第23話
炎を纏った巨大な鳥は俺達の頭上で羽ばたきながら、俺達を見下す様に首を下ろす。
『我の縄張りで何をしている!』
「お前は?」
『頭が高い! 我は魔王、不死魔王リーリャン! 殺されたくなければ金品全てを置いていけ!』
「黙れ! 邪魔しおってからに、ぶっ殺してやる!」
サクラはやる気満々に腕を鳴らしながら、リーリャンに喧嘩を売る。
「おっかしいでありますね?」
「どうした?」
「アホ毛が反応しないであります・・・」
ナナは緊張感無く自分のアホ毛を引っ張ったり、プルプルと振り回したりしている。
リーリャンの体がいっそう明るくなり、顔を天空に向けて上げる。
『消えぬ炎を食らえ!』
「ばう!」
リーリャンが炎を地面に向かって吐くと同時に、サクラが全力で吠え立てる。サクラの咆哮が音の盾となり、炎の中に安全地帯が出来る。
「とりあえず倒すでいいでありますね?」
「あぁ、とりあえず倒そう」
「とりあえずボコす!」
『とりあえずとりあえずって、我をオマケの様に扱うなー!』
炎の中を突っ切り、リーリャンが地面ギリギリを滑空する。リーリャンの体は熱を発しているのか、通った後の草原がまるで焼け野原の様に変わっていった。
『串刺しになれ!』
「ふん!」
リーリャンが鋭いくちばしでサクラに狙いを定めるが、サクラは軽々とそれを片手で受け止める。
そしてその顎を蹴り上げ、リーリャンは上空に跳ね飛ばされる。
「ナナ、我に合わせろ!」
「かしこまりましたであります!」
ナナとサクラが同時に飛び上がり、上空でリーリャンを滅多打ちにする。お腹側はサクラの打撃が、背中側はナナの大剣が同時に襲う。
「おらぁ! お前様、打ち上げてくれ!」
「了解!」
俺は殴り飛ばされたリーリャンの真下に素早く移動し、反転を使ってリーリャンをサクラのいる場所にまで打ち上げる。
「狼王咆哮重撃拳!」
サクラは自分の咆哮を拳に纏わせ、それで思い切りリーリャンを殴った。地面に打ち落されたリーリャンは地面にめり込み、振動が地面を揺らし周囲を崩壊させる。
「どうよお前様! ガルガンチュアの様な硬い皮膚を持つ魔物もこれでぶっ壊せるって寸法よ!」
「音波で振動する拳かぁ・・・よく考えたな」
「とりあえず首を跳ねておくでありますね〜」
ナナがリーリャンの首に手を掛けようと近寄る。その瞬間、リーリャンの体が炎に包まれ灰になってしまった。
「熱っ! さっきよりも熱いであります!」
「気を付けろ、まだ何かあるぞ!」
『ふ、ふざけやがってぇ!』
炎の中からリーリャンの声が聞こえる。灰が炎の中に吸収され、その中でまた形を成していく。あっという間にリーリャンは復活してしまった。
『我をおもちゃの様に弄ぶとは何たる無礼! 焼き尽くしても殺し足りん!』
「何おう! 貴様が弱いのがいけないんだろうが!」
『・・・! 我は魔王だ! 不死魔王リーリャン! 七大魔王の一角にして最強の魔王なり!』
「もっぺんぶっ殺す!」
サクラが飛び上がり、炎の中に突っ込む。そして再生したばかりのリーリャンの首を引っ掴み、思い切り拳を叩き込んだ。くの字に曲がったリーリャンの首から、絶命を文字にしたような音が出る。
『まだ、死なぬ!』
「なに!」
傷口は炎に包まれ、一瞬で再生する。その傷口を掴んでいたサクラも炎に包まれ、思わず飛び退く。
『我は死なぬ! だから金品を置いていけ!』
「炎に包まれてるならナナの出番でありますね!」
ナナは大剣を担いでリーリャンの頭をぶった切り、地面に落ちたその首をミンチを作るようにギタギタにした。炎が上がる度に大剣を振り下ろし、再生を阻害する。
『まっ!』
「えい!」
『ちょっと!』
「とぅ!」
『おねが!』
「やー!」
『待って!』
「それ!」
