第50話
「リーリャン、ベルフェゴール卿を頼む! サクラはナナを抑えててくれ!」
「はぁ!? 僕一人で相手しろって!?」
「分かったが、お前様はどうするんだ!」
「俺は少し捜し物だ!」
俺は二人に背を向け、さっきエルがいた場所に這い蹲る。そして地面をくまなく手探りでまさぐり始める。
「クソ! なんで僕が!」
「時間稼ぎくらいできるだろう!」
「殺しても知らないからな!」
リーリャンが炎を放ちベルフェゴール卿を火だるまにする。だがベルフェゴール卿は自分の体に着いた火を吸い込み、逆にリーリャンに向かって吐き出した。
「さぁて、こっちも始めるか。なぁ、ナナ?」
『うぐぁぁぁぁぁぁ!』
ナナの絶叫と同時に大剣が振り下ろされる。サクラは白刃取りで受け止め、蹴りを浴びせて大剣をもぎ取る。
「我もちょっと本気でやるぞ!」
『がぁぁぁぁぁぁ!』
四人がそれぞれ戦う音を聴きながら、俺はひたすら地面を触り続ける。
エルはこの軌道で飛んでいって、壁に激突した。ならその軌道上に、エルの仕掛けた爆発する床がまだ残っているはずだった。
「あった」
タイルの手触りが一枚だけ違う。きっと押し込めば爆発するのだろう、少しだけ地面から浮いていた。ナナが踏まなかったタイル、それに向かって手のひらをくっ付ける。
「何をしているのですか?」
「ホバ、大丈夫か?」
「えぇ、これくらいではビクともしません」
ホバは俺の隣に立ち、俺の行動を不思議そうに見つめる。
「エルのギフトは【融合合体】、触れたものをくっ付ける能力だって言ってました。俺と似ているなって感じたのが一つ目」
「一つ目?」
「二つ目は俺のギフトにはまだ隠された力がある。そう言ったのはエルだけど、まだその時は敵対していなかったから信じられる言葉だ。これが二つ目」
俺は手のひらの先、触れているタイルに集中を向ける。
「そして三つ目。ギフトと言う形の無いものを目の前でナナに【融合合体】させた」
「なるほど」
「俺にも同じ力があると考える! 俺にも見えないものを《《反転》》させる力が!」
タイルが光り輝き、黒い粉が分離する。
火薬が融合合体したタイルから反転して、分離したのだ。
「よし! 方法はある! ホバも手伝ってくれ、ナナを抑えるには戦力が足りない!」
「それは出来ません」
「どうして?!」
ホバは佇まいを直し、レイピアを取り出した。
「僕は我が王の命にのみ従います」
「じゃあどうしてサクラの頼みでここまで送ってくれたんだよ!」
「我が王の命は《《災厄の魔王を打ち倒す》》事、その為の戦力確保の為の根回しです」
「・・・なら、俺達もその戦力に入れてくれて構わない」
「ほう」
「俺達をその災厄の魔王との戦いで自由に使ってくれて構わない、その代わり俺達に力を貸してくれ!」
ホバはその場に立ち尽くし、目を瞑って黙り込む。
俺は恐る恐るその様子を伺うが、次の瞬間ホバはカッと目を見開いた。
『カカッ! いい心意気だ、戦力としては心許ないがな!』
「口調が変わった?」
『俺様は風神魔王フォーム! 始まりの七大魔王の最後の一人!』
「風神魔王・・・!」
『さっきの言葉、嘘偽りはないな?』
「あぁ、仲間のためなら俺は過酷な戦いにも身を投じれる」
『カカカッ! いいだろう、力を貸してやれホバ!』
「かしこまりました、我が王」
フォームの首がカクンと項垂れ、次の瞬間元のホバに戻る。
ホバはレイピアを持ちながら、激戦を繰り広げる四人の方に向かっていく。
「サクラ、リーリャン! ナナを元に戻す方法が分かったかもしれない!」
