第49話
「ナナ!」
『ぐぉぉぉぉぉぉ!』
ナナが正気を失ったかの様に叫び声をあげる。大剣を構え黒い角の生えたナナの姿は、まさしく悪魔そのものだった。
「Lめ、逃げましたね」
静かにそう呟いたホバの体を、大剣が薙ぎ払った。ホバは壁にぶつかり、ピクリとも動かなくなった。
「ナナ! 何してるんだ!」
『ふぐぅぅぅぅぅぅ!』
ナナは苦しそうな息を漏らしながら、俺達を睨みつける。
その目にいつもの煌めきは宿っていたが、同時に殺意を宿していた。
「お前様、もうナナに正気はない! 我らの脅威だ!」
「でも!」
俺が一瞬視線をサクラに写した瞬間、サクラの姿が消えた。
いや、消えたのはサクラではない。
「ぐはっ!?」
「お前様!」
俺がサクラに殴られて吹き飛ばされた。
壁に叩き付けられる瞬間、反転を使い勢いを殺す。
「貴様ぁ!」
サクラがナナに距離を詰め、拳を叩きつけようとする。だがナナは気にする素振りすら見せず、片手でサクラの打撃を受け止めた。
「なっ!」
『ふぅぅぅ!』
ナナは大きく息を吐きながら、大剣を振り上げる。サクラは離れようとするが、拳をナナに掴まれ身動きが取れなかった。
「【フレイムインパクト】!」
『ぐぅっ!』
リーリャンが炎を放ち、サクラとナナを焼き尽くす。サクラは炎の中から飛び出し、地面を転がって体に付いた炎を消す。
「馬鹿! 我も焼け死ぬぞ!」
「魔王がこんな事で死ぬもんか! 助けてやったんだから多少は我慢しろ!」
「来るぞ!」
ナナは大剣を構え、その切先をリーリャンに向けた。次の瞬間、リーリャンの体は真っ二つに切り裂かれた。
何が起きたのか理解が及ばなかったが、ナナがリーリャンを通り越し壁に激突した音だけが響いていた。
「復活しろ!」
「あぁクソ! 僕はいつもこんな役回りだ!」
リーリャンは炎を纏い体を再生させる。ナナは瓦礫に埋もれながらも、大剣で壁を切り裂き脱出する。
「どうやら力の制御が出来ていないようだな、そこだけは幸いと言えよう」
ナナが大剣を担ぎ上げ、サクラに向かって斬撃を飛ばす。サクラは爪を出し、飛ぶ斬撃を片っ端から打ち消していく。
「ハハハハハ! 甘い甘い!」
『ぐぉぉぉぉぉぉ!』
ナナは斬撃を飛ばすのが無意味だと悟ったのか、動きを止め咆哮を上げた。
それと同時に飛び上がり、サクラ目掛けて落下する。
「へっ、ヤケになったら負けよ!」
「サクラ避けろ!」
俺はナナの構えに見覚えがあった。ガルガンチュアを両断した時と同じ様に、大剣を構えていた。
俺の掛け声と共にサクラがナナの一撃を避ける。それと同時に地面にナナが激突するが、逆に地面が粉々に粉砕された。
「ナナ・・・!」
そんなナナに向かってベルフェゴール卿が駆け寄ろうとする。俺は腕を引っ張りベルフェゴール卿をその場に留める。
「危険です! 今のナナはマトモじゃない!」
「マトモでなくとも私の娘だ! 離せ!」
ベルフェゴール卿は俺の手を振り払い、ナナに向かって走り出す。
ナナはゆっくりと大剣を地面から引き抜き、ベルフェゴール卿の方に目を向けた。
「ナナ! パパの為にどうか元に戻ってくれ! 悪魔の力なんかに負けるんじゃない!」
『ぱ・・・ぱ・・・?』
「喋った!」
「まさか親子の絆がナナを正気に戻すのか!?」
ナナがゆっくりとベルフェゴール卿に向かって歩み寄る。ベルフェゴール卿も大きく腕を広げ、ナナを受け入れる体制を取る。
「パパが全て受け入れる。ナナがどうなろうと、パパだけはナナの味方だ」
『あ、う、うぅ!』
ナナは苦しそうな声を上げながら、更にベルフェゴール卿に近寄る。大剣を握ったまま、ナナはベルフェゴール卿の一歩前にまで歩み寄る。
『どの口が・・・』
「うん?」
『母様を殺したどの口が言ってるんでありますか!』
ナナは大剣をベルフェゴール卿の腹に突き刺し、ベルフェゴール卿はその場に膝を着く。
「ど、どうして・・・」
『どうしてもクソもある訳ないであります! ナナは父様の事が大嫌いであります!』
「ナナ! 正気に戻ったのか!?」
『一時的に制御を奪っているだけであります! すぐにまた悪魔の力に奪われるであります!』
ナナは必死の形相をしながら、ベルフェゴール卿に大剣をぐりぐりと捻じる。
「どうすれば元のナナに戻る?」
『ナナはもう分かっているであります。もう元には戻らない事を』
「・・・そうか」
サクラはため息混じりに返事をする。
『どうかナナを、殺して欲しいであります』
「殺せる訳ないだろう! どうにかして方法を!」
『甘えるな! 悪魔の力に結び付いた【暴走】のギフトは自分でどうにか出来ないであります! みんなを殺す前に、どうかナナを・・・!』
ナナの表情が苦悶に歪む。それと同時に、ベルフェゴール卿から大剣を引き抜いた。
『殺して・・・! うがぁぁぁぁぁぁ!』
ナナは絶叫をあげる。そしてベルフェゴール卿を蹴り飛ばし大剣を担ぎあげた。
「殺す」
「えっ」
「聞いていなかったかお前様、ナナを殺す。元に戻す方法がない」
「僕も賛成だ、本人も望んでいる」
「二人とも・・・! ど、どうにかして方法が!」
俺が声をあげると同時に、目にも止まらない速さでナナが飛びかかる。大剣での一撃を、サクラとリーリャンが俺の目の前で受け止める。
「お前様がやらなくとも我とコイツでやる」
「君はベルフェゴール卿の手当でもしていてくれよ」
「・・・ダメだ」
ベルフェゴール卿が声を上げる。
「ナナは、私の大切な娘だ! 殺すと言うのなら・・・」
ベルフェゴール卿の体が黒く変色し、二本の角が額から伸びる。
『私もお前達を殺す!』
俺達の前に悪魔化したナナとベルフェゴール卿が立ち塞がる。
だが、俺の心の中には一つの引っ掛かりがあった。




