第48話
「災厄の魔王」
一度だけ聞いた名前だった。
獣人魔王ガリュオーンが死の間際、俺達に言い放った名前だ。一切何の音沙汰もなかった存在が、今ここにもう一度現れた。
「そう、災厄の魔王です。僕と我が王はその災厄の魔王に対抗するべく存在しています」
「くくく、くくくかかか! はーっはっはっはっはっ!」
エルは高らかに笑い声を上げ、自分の顔を手のひらで覆った。
そして、手のひらの隙間からホバを睨み付けた。今までとは違う、凶悪な瞳で。
「何を言い出すかと思えば! 私がボーディガン様の情報を吐くとお思いか!」
「あぁ、そう思う」
ホバは空中に小さな竜巻を作り出し、その中から一本のレイピアを取り出した。
そして流れるように、ごく自然にそうするのが当然のように、エルの足を突き刺した。
「ぐっ!?」
「吐くまで拷問します」
「ま、待て待て待て! まず災厄の魔王って何なんだ! 俺達は何も知らないんだ、教えてくれ!」
「そうですね。ではこの人の気が変わるまでお話しましょうか」
ホバはそう言いながら、今度はエルの手のひらを突き刺した。
「災厄の魔王、それはこの世を滅ぼす悪の存在。その力は天を裂き大地を割り、命という命を終わらせる存在だ。おまけに不老不死と言われている」
「そんなヤバい奴が・・・?」
「過去にも存在していた。神話の時代、大悪魔と言われていた存在だ」
「大悪魔!」
「ナナのご先祖さまとも言える存在でありますね」
過去に寝物語に聞かされた事がある。神話の時代に存在した大悪魔と、それを倒した英雄の話を。
「大悪魔は最初の七大魔王のうち六人を殺し、その後英雄と呼ばれる人間に殺された」
「不老不死の存在をどうやって?」
「それは分からない、生き残った僕と我が王はその方法を探す為に旅を続けている」
「そうだったのか・・・」
「フェ・・・サクラさんにはお話したはずですよ」
「そうだったか? どうにも曖昧でなぁ」
サクラはポリポリと頬を掻きながら、そっぽを向いた。
ホバはサクサクと片手間にエルを刺しながら、話を続ける。
「今の七大魔王の一人、《《災厄》》魔王ボーディガン。自らを《《災厄》》と名乗る危険な存在、我々はそのボーディガンに目をつけました」
「目をつけた?」
「その存在が本当に災厄の魔王なら、我々が殺さなければならない。もう二度と世界を終わらせるような存在は作らせない。企みがあるのならば潰すまで」
「なぁ! 私の事無視しないでくれるかなぁ!?」
いつの間にか穴まみれになっていたエルが声をあげる。
「死なないように穴を空けていますが、痛々しいですね」
「それ張本人が言う!? それに私の話聞こうともしてこないし!」
「ある程度痛めつけた方が情報の真実味が増しますからね」
「・・・それで、何を聞きたい?」
「ボーディガンに関する全て」
ホバがそう呟くと、エルは顔を歪めため息をついた。
「質問が大雑把す」
エルが言葉を紡ごうとした瞬間、ホバのレイピアがエルの舌を貫いた。
「全てを話してください」
「ふぇふぇんふぉふぁんふぁ、ふぇんふぉふぁふぁふぁ」
「そうか」
ホバはレイピアを引き抜き、エルの舌には小さな穴が空いていた。
「改めて話してください」
「計画は全て話した。世界を相手取って戦争を起こす、ボーディガン様が世界を支配する。それが全てだ」
エルは自分の舌を手のひらで撫で、穴の具合を確かめる。
その次の瞬間、自分の喉に腕を突っ込んだ。
「なにを!」
その時、背後に気配を感じた。
振り返ると、そこにはブラックホールが虚空に現れていた。そのブラックホールから腕が伸び、巨人の死体に触れた。
「ぬがぁ!」
エルは腕を喉に突っ込んだまま、跳ねるように飛び上がった。
そしてその勢いのまま、ベルフェゴール卿目掛けて腕を伸ばす。
「父様!」
咄嗟の事に反応したのはナナだった。
ベルフェゴール卿に伸びる腕を叩き飛ばした。
凶器の類いは何も持っていない、だが確実に悪意の籠った手のひらだった。
「掴んだ! B、撤退だ!」
「どこまで扱き使うんだL!」
エルの絶叫に呼応する様に、ビィが吹雪を発生させる。一瞬で視界が白く染まり、エルもビィも見えなくなる。
「ハハハハハ! 最後に置き土産を残していこう!」
エルの笑い声が吹雪の合間を縫って轟く。
「その巨人はギフトで狂ったただの人間、そのギフトの名は【暴走】! そのギフトを悪魔の力に【融合合体】させた!」
「ぐぁぁぁぁぁぁ!」
吹雪の中、ナナの苦しそうな絶叫が響く。
「殺し合え!」
最後にそう言い残し、エルの声は吹雪と共に消え去った。
『ぐぉぉぉぉぉぉ!』
その場に残ったのは、二本の角が生え黒々としたオーラを放つナナだけだった。




