第16話
天井に開いた穴からは、さっき倒したばかりの岩人間が大量に降り注いできた。
「走れ走れ走れ!」
「撤退であります!」
「こっちだ!」
サクラが俺達が入って来た入口をこじ開ける。俺達はそこに飛び込み、来た道を全力で戻る。背後からは岩同士がぶつかる様な音と、溶解液が地面に滴る音。そして大量の岩人間が追ってきていた。
「このパターンだと・・・!」
「ナナ!?」
ナナが登り坂で急に立ち止まり、壁を大剣で殴りつけた。ひび割れた岩壁からは溶解液が染み出し、壁は一瞬で崩落する。開いた穴から溶解液が溢れ出し岩人間達を一瞬押し止める。
「こっちであります!」
「さっきまで分岐なんて無かったぞ!」
ナナが先頭に戻り、分岐路をスイスイと進んでいく。ナナの通る道に間違いは無いように、どんどんと地上に近くなっているのが体感で分かる。
「次は!」
「左でありま・・・!」
壁から染み出すように岩人間が現れ、俺達の通路を塞いだ。ナナは一瞬迷った様な顔を浮かべるが、すぐに顔を上げ右に進んだ。
「おい! さっき左って!」
「こっちであります! 着いてくるであります!」
ナナは所々で壁や天井を切り付け、溶解液の濁流で岩人間達の足を遅くしながら進み続ける。
だがさっきの分岐路から一転し、俺達は下方向に誘導されていた。
「どんどん下に下がっているぞ!」
「もう少し先であります!」
そう叫んだナナが急に足を止める。何事かと先を見ると、行き止まりになっていた。
「ど、どうする」
「少しばかりお時間を頂ければ!」
「よっしゃ、やるぞお前様!」
サクラは意気揚々と爪を構え、岩人間達に突進していった。一瞬で数体の岩人間を細切れにするが、倒された分が次から次へと湧いて出てくる。
ナナは壁を触りながら大剣を突き立て、何度も同じ場所を切り続けている。
俺も覚悟を固め、サクラの傍に飛び込んだ。
「サクラ!」
床から伸びてサクラの足を狙う腕を蹴り飛ばし、近くの岩人間を投げ飛ばす。
サクラと呼吸を合わせ、近寄ってくる岩人間達を次々と迎撃する。
「コイツら・・・死なない!」
「落ち着けサクラ、壁や天井から引き剥がして砕け! そうすれば死ぬ!」
岩人間を打ち上げると、サクラは即座にその頭を握り潰した。
「本当だ! 流石はお前様、いい目をしている!」
「俺が打ち上げる、サクラが砕け!」
俺は次々と岩人間達を打ち上げ、サクラは次々とその体を破壊していく。三年の修行の内で、俺達の呼吸は阿吽レベルまでまで揃っている。
「開いたであります!」
ナナが大きな声を上げる。見ると壁に大穴が開き、真っ暗な暗闇が見えた。
「ここに上昇気流があるであります! これに乗って地上まで逃げるでありますよ!」
「分かった、サクラ行くぞ!」
「おう!」
サクラの手を引き穴に向かって飛び込む。ナナの言う通り穴の中は上昇気流が吹き荒れており、風は俺達の体を持ち上げた。
凄まじいGが掛かる中、微かな光が俺達を照らす。勢い良く打ち上げられた俺達は花火の様に、もうすっかり暗くなっていた夜空に放り出された。
「地上であります!」
「落ちる!」
『我に任せろ!』
狼の姿になったサクラが俺とナナを回収し、地面に着地する。場所はダンジョンのある山の山頂付近で、下の方に俺達が朝居た街が見えた。
『このまま街に戻るぞ!』
サクラが走り出すと同時に、俺達が通って来た上昇気流に乗って岩人間達も山から吹き出す。
「追ってきやがった!」
「いや、様子がおかしいであります!」
打ち上げられた岩人間達は急速に形を失い、ただの岩石となって山の斜面に打ち付けられる。バラバラの岩となって転がり落ちるその姿には、どこにもさっきの岩人間とは思える要素が無かった。
「ダンジョン内でしか生きられないのか」
「とりあえず危機は脱したでありますね」
粉々になった岩人間達から流れ出た溶解液は蒸発し、煙となって天に昇っていく。それが俺にはまるで、魂の様に見えた。
『おわっ』
「揺れてる!?」
「なんでありますか!」
その瞬間、山全体が鼓動し出す。ダンジョン内で感じたものと同じ揺れだが、それよりも大きく強い。
俺達の足元で、ダンジョンの内部で、何かが動き構造が変わっているのが振動で分かる。
俺達が通って来た穴から、また何かが放出される。月光に照らされたそれは、大小様々な岩石だった。
『降ってくるぞ!』
「サクラ、直撃するのは俺が何とかする! 街に向かって走ってくれ!」
サクラが山の斜面を滑り落ちるように駆け下りる。岩石は俺達の頭上を飛び越し、街に向かって降り注いでいた。
「来たであります!」
「【反転】!」
俺達に向かって落下してきた岩石を、反転で吹き飛ばす。街には既に岩石の第一波が届いており、阿鼻叫喚の事態となっていた。建物に直撃した岩石は屋根を貫き、支柱をへし折り倒壊を招いていた。
『どうするお前様!』
「サクラ、大声で警告を放ってくれ」
『我の姿を大衆に晒す事になるぞ』
「人命には変えられない、頼む!」
『分かった!』
サクラはその場で立ち止まり、大きく息を吸い込んだ。
『まだ岩石が落ちて来るぞ!!! 山から離れろ!!!』
サクラの大声は遠吠えの様に風に乗り、街の隅々に響き渡った。街にいる人々は一気に建物の外に飛び出し、岩石を見て避難を始めた。
俺達はダンジョンの入口側まで滑り降り、そのまま街の中に入った。
その時、岩石の第二波が山から吹き出した。
「ナナ、俺を投げ飛ばせ!」
「えぇ!? なんででありますか!?」
「あの岩石だけ大きい! このまま行けばギルドに直撃する!」
「わ、分かったであります!」
ナナは俺を担ぎ、槍投げの様にギルドの屋根上目掛けて投げ飛ばした。
俺はギルドの屋根の上に着地し、落下してくる岩を見て目測を定める。
「大事なのはタイミング、大事なのはタイミング! 修行を思い出せ!」
ギルドを丸々ぶっ潰せる程の大きさの岩石が目前に迫る。俺は腕を突き出し、岩石を待ち構える。
「ッ! 【反転】っ!」
岩石が俺の手の平に触れた瞬間に反転を発動させる。巨大な岩石は弾かれる様に山の方に吹き飛び、小さな岩石を砕きながら山の斜面にぶつかり止まった。
「あの大きさの岩石を、いとも容易く・・・! 凄いであります!」
『流石は我の番だな!』
騒ぎを聞き付け、冒険者ギルドから出てきた冒険者達はサクラの姿に驚く。
『早う避難しろ! 馬鹿者共!』
サクラの一喝でまた群衆は動き出し、岩石を避けながら山から離れる。
「何があったんですか!」
「エルサさん!」
俺はギルドの屋根から飛び降り、ナナに受け止めてもらう。
「ダンジョンの様子がおかしい、今すぐ避難を!」
「分かりました、避難勧告を出します!」
街に鐘の音が鳴り響き、避難を勧告する。
俺達は逃げ遅れた人達を守りながら、山の様子を見守っていた。
そうしているうちに、朝がやって来た。定期的に吹き上がる岩石は止まったが、街の方は壊滅的な被害を被っていた。




