第24話
俺達は上空高く飛ぶ炎の軌跡を追って、草原を駆けていた。サクラはもうかれこれ一時間は走りっぱなしで、息も上がってきているようだった。
「サクラ、一度止まれ」
『あと少しだ! もう少し我慢しろ!』
「違う、サクラが限界だ。ここ数日の疲労も溜まってるだろう」
『ぐぬぬ・・・』
サクラは反論もせずに速度を落とし、やがて立ち止まった。改めて地図を見るが、やはりリーリャンはレニィの街に向かっている様だった。
「ここから歩けば朝方にはレニィに着くだろう」
「もう歩けん! おぶれ!」
「はいはい」
俺はサクラを背負い、荷物をサクラの尻に固定した。ナナと道を歩き続け、朝日が昇る頃。
「あれがレニィの街であります!」
「へぇ、立派な物だな」
中華風の意匠が施された建物が立ち並ぶ、巨大な要塞都市が現れた。あちこちから煙突が立ち並び、煤けた雰囲気が漂ってくる。
「ナナは来た事があるのか?」
「はい! 魔族連合国の中でも有数の巨大都市、幼い頃商人の父に連れられ何度か訪れたでありますよ!」
「なら早速入っちまうか」
俺達は街の入口を見つけ、手続きを踏んで街の中に入る。鉄の壁が街を囲み、周囲を威嚇する様に砲が外を向いていた。
街の中の雰囲気も中々アングラで、どこもかしこも路地裏の様な薄暗さと空気を纏っていた。
街の住民はほとんどがフードやマントを纏っていて、顔と言うか目元を見られないようにしている装飾品を付けている人が多かった。
「どうしてみんな目元を隠すんだ?」
「魔族は目が特徴的でありますから、目の特徴だけでどこの部族か分かってしまうのであります。すると因縁のある部族同士だったりすると抗争が起きる可能性もあるので、隠すのがマナーって感じに習慣付いたでありますよ」
「俺達も隠した方がいいか?」
「外から来た人や、そういう因縁がないなら問題ないであります! あだっ!」
ナナはよそ見をしながら歩いていたせいで、人にぶつかってしまった。サングラスを掛けたその人物はよろつき、俺が咄嗟に支える。
「大丈夫ですか?」
「あぁすまないね、僕とした事がうっかり・・・」
俺とバッチリ目が合った。
そのキラキラと炎の粉が舞う様な瞳には、その整った顔付きには、その豊満な体には見覚えがあった。
「それじゃあ僕はこれで!」
「おい」
その人物は踵を返し逃げようとする。だがその腕を、俺に背負われていたサクラが手を伸ばして捕まえた。
「おいおいおいおい、どこ行こうっての?」
「あわわわわわわ」
「お、昨夜の不死鳥でありますか」
「ひぃぃぃぃぃぃ」
「とりあえず、怪我は無いか?」
「か、勘弁してください・・・」
リーリャンは涙目になって俺の腕に縋る。一番話が通じると思ったのか、俺の目を見つめながらその場にへたり込む。
「とりあえず落ち着ける場所に行こうか」
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俺達は旅人向けの宿屋に向かい、その一室を借りた。椅子にリーリャンを座らせ、対面には俺が。部屋の出口になりそうな場所はサクラとナナが立ち塞がっている。
「ひどいことしないでください・・・」
「しないしない、抵抗しなければね」
「はいぃ・・・」
リーリャンはすっかり大人しくなって、椅子にちょこんと座っている。足など震えていた。
「とりあえず名前を聞いても?」
「り、リーリャン・イ・フェニクス」
「ふむふむ、俺達の聞きたい事分かるかな?」
「わ、分からない・・・です」
「ふむ、俺達は魔王を探して旅をしてるんだ。そこでキミの情報を聞いた」
俺は軽く説明し、リーリャンに理解を促した。リーリャンは何度か頷き、俺に目を合わせた。
「魔王に関しての情報・・・ですか?」
「その通り。どこで聞いた? 誰から? どんな些細な事でもいい」
「ちょっと待ってくれ・・・そうだな、どこで聞いたかだが、冒険者達の噂話さ。僕はこの街で情報屋をやっていてね、その仕事中に手に入れた情報だよ」
「情報屋か・・・他に情報は?」
「この街の近くで、雨の日に現れる魔物がそう名乗っていた。僕が知ってる情報を纏めるとそんな感じかな」
「信憑性は?」
「僕が不死魔王を騙り出す前の情報だから、噂話程度と思ってくれ」
リーリャンは口が回ってきたのか、それとも緊張が解れたのか話し方に格好が付き始めた。
しかしその調子付きも、サクラの一唸りで息を潜めた。
「コラ、サクラ。すまないね」
「ご、ごめんなさい・・・」
「そうだな・・・その雨の日に現れる不死魔王について情報を集める事は出来そうかな?」
「え? ま、まぁ可能ではあると思うけど・・・数日は掛かりっきりになる、かも?」
「構わない、確実な情報を集めて来てくれると助かる」
「正気かお前様! こんなふにゃふにゃの奴に頼むなど!」
サクラが怒鳴り、リーリャンを睨み付ける。
「落ち着いてサクラ、俺達には何も手掛かりがない。それにこの街は閉鎖的に思える、部外者の俺達じゃ得られない情報も多いだろう」
「なるほど、だからちょうどいい駒を使うって訳でありますね?」
「駒じゃない、正式な依頼だ。まともな情報屋なら対価は支払わなきゃね」
「そんなのコイツの首を何度も落とし続けて、従うまでやれば同じ事であります!」
「発想が野蛮! そんな事しなくても受けてくれるよね?」
「わ、分かった! その依頼引き受けよう、報酬は後日改めて伝える」
「契約完了、よろしくね」
リーリャンはそそくさと部屋を出て、俺達は一息ついた。
「我はナナの発想に賛成だがなぁ?」
「いや、あれは演技であります」
「あぁ、よく合わせてくれたな」
「へへーん! ナナは賢いでありますからねぇ!」
「そうなのか? いいアイデアだと思ったんだがなぁ・・・」
サクラは一人疎外感を感じたのか、尻尾を足に巻いて不満気な顔を浮かべた。
「とりあえずはリーリャンの報告待ちだ、しばらくは街でゆっくりしようか」
「わーい休暇でありますね〜!」
「長旅の疲れを癒すとするか」
「自由行動だが、あまり羽目を外しすぎないようにする事。それと喧嘩や騒動なんかの目立つ様な事はするなよ、トラブルはゴメンだ」
「やむを得ない喧嘩は?」
「しょうがない、死なない程度にな」
サクラはガッツポーズを浮かべ、天を仰いだ。これからサクラに喧嘩を売る人が可哀想だが、自業自得だ仕方あるまい。
「早速出かけてくるぞ!」
「じゃあナナも少しお買い物に行ってくるでありますね〜」
「夜までには帰って来いよ!」
サクラは窓から飛び出し、ナナは部屋の出入口から出て行った。俺は一人取り残されたこの部屋で、一人ベッドに寝転がった。