「遅い! 僕はもう十回は死んだぞ!」
「そう言うなリーリャン! それで我らは何をすればいい!」
「ナナの動きを抑えてくれ! 一分でいい!」
「了解!」
サクラは走り出すと同時に狼の姿に変身し、ナナに向かって飛びかかる。
空中で身を捩り、四本足で同時に蹴りを繰り出す。それはまるでドロップキックのようだった。
『ぐぉっ』
言葉をあげる暇すらなくナナは吹き飛び、壁に激突する。サクラは一瞬の隙すら作り出さないように、一瞬でナナとの距離を詰め人型に戻る。
「そぉれっ!」
サクラの拳が地面を掠り、ナナの顎を貫いて天高く打ち上げられる。
ナナの首はまるでもげたかのように跳ね上がり、バネの様に戻りその場に倒れた。
「うっひょう! 首をもぐ勢いで殴ったのにやっぱり取れない! すごい硬さだ!」
「サクラは後で説教だ! リーリャン!」
「分かってる!」
リーリャンは自分の体を炎の縄にして、ベルフェゴール卿を縛り上げる。
ベルフェゴール卿は力任せにリーリャンを引きちぎりながら、ゆっくりとこちらに向かってきている。
「それで、どうするんだお前様」
「ナナに植え付けられたギフト【暴走】を【反転】させる!」
「そんな事出来るのか?」
「やれる! いや、絶対にやる!」
俺がナナの傍に膝を着き、ナナの体に手を当てる。ナナの体温は人肌ではないほどに熱く、血管が見て取れるほど脈動していた。人体に無理が掛かっている状態なのが、一目瞭然だった。
「ナナ! 今から元に戻す、少しだけ耐えてくれ!」
「お前様!」
俺の声に反応するかのように、ナナが目を覚ます。それと同時に、俺の顔を抉り取ろうと腕を振り抜く。
サクラが俺を押し退け俺は無事だったが、サクラの腕が折れていた。
「構わん! 押さえつける!」
「僕は腕を抑えます」
俺はナナにもう一度近寄り、顔に手を押し当てる。ナナは歯を剥き出しにして、俺の腕を食いちぎろうとする。だがサクラがナナの首を地面に押さえつける。
「早くしろ、長くはもたん!」
「分かってる!」
『ナナ! ナナに何をする!』
「ベルフェゴール卿、元に戻します! 俺が絶対に!」
『そんなに苦しんでいるのにか! 大丈夫だ、パパが助けに行ってやる!』
「いつまで過保護やってるんだ! いい加減にしろ!」
俺が怒鳴りつけると、ベルフェゴール卿はピタリと動きを止めた。
俺はチャンスとばかりに、押し当てた手のひらでナナの内面を探る。さっきのように簡単にはいかないです、それでもやるしかなかった。
『がぁぁぁぁぁぁ!』
ナナの足が、俺の頭目掛けて振り上げられる。関節の可動域を無視した蹴りは誰にも止められず、俺の頭を性格に狙い打つ。
『やらせるか!』
「ベルフェゴール卿!」
その足を止めたのは他でもない、ベルフェゴール卿だった。
『私は・・・過保護になりたかった訳じゃない。自分の娘を守りたい一心だったんだ』
「それが行き過ぎた、その結果ナナに嫌われてしまった」
『あぁ、そうだ。だがここで君達の足を引っ張り死んでしまうような事があれば、私は娘から更に嫌われてしまう! それだけはあってなるものか!』
「じゃあそのまま抑えててください!」
俺はナナの内面を探り、一つの異物を見つける。目には見えないが、確かに手の先に触れていた。
「【反転】!」
さっきと同じようにナナが光り輝き、目を瞑る。激しく暴れていたナナの体は落ち着き、その場に力なく萎れた。
「へへ、やりましたでありますな!」
ナナは笑いながら、俺にそう微笑みかけた。




