう言えば腹が減ったな、飯にしようよ〜!」
「ダメです、僕は先を急ぎます。それに付き従うと言ったあなた達も先を急ぐものです」
「我関係ないも〜ん!」
「フェンリルの名の時代から積み重なった負債がいくらあると?」
「負債?」
「食料の調達、足の確保、宿を取ったり資金を出したり、苦戦した相手には手を貸した事もありましたよね? それに人間の言語を教えたのは誰でしたっけ?」
「う、うぐぅ」
「それにジハードさんに手を貸した際の契約にはあなたも含まれます。ナナさんリーリャンさんが離脱するならまだしも、あなた達二人は絶対参加です」
「むきー! 腹の立つヤツ!」
サクラはジタバタと腕を上下させ、地面を叩きつける。
ホバはそれを無視して円を完成させる。
「さぁ、入ってください。ユートピアに着く頃には夜になっているでしょう」
「おい! 我は納得していないからな!」
「言ってないで早く入るでありますよ主様、置いてかれるでありますよ」
ナナもリーリャンも俺も円の中に入る。
サクラはジトっとした目で俺達を見つめ、舌打ちをついて地面を蹴り上げる。
「我はホバ、お前に屈した訳じゃないぞ! 我は愛すべき伴侶、ジハード・アーサーの為に力を貸すんだからな!」
「認めてないけどな」
「いいんだそこは! ほら、入ったぞ!」
「そうですか、では飛ばします」
ホバがしゃがみこみ、また円に触れた。