リーリャンは何かを言おうとしているが、その度にナナに頭を潰され言葉がブツ切りになる。
「なぁ、なにか言おうとしていないか?」
「え? どうせ金出せ、魔王だぞーの一辺倒でありますよ。手の込んだ盗賊討伐も、勇者の仕事であります」
「この手の魔王を騙る輩も久しいなぁ。最も、この程度の強さでは魔王など遠いも遠いがな」
ナナが大剣を振り下ろした際に火の粉が舞い上がり、俺の体に降り注ぐ。その火の粉から人型が再生し、俺の首に手を掛けた。
「おい! 動くな!」
「お前様!」
「動けばコイツを殺す!」
人型を取ったリーリャンは俺を抱き寄せ、首に強く手を掛ける。背中に柔らかい物が当たっている。
「なぁ、落ち着けって」
「黙れ人質の分際で! お前のツレはどうなっている! 《《僕》》の事をなんだと思ってるんだ!」
「僕?」
「わ、我! 我だ! 黙れ黙れ黙れ! うるさいうるさいうるさい!」
癇癪を起こす様にリーリャンは俺の首を締めようと力を込める。その瞬間、俺は腕を後ろに回しリーリャンの体に触れた。
「【反転】」
「おわっ」
ふわりと浮き上がったリーリャンは俺を手放し、俺は浮き上がったリーリャンの腕を持って地面に叩きつけた。
「ぐはっ!」
「突然体が浮き上がったら、何が起きたか把握出来ないだろ」
地面に叩き付けられたリーリャンは白目を剥き、ピクリとも動いていなかった。
リーリャンの体はモデル体型の様で、月明かりに照らされ胸に影が出来ていた。
「とりあえず縛っておくか」
「そうでありますね、復活されると炎を撒き散らされて厄介でありますしね」
ナナは手馴れた様子でリーリャンをぐるぐる巻きにし、地面に転がした。
「それで、知り合い?」
「まったく知らん、我こんな奴見た事もない」
「魔王センサー反応なし?」
「ないでありますね、今も主様の方を向いているであります」
確かにナナの言う通り、ナナのアホ毛はサクラの方を向いていた。一番距離が近いにもかかわらず、リーリャンにはピクリとも反応していない。
「だが不死魔王には覚えがある」
「本当か?」
「あぁ、今思い出した。そんな名の魔王がいるという話だったか」
「それじゃあコイツはどこかからその話を聞きつけ、自分を不死魔王だと偽って金を巻き上げていたチンピラって事?」
「言い過ぎじゃあないかなぁ、キミ達・・・」
いつの間にか目を覚ましたのか、リーリャンが口を開いた。
ナナが大剣をチラつかせると、リーリャンは大人しく小さくなった。
「改めて僕の名前はリーリャン、見ての通りフェニックスだ」
「見て分かるか?」
「不死鳥って奴でありますね。貴重な魔物と聞くでありますよ」
「それでその不死鳥が何故魔王なんて嘘を?」
「魔王の名を騙れば箔がつくからね、金を巻き上げるにはちょうど良かったのさ」
リーリャンは格好をつけるように、赤い短髪を靡かせキメ顔を作る。だがサクラが拳を鳴らした瞬間大人しくなる。
「どうして金を巻き上げていたんだ?」
「それは・・・ちょっと事情があってね・・・」
「まぁとりあえずここに出る魔王の正体は分かった。偽物の魔王でした、はいおしまい。それで、どこで不死魔王の名前を知った? 本題はここからだぞ」
「それは・・・」
リーリャンは次の瞬間口から炎を吐き出した。
俺の口の中に何かが飛び込んでくる。慌てて吐き出すと、ちぎれたリーリャンの舌だった。
「コイツ舌を噛み切りやがった!」
「はははははは! さらばだ馬鹿共め!」
あっという間にロープを焼き切り、リーリャンは再び鳥の姿になって飛んで行ってしまった。
「追うぞお前様!」
「あぁそうだな、地図によると・・・」
俺は地図を広げてリーリャンが飛んで行った方向を確認する。
「レニィの街っぽいな」
『なら乗れ! 一晩で走りきってやる!』
「追撃戦であります〜!」




